高速に挑む君へ2
そして新しい身体を手に入れた私は、その身体に蓄積された記憶、知識を元に偽りの人生を送る事になる。
この繰り返しが、私の人生のほとんどだ。
もうどれほどの時間が経過したかわからないし、何度同じことを繰り返したかも覚えていない。
最初の頃は罪悪感もあったし、死期を回避しようと試みたことだってある。だが、私の感じ取る死期は絶対に逃れようがなく、また、一度逃げる事を覚えてしまった私に、自身の魂の消滅を受け入れる強さも無かった。
そうして私は、多くの人々の魂を生贄にしながら、自己の魂を今も生き長らえさせている。
「……ただいま」
身体に蓄積されていた記憶を元に、彼女の自宅へと辿り着いた。
「おかえりー。遅かったねー部活ー?」
帰宅した事に気付いた彼女の母親が、リビングから私に問いかける。
「……」
その問いかけに応じる事はなく、私はそのまま彼女の自室へと向かう。
これは私自身の判断ではなく、最近の彼女の家族に対する接し方だ。所謂、反抗期という奴だろう。
「もうご飯できてるからねー!お父さんが帰ってきたら降りてらっしゃい!」
いつものように、リビングからやや大きめの声が飛んでくる。
それにも応じる事はなく、自室のドアを開け、部屋に入る。
壁には好きなバンドのポスターが貼ってあり、所々に散らばった音楽CD、使い捨てられた美容グッズに、よくわからない小物が多数放置された、いかにも今どきの女子高生というような部屋だった。いや、どちらかと言えば片付けが苦手な部類の女の子なのかもしれない。
ベッド周辺が携帯電話の充電コードやら小物やらでひどく散らかっていたので、軽く整理して、ベッドに横たわる。
私が魂交換を行った日に必ず行っている、記憶の整理だ。
これをしないと、苗床にした新しい身体の日常に馴染むことができず、本当に最悪の場合、野外で生活するはめになる事もあるからだ。
いつものように目を閉じ、意識を集中して過去の記憶を探ろうと、緊張をほぐそうとしたその時。
――ザワッ
背後から尋常ではない違和感を感じた。
「――誰っ!?」
ベッドから跳ね起きるようにして、背後を振り向く。
そこには、三体の人型の影が立っていた。
知覚した瞬間、咄嗟に身構え、全身に緊張が走る。――これは、良くないものだ。
これは後日談ではあるが、これらの影は、影と見るよりは黒い折り紙で作ったペラペラの人型切り絵と見るのが正しい。
「……なに、これ」
身構えながら、この危機をどう乗り切ればいいのか必死で考える。
しかし、数えきれないほどの転生を行い、様々な知識や経験を得てきた私でも、さすがにこれは初体験だった。
「…………」
影達は一向に動く気配がなく、心臓の鼓動だけが全身を打つように強くなっていく。
こいつらは、こちらの動きを待っているのだろうか? ならばいっその事、ドアをぶち開けて一階まで転げ落ちたらどうだろうか、などと考えていたその時。
「あら、何してるの?」