ノエルの本気
この国の第一王子カイルと男爵令嬢マリアが薔薇園で手をとりあっていた。
それを陰から見ていた者がいた。
「はぁ、、、」
本日何度目かのため息をつくノエル。
(見せつけたかったのか?呼びだしておいてあれはないわ。マリアも嫌がってたようにみえたけど。カイル、恋愛初心者だからな)
実際二人は仲良く手をとりあっていたのではなく、「恋、恋」と、すぐにふらふらと茂みへと誘われてしまうマリアをカイルが捕まえていたというところだったが。
「はぁ」
公爵家嫡男ノエルはマリアを諦めたつもりでいたが、カイルとマリアの二人が一緒にいる姿を目の当たりにして、自分の気持ちにしたはずの蓋が外れかかっていた。
俺は本当にマリアが好き、、、なのかもしれない。
ノエルはカイルにマリアを譲った手前、今更マリアが好きだとは言えない。もちろん一国の王子の婚約者に手は出せないし、カイルは親友だ。こんなことならマリアを譲るんじゃなかったと思う日々が続いた。
ため息の増えたノエルは公爵家の使用人達に恋煩いだ、相手はあの令嬢かなどと、また賭けの対象にされていた。
カイルはマリアに対してほのかな恋心を感じているものの気持ちをはっきりとは伝えてはいない。少しずつ距離をつめようと王宮に呼んでは庭を散策(覗きなし)したりお茶をする時間をつくっていた。
マリアにしてみたら「ただ散策するなんてもったいない、ちょっと一人にしてくれないかしら、カイル殿下邪魔。せっかく薔薇園にきてるのに収穫ゼロって、、、」である。収穫どころか恋愛感情ゼロ。
仲良くやっていたようにみえたカイルとマリアに亀裂がはいる。
「お前の事は最初から気に入らなかった。婚約破棄だ!」
「本当ですか!?」(ありがとうございます!)
カイルのことは嫌いじゃなかったが今更婚約破棄は出来ないだろうなと諦めていた。まさかの本人からの破棄宣言にマリアは本気で喜んだ。(私は自由だ!)
こうなってしまった理由はマリアがカイルを庭園で待っている際、どうしても続きが気になって仕方ない本を持ち込み、物語に引き込まれるあまり主人公のセリフを声に出して読んだことだった。
カイルが「今のはどういうこと?」と聞けば笑い話ですんだはずなのに。
『ライアン様、やっぱりわすれられないのです。婚約なんてしたくなかった。今すぐあなたの元へ行きたいのに、、、』(騎士ライアンとファミリア姫の純愛物語より)
本に没頭し、主人公ファミリア姫になりかわったマリアは舞台女優顔負けの心のこもった名演技を見せた。
カイルは見ず知らずどころか実在しない本の登場人物に嫉妬したのだ。
カイルに呼び出されたノエルは婚約破棄の理由を聞いて、何かの間違いじゃないかと止めるが無駄だった。すぐにどうこうできるわけじゃなかったが、このままいけば破棄となるかもしれない。マリアと婚約破棄さえすれば、、、なとど少し邪な考えは浮かんだが側近としてカイルが心配であったしなんとかしようと行動することにした。
しかし、マリアのほうも破棄に異論はないようだった。知らないうちに婚約者にされてしまったことを未だに根にもっていたからだ。
そして禁断の恋探しが趣味のマリアの心にも変化があった。純愛ともいえる恋をした相手との婚約で、親友ミラの幸せそうな笑顔に魅せられた事と、沢山の恋愛本を読んでいるうちに自分も恋愛がしたくなった。
カイルは顔もいいし、地位もある、もちろんお金も。世の女性が憧れるような結婚相手だ。ただマリアはカイルをいい人だとは思うがこれが恋愛感情かと言われたらわからない。禁断の恋は読んで見てたまに想像(妄想)して楽しむもので、自分がするものは純愛だと。純愛の定義が分かってないので本から得た情報からとりあえず身分差のあるカイルは禁断の部類に入るなと思って除外していた。
カイルの説得は諦めて、まだ庭をある意味楽しんでいるだろうとマリアを探し始めたノエル。案の定、茂みにしゃがみこんでいるマリアを見つけた。(たぶん禁断の恋鑑賞中)
マリアのことだから何かやらかして勘違いさせただけだろうし、カイルも初めてともいえる気持ちをうまく対処出来てないだけだろうと深く考えてはいなかった。「こんなことになった原因は何だったの?」と聞くためにマリアへと一歩踏み出した。
「恋愛したいな」
ノエルは蓋をしたはずの気持ちがあふれだすのを感じた。
マリアのつぶやきにノエルが本気を出す。




