笹野重五郎奇刀譚・豆腐之巻
笹野重五郎は万の刀を求め旅をしているしがない流浪の武士だ。今宵お見せするは其の旅の一端、豆腐の噺である。
ある夜、重五郎が夜道を歩いておると、後ろからさっと跫音が忍び寄った。金目を狙った人斬りか。重五郎は身を翻し、編笠地面に落として見るや、其処に居ますは無刀の男。手持無沙汰で何を企む。重五郎はキッと睨めつけ威嚇をするが、男は手を打ち律動刻む。
「Hey,You! はいノってるかーい? 今宵はBeatBeatパーリナーイ」
「な、何者か!」
見ると、男の両耳には栓がしてある。栓は首の後ろに回るようにして糸で繋がれており、其れがまた男の服の内に延びていた。男は重五郎の威嚇をまったく聞き入れず手を叩いている。
「曲者め、成敗してくれる!」
重五郎は愛刀・篠倉を引き抜いた。
「YOYOそなた、そなたの刀、鍔をつばっと豆腐にchangeぞ」
宵闇のなかで純白に返った愛刀の鍔が、瞬く間に光り輝いた。重五郎は顔を青ざめる。なんと、篠倉の鍔が豆腐に変わっていたのである。
「世界に平和を広めましょー。HeyYO 今宵はパーリナーイ。Yeahパーリナーイ……party night……」
男は徐々に遠ざかってゆき、そしてしまいに見えなくなった。
なんだったのだ。あれは。
夜風が重五郎と愛刀を冷やす。
豆腐はそれはそれは美味であったという。