序章 『THE・プロローグ』
ある国に一人の王がいた。
彼は生まれつき体が弱く、武術や魔術の才が人に劣っていた。
だが、そのかわりに彼は人一倍の優しさを持っていた。 どんな者も決して憎まず、羨まず、妬まない。 そしてすべての人々を平等に愛する。 それこそが王に必要なことだと彼は信じて疑わなかった。
そんな王に国民も魅了され、感化されていった。 そしていつしかこの国は世界一平和な国と呼ばれるようになっていった。
しかし、平和は永久には続かない。
しばらくすると、争いのないこの国に兵士はいらないという王の考えから、軍事力が縮小されていった。
そんな国を他国が見過ごすわけもなく、次々と他国の兵が街に流れ込んできた。 だが王はどうすることもできず、ただいたずらに殺されていく国民や、侵略されていく街を城の窓から見つめていた。
そんなある日、王の城に他国の兵が攻め入ってくる。 だが王はそれでも何もせず、ただ静かに見つめていた。 息子が目の前で殺されるまでは……
王は泣きわめいた。 目の前で命を落とした息子を見て。
王は初めて人を妬んだ。 自分にはない武力を羨んだ。 そして何もできなかった自分を恨んだ。
王は走った。 それは罪を償うためか、忌まわしい記憶を薄れさせるためか、死を恐れてか。 どれも違う。
王は力を求めたのだ。 誰にも負けない、何も失わない、そして本当に人々を愛するため。
そのために王は走った。 走って、走って走って走って走って、足の皮がむけ、喉が焼けただれ、意識が朦朧としても走った。
そして限界を迎え、地面に崩れ落ちた。
王は川のほとりにいた。 見たこともないくらい透き通った美しい川だった。 王は川の水を飲んだ。 なんだか甘くておいしくて、いつまででも飲んでいられそうだった。 すると川の向こうで国民のみんなが手招きをしていた。 王はなんだか嬉しくなり川を渡ろうとした。 その瞬間、向こう岸で息子がこっちに来るな、ダメだ、来ちゃだめだとしきりに言ってきた。 不思議に思い理由を聞こうとするとパッと視界が暗くなった。
「おはよう」
見慣れない顔が覗いている。
なんだか夢を見ていた気がするのだが上手く思い出せない。 思い出そうとがんばっているとまた声をかけられた。
「……おはよう」
美しい少女だった。 金色の髪に整った顔立ち、赤色の瞳はなぜか視線が吸い寄せられる。
「魔王に……なりませんか?」
突然すぎて理解するのに時間がかかったその言葉は、後に僕の人生を大きく変えることになる。 だが今はそんなことは知らずにただ唖然としていた。
「魔王……ですか?」
たしかに魔王は数千年前はいたと聞いたことはあるけど、たしか異世界からきた勇者に封印されたんじゃなかったっけ。
「はい、魔王です――」
「じゃあなります、魔王」
行くあてもなくただ彷徨っていた自分を拾ってくれるなら何でもします。
その後、魔王になる手続きや説明、メリットなどを聞き、かくして魔王になったのである。
そういえばなんで行くあてがないんだろう? まあそのうち思い出すか。
To be continued……
実はフォークとスライダーの違いがわかりません。
来世は三番バッターでショートを守りたいです。