ホワイトノイズ
顔がじんじん痛かった。指の先は燃えているみたいにぱちぱと弾けている。ごおごおと風吹が吹き付けてくる。どんどん体が重たくなって、だんだん生気は削がれていった。
調査隊のみんなとははぐれてしまった。まったくあのときカオリちゃんに告白したのが間違いだったんだ。カオリちゃんがぼくをフらなければ、ぼくは自暴自棄になってこの調査隊に志願しなかった。ライセンスを持っていたとしても今回の件はぼくには不釣り合いであることなんて、みんな以上にぼくが知っていた。なのに、ぼくは行方不明になった女の子を捜しにこの雪山へ来てしまった。そしてこのザマだ。
びゅうびゅうびゅう。目が焼ける。びゅうびゅうびゅう。雪が重い。びゅうびゅうびゅう。びゅうびゅうびゅう。
くそったれ。ぼくは叫んだ。声は吹雪に掻き消され、喉の奥ががらがら響く。痛い。節々が痛い。痛みのせいか、捜している女の子の顔も名前も思い出せない。ぼくはなんのためにこんなトコに来ちまったんだろう。視界がぐらぐらと揺れる。
カオリちゃんの顔が頭に浮かぶ。ちくしょうちくしょう。顔がぼやける。自分が泣いているかどうかも風吹のせいでよくわからなかった。ぼくはここで死ぬんだ。
そうだぼくは死ぬんだ。死ぬんだ。
しゃーしゃーしゃー。喉かどこかから変な音がする。それは雪山のなかでの人の泣き声なのかもしれない。しゃーしゃーしゃー。しゃーしゃーしゃー。
その音にばかり気を取られていたから、気づくのに時間がかかった。
気づけば風吹は止んでいた。
しゃーしゃーしゃー。ノイズのような。それはとても居心地の良い音だった。まるでなにもかもを打ち消してくれるような、真っ白な、ノイズだった。
立ち上がる。ばさばさと体に乗っかっていた雪が地面に落ちる。
落ちた雪と、誰かの影が重なった。見上げると、人がいる。
その人は裸足だった。そしてワンピースを着ていた。そんな恰好なのに雪に焼けることもなく、その人の肌は真っ白だった。雪女だ。直感的に思った。でも違った。
カオリちゃんだった。
「そ、そこでなにしてるの」
喉はがらがらのままだったけれど、声は出た。しゃーしゃーしゃー。静けさのなかで、ぼくの声が雪山に残響を作る。
「あたしね、行方不明になったの」
「違う。まさか、カオリちゃんは昨日ぼくをフったじゃないか」
「ごめんね。ごめんね。あたし死んじゃったから、フるしかなかったの」
しゃーしゃーしゃー。しゃーしゃーしゃー。
ノイズに混じって声がする。顔がじんじん痛かった。