お菓子教室
樹さんが最近お菓子づくりに凝っている。
月に一回東京の樹さんの部屋に遊びに行くと手づくりのお菓子で接待される。
まあ、そのお菓子の色合いの美しいこと美しいこと。
難しいだろうに…
マカロンなんて絶妙なパステルカラー。
よく七色も作ったな。
う〜ん、いつまでも眺めていたい美しさ。
チョコレートケーキもスポンジにかける三種類のチョコレートソースでグラデーションができている。
サイコロ状にに切ったスポンジに艶のあるチョコレートソースかけてちょこちょこちょっと金粉のせて銀のお皿に乗っている。
これが美味しい、どこか懐かしい味がして。
でも…私樹さんがお菓子作りを初めてからの変化が少し気になる。
着ている服の色が地味になったような…
この人いつも鮮やかな色を好んで着ていたのに今日なんてグレー着てるよグレー。
なんとなく気になっているんだよね、樹さんが通ってる月謝の高いお菓子教室のホームページで見た写真。
巻き髪の美女に囲まれていた樹さん…
まっさか浮気とかしてないでしょうね…
お菓子教室のお姉さんなんかと。
私は樹さんと同じ会社で知り合った。
おもちゃ会社の地方工場で。
今は樹さんが東京本社の女玩事業部勤務になってしまったので職場は別。
最初はこの人、あんまり好きじゃなかったんだけど、おばさん臭いと言われ男性社員に人気なかった新入社員の私をこの人だけがふざけてちやほやしてくれた。
で、ちやほやされているうちに情が湧いてきて結局お付き合いすることになった。
付き合えば付き合うほど変な人って思う。
派手な色の服ばっかり着てたし。
ほんと、個性的な色彩感覚してんだよね。
ただこの人には独特の優しさがある。
それに樹さん性格少し変っているけど、背が高いし頭小さくて黙っていれば色気のある大人の男の人に見えちゃうんだよ。
黙っていれば。
なんだかやだなあ。
あの写真に危機感を覚えちゃうよ。
お菓子教室に通ってる女子なんて婚活女だろうし。
「ヨネちゃんケーキにフォーク刺したまま、なに固まってるの。…大丈夫、浮気とかしてないよ」
「え…なんで…」
「ヨネちゃんの考えてることが読めるようになってきた。
妄想癖があるよね」
「だけど樹さん最近変だよっ、地味な服着てるし。
だいたい和菓子党じゃん、なんでケーキとか作ってんのっ。
どら焼き作りなよっどら焼!」
驚いたことに大声と涙が出た。
しかも言ってることはただの因縁。
やだどうしよう、自分が思っている以上に不安が溜まってたみたい。
樹さんもちょっと驚いている、
「ヨネちゃん俺と結婚はしたくないけど浮気されるのはいやなんだ。我儘だな」
樹さんも飛躍したことを言い出した。
その言葉に刺激されて「うぉんうぉん」と声を出して泣いちゃった。
樹さんに泣き顔見られたくなくてダイニングテーブルに突っ伏す。
そしたらポンポンと頭をたたかれた。
で、顔をあげたら口の中に小ぶりのマカロンつっこまれた。
え…
しょうがないからシャクシャク食べて飲み込みまた泣いた。
そして再び泣いた。
「おお〜ん」
そしたらまた開けた口にマカロン入れられた。
う…美味しいコレ少し塩味がきいていて…
ああ、私の涙の味か。
見れば樹さん次のマカロン持って私が口を開けるのを狙っている。
これ以上泣けない、太っちゃう。
ひくひく言いながら泣き止む。
泣き止んだ私は逃亡の末刑事に捕まった犯人みたいに樹さんに肩を抱かれダイニングからリビングに連れて行かれてソファーに座らされた。
樹さんお気に入りの黒の革のソファー。
樹さんも私の隣に座る。
そしてこの人らしくないすごく静かなトーンで話し始めた。
