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6話目

いつもより長いです。

ゴブリンとは醜く、人型というより犬のような耳の付いた小人でレベルとしては下級に部類する。このメンバーであれば、難なく倒せる相手。

ゴブリンは森の開けた場所で立ち尽くしていた。見つからないよう、木の影に身を隠すことを指示。自分の剣に手を伸ばす・・。

「なっ!」ユナは驚きの声をあげた。動かしたはずの手は動いていない。

気づくと、心臓は直接掴まれたかの様に苦しかった。いやな汗が大量に吹き出す。視界が、ぐにゃりと歪む。森の狂気が私を視ているかんじだ。

異様な威圧感。

もしかして・・・。ゴブリンの威圧なのか?そうならば、異常すぎる。

ユナの思考はうまく、まとまらない。せっかくの下級の魔物。さっさと倒し、試験を終えるべき。

だが、あの威圧感。

一番、実戦慣れしていないルークでさえ、青ざめ、あの威圧を認識している。

キーリが「森の深部にゴブリンはおかしい、近づかない方がいい」と言ってきた。前から感じていたが、キーリはかなり実戦慣れしているように思う。私より的確だ。

私が同意するため口を開くが、ドミニオが先に喋り出した。

「キーリ、ゴブリンなんて雑魚だろ!」

キーリは「そうじゃない!ゴブリンはここまで来れる魔物じゃない、罠かも知れないんだ!」と小声のまま反論。

ドミニオは反論されたためか青筋を浮かべる。

「オレ達と同じで魔物に会わずに来ただけだろ!」と怒鳴る。

「っそれは」とキーリが詰まる。

確かにその可能性はある。が、本能がいけないと叫ぶのだ。

それを無視するのは危険だ、キーリはそれがわかっている。

キーリはこらえきれなくなったのだろう。

「じゃあ、君は感じないのか!あの威圧感を、絶対にあいつはヤバい!」

ドミニオは吹き出した。「なんだそれ、ゴブリンの威圧って、ふはは!」ドミニオは熱に浮かされたような目をしていた。

キーリは絶句していた。私も、ルークも。

ユナはドミニオをまじまじと見つめた。

ドミニオはこの威圧を感じていないのか。

今思えば、これまでのドミニオはあまりに危機感が薄すぎる。私はドミニオが虚勢を張ることで自我を守っている、と想像していた。

だが、あの熱に浮かされた目、普通じゃない。

「まさか・・魔力拡張剤、」私が呟くと、ドミニオの体が一瞬、固まる。

魔力拡張剤。使用者は通常の、2~3倍の魔力を使用できる。が、無理な魔力増加は感覚機能を狂わせ、気分は高揚し、判断力を失う。ひどいときは幻覚症状もあるらしい。 今のドミニオはこの状況を悪化させかねない。

「お前・・!」キーリの声に怒りが滲む。

ドミニオがぶつぶつと何かを呟く。次第に声を大きくしていき、

「見下すな、オレは強い!証明してやる!!」そう叫び、剣を抜いてゴブリンに走りだした。

「っ!やめろ!」ユナは咄嗟に手を伸ばすが空をきる。速度強化を使っているのだろう、それなりに速い。これなら、あのゴブリンを倒してくれるのでは。

そんな思いがちらついて私は追いかけることが出来なかった。「ユナさん!?」キーリが驚きの声をあげるが、もう、遅い。ドミニオには追いつかない。私は良い未来を期待しながら、戦いの準備をしていた。


ルークは事態についていけていなかった。自分をいすくめる何かにより思考が働かないということもある。だが、ドミニオが飛び出して行ったのがまずいことはわかった。

だから、真っ先に一人逃げようとした。

キーリがそれを止める。もしかして、ドミニオが失敗したら助けるのか?でもオレは戦力にはならない。が、それにも、「いいから」と曖昧な返事。

仕方なく、ルークはことの推移を見つめた。

ドミニオはゴブリンに向け疾走していた。ゴブリンはこちらに気づく。が、逃げない。それどころか、観察する気配さえする。生意気だ、まぁ、ひらけた場所の方が剣も振れる。走り、剣を上段に構え、一気に加速。緩急の変化に対応出来ていない。

(もらったぁ!)剣を降り下ろす。

その時、ゴブリンの気配が一瞬、膨れあがった気がした。


ドミニオが信じられない速度で、ゴブリンに突っ込んで行く。ルークは(これはいけるのでは!)という期待を抱いていた。ゴブリンにドミニオの剣が斬りかかる。

何の前触れもなく、突然、ゴブリンを中心に爆発が起こる。ドミニオの体が吹っ飛び、木に強く、打ちつけられた。

静寂。

誰も何が起こったのか、わからないのだ。

砂ぼこりが収まったあと、地面に小さなクレーターができていた。ゴブリンのいた場所に立っていたのは巨大な白銀の狼。

ポツリと誰かが、ゴブリンは擬態だ、と呟いた。

ルークはそれがひどく遠く聞こえた。

狼はこちらにとっくに気付いていたようで、ルーク達を正確に射抜き、走りだした。

最初に我に帰ったのはユナ。

全員にげろ!と叫ぶ。

ルークも慌てて、逃げようとした。

その時、キーリが突然、こちらの腕を掴んだ。

キーリ、オレは残念ながらそっちの趣味はないぞ!

