1 ティータイム
「ミアレ姫」
呼ばれた少女は振り返った。
声を掛けたのはミアレの母・アメリの執事だ。
名前なんかとっくに忘れたけど。ミアレは心の中でその執事を睨んだ。
「お茶の用意が」
その執事は、白髪に夏だというのに長袖の黒いタキシード、金縁メガネのおじいさんで、微笑みを絶やさない。執事とミアレの、太陽と氷のようなまなざしが交差する。
「まあーーーーーーーーー」
先に口を開いたのはミアレだった。
「別によくってよ、おじいさん?で、お茶はどのようなものかしら。」
「ハーブティーに、お菓子をご用意致しました。」
なんてつまらない執事なの。ミアレはため息をついた。ハーブティーは昨日飲んだし。執事の顔は微笑を浮かべたまま。まるでマネキンのよう。
「いいわ、わかったわ。お母さまの部屋よね。ええ、ええ、今行くわよ。もちろん着替えるわ。わかったら、おじいさんは早く帰ってくださる?」
諦め気味で、薄いレースの白いワンピースの裾が揺れた。椅子の音がガガガと響き、その重さが表れているよう。
執事は戸を開け、姫を通した。
「ミアレ様…」
ミアレは14年前、エイリーンという国の王・ケリウスの娘として生まれた。
ミルクティー色のカールした髪。本人は切ることをしぶるが、毎年、評判の床屋が呼ばれてきっちり肩の20㎝下でカットする。
彼女はこんな決めつけられた「自由のかけらもない」生活に飽き飽きしていた。
友達は数人いる。そのうち半分はうわべだけの付き合い。国とお金のためだけの。