「仕事のことでちょっと行き詰まってる。女玩は、苦手。
アニメのキャラクターの持ち物なんかが定番だけど、それ以外の玩具の開発を求められている。
けど女の子が喜ぶような新しい玩具のアイディアが浮かばない。
大人女子を狙った商品ならどうだろうと思った。
大人になった男が子供のころ買ってもらえなかったロボットの玩具を大量に買うように、大人の女に子供の頃の憧れを思い出させるような物。
たまたま見た、戦争の記録映像の中に出てきたヨーロッパのブリキのままごとセットが夢のように可愛かった
大人向けのレトロなデザインの高額のままごとセットを出そうかとも思ったんだけど…
女は現実的だし実際の調理器具で可愛いデザインの物があるから普段それを使うことで満たされている層も多い。
お菓子教室に通ってそう思った。
あそこに来ている娘たちは金を持っていても買わないなと」
驚いた。
こんな真剣に仕事のこと話す樹さん初めて。
しかもちょっと泣き言入ってる。
ひらめきの人が壁にぶち当たってちょっと落ち込んでたんだ…
「樹さんバカ…
そんな月謝の高いお菓子教室に通う巻き髪の女なんてリサーチの対象になんかならない。
レトロなままごとセットきっとリアルが充実してない層が買う。
今充実してない人間が過去にこだわる。
高い商品金持が買うとは限らない」
なんか変な外国人みたいな話し方になっちゃった。
「二万ぐらいでも?」
ひゃあ、高いな…
「商品の素敵さによる」
そういったら樹さん寝室からスケッチブック持ってきてデザイン画を私に見せてくれた。
わあ…素敵…この上品な色使い。
でも二万?
「すごく素敵。玩具ショーに出せばマスコミに取り上げてもらえるよ」
「ヨネちゃん、買う?」
「買わない」
「ハハッ、ヨネちゃんリアルが充実してるんだ」
「…」
揚げ足とって…
「今日グレーを着ているのはお菓子の色を引き立てたいと思って。
お菓子作りにハマっちゃったのは色合いが綺麗だから」
グレーの服は七色のマカロンとのコーディネートでしたか。
…根っからの芸術家ですね。
今日の樹さんやだ。
ちょっと弱気だし。
なんかふつーの人に思える。
これじゃあ巻き髪美女に狙われちゃうよお。
早くいつものふざけた変な樹さんに戻って。
はぁ…、私も変な因縁つけたの謝らなきゃ。
でもなんかごめんなさいって言いたくないな。
私を不安にさせたこの人が悪い。
樹さん、無言でぎゅうっと手を握ってきた。
口の端が少し上がってる。
この雰囲気…私が詫びを入れるの待ってる…
仕方なしに
「あの…疑ってすみませんでした」
って渋々言ったら樹さんはぐりぐりと私の頭を撫でて
「ヨネちゃん可愛い、可愛い」と言った。
大女の私をこんな風に扱ってくれるのは後にも先にも樹さんだけだろう。
これ、私達のケンカ終了の儀式。
なのですが、この日はもう少しねちねちとヨネちゃんの尋問を受ける樹さんであった。
「ねえ、このマカロンお教室の人たちと作ったの?」
「うん」
「お教室の帰りにみんなでお茶したりする?」
「え…あーまあ」
「ふーん。月にどのくらい?」
「えっと…2回くらい?」
「ん?確かお教室月2回だよね」。
ってことは毎回帰りにお茶してるんだーお姉さんたちと」
「…」
おまけ漫画
支払い
シャンパンパーティ
お正月
実はヨネちゃん、学生時代の元カレのママと年賀状のやり取りがあるのです
ヨネちゃんと元カレのママとは仲良しでした
一緒にミュージカルを見に行ったりご飯をご馳走になったりしていました
元カレの浮気で別れた次の年にママから来た年賀状は無視しました
しかし次の年にもママから年賀状が来ました
律儀な性格ですので無視するのも失礼かと思いその年は年賀状を返しました
それ以降年賀状の交換が続いています
問題はいつも一筆元カレの近況が添えられていること
別に今はなんとも思っていませんが、年賀状を見るたびに、あ、短期留学したんだ、希望の製薬会社に就職できたんだと、思うヨネちゃん
今年の年賀状には元カレがスキーに行って骨折したことが書かれていました
別にそんなこと知りたくないし…
元カレの近況を知ってしまうことが、なんだか樹さんに悪いかなと思うヨネちゃんなのでした
ママとの年賀状交換辞めたい…
この後起きる喧嘩の話は『元カレのママとの年賀状のやり取りを辞めたい、今の彼に悪い気がするから』で
あとヨネちゃんは犬ではありませんが、この人の容姿がちっとも思い浮かばないので漫画では犬に代役してもらいます
体温
疑問
12歳からよねちゃんと付き合い始めた28歳までの間に年平均二人くらいの女の子と付き合っていたので32人
よねちゃんと一度別れて寄りを戻す間に、会社の広報の女の子と付き合っていた時期があったのでプラス1で33人
長続きしない人なのです
でも女の子は好きだし…結果として元カノが量産されてしまったのでしょう
ホワイトデー
樹よ、お主も悪よのう…
ちゃんとロク○タンのハンドクリームとリップのセット用意してあります
樹さんですが…
申し訳ありません
同じ絵が書けないのです…
登場人物は髪型でご判断下さい
余談ですが、蝋燭の三上さんは樹さんとコインの裏表
同じ容姿を思い浮かべて書きました
三上さんの方が痩せていていますが
あと髪型が違いますけど
ここからは『朝比奈麗子お菓子教室』の登場人物が出てきます
恐れ入りますが、『朝比奈麗子お菓子教室』をお読みになったあと読み進めてください
ご対面
樹さんもユーズドダメです
ヨネちゃんは全然平気
ご内密に
切ない
いつもは割り勘です
…この世の多くのことは早い者勝ちですからねぇ
ヨネピューター
随分旧式ですこと
過去があって今がある
自信満々
自分に自信があるって素晴らしいことです
責任
バカバカ
ヨネちゃんに無駄遣い大魔王と呼ばれている樹さん…
きゃんきゃん
五百円玉考
脱線している感がありますがもうしばらくすると話が動き始めます
チェック
再会
反省が行動の変化を生むとは限らないんだな、これが
議論
秘密
こだわり
撃退
好きだった人
悶々
ペットショップ真帆子
心の部屋
目覚め
樹さん、朝比奈麗子お菓子教室を辞める決心をしました
ポツン
ひいっ、真帆子さんたちがこの姿見たら泣いちゃうようっ
退会理由
お餞別
笑ってお別れしましょう
ハーレム
『お菓子教室』おわり
【ご挨拶】
お菓子教室をお読み頂きありがとうございました。
この漫画部分を追加する度に読みに来てくださった皆様(いると思いたい)このクオリティの低い絵に良く耐えて長くお付き合いくださいました。
週に一度追加することを優先させたので絵がとても雑になってしまいました。(特に後半)
ごめんなさい。
それでも読んで下さったこと、ありがたくありがたく思っています。
樹さんの心の部屋で一人ぼっちになってしまったプードルさんの話は『プードル女子物語』というタイトルで2月10日(金)から投稿する予定です。
引き続き読んでいただけるとうれしいです。
ほんとに最後までお付き合いいただきありがとうございました。
感謝感謝の川本千根でした。
『お菓子教室』とリンクしたと話を(樹さんと巻き髪美女の)『朝比奈麗子お菓子教室』(全四話)というタイトルで投稿してあります。
あと米ちゃんと樹さんが主役を務める『ぴょん子』という話も。
よろしければそちらもどうぞ。