そして、キーリは、

オレを狼の方にぶん投げた。ごめんという言葉と共に。


(なにぃいいい!?)投げられた瞬間の、ユナの見開かれた目。あぁ、ユナさんは関わってないんだとおかしな安堵。共に、自分の状況も正しく理解した。自分は他の2人が逃げるための捨て駒。

オレをあの時、引き留めたのはこのためか、キーリ!

「ぼべっ」と変な声でオレは地面に落ちた。痛い・・、てか、キーリって賢いのな・・・。ま、まぁ、ナイス判断力。と誉めたいところだが、こっちとしてはたまったもんじゃない!

立ち上がると狼が、次はお前だと標準を定めたとのが分かる。

これは死ぬな、とあきらめかける。

ふと、休憩中のユナの笑顔が頭に浮かんだ。

思わず「ハハッ」と笑ってしまう。

あの笑顔が消えるのを想像してはっきり、嫌だ、と思ってしまったのだ。

(オレは・・ユナさんに惚れたのか・・)いや、考える時間はない。どちらにしろ、オレは狼に殺される。どうせ、最後だ、思ったことに従いたい。

それに、好きかもしれない女の子を逃がして、死ぬとか、かっこいいじゃん。

だから、オレの足掻きで助かる命があるなら、あの人が逃げきれるなら・・。

オレは・・・・・。キーリは、ユナさんを連れて逃げているだろうか。でも、振り返る余裕はない。狼はもう、目の前。


せいぜい、足掻いて、時間稼ぎをはじめよう。


まず、狼を自分に引き付ける。(すでに狼はオレをロックオンだが・・)自分はユナさん達の方向とは別の方に逃走。結果、道をそらさせ、オレはひたすら、狼の攻撃を避けて時間稼ぎ。

戦闘ではなく、回避のみに集中するなら時間稼ぎは可能なはず。、簡単な計画をたてる。ルークは狼に笑いかける。死をかけるのだから、ちょっとの間、付き合って貰いたいものだ。


キーリが背負い投げの要領で、ルークを狼の方へ正確に投げた。スローモーションのように感じる。ユナは驚きのあまり、逃げるのを止めてキーリに突っ掛かかる。

「早く、逃げましょう」キーリが悲痛な顔で、だが、ルークを見ることなく、ユナの手をとり、走りだす。頭が混乱し、されるがままに、走っていた。

キーリから理由を聞かされ、納得する。この方法が一番、生存率が高い。私はすべきことがある、ここで死ぬ訳にはいかない、ルーク、悪いな。


私は乱暴にキーリの手をふりほどいた。足に急停止をかける。

私は何をしている。逃げなければいけないのに・・・。

「私は、ルークを助けに行く!!」言った自分に私は当惑した。

キーリが何事か、という顔をする。それはそうだろう、私も驚いている。

キーリは説得を試みかけ、私が論理で動いていないことを悟ったのだろう、にがにがしい顔になり、

「ルークは弱い、行ったところで、今頃、死んでる、それでも、」「うるさいっ!」私は大声でキーリの言葉と狼狽をかきけした。

(私はあいつを失いたくないのか)

ストンと今の感情にあてはまる。

初対面で私が気を許しそうになった不思議な人、あいつがどんな男なのか、まだ、わかっていない。死んでもらったら困るんだ、ルーク。

それに、あのおかしな回復速度があれば、まだ希望はある。

「キーリ、お前は正しい、でも私は助けに行く」向きを変えて私は走り出した。

キーリは少し、逡巡して舌打ちするとユナの後に駆け出した。ユナはキーリが追いかけてきたことは意外であったが、一応、協力してくれるとのこと。

信用はしないが、キーリは強い。心強いのも確かだ。

走っていくに従い、例の威圧も濃くなっていく。それと同時に争った痕跡もある。が、奇妙なことがある。森の一部が凍っているのだ。

ルークが使えるとは、思えない。だとすれば、残るはあの狼。これだけの魔法を使う魔物となると間違いなく、上級クラス。魔力保有量も段違いだろう。魔力とは体内にあり使えば減っていく。使い切れば死ぬことは無いがまず動けない。

ルークの回復力が在れば、この線もありえると思ったがそれも無理そうだ。

悲惨な未来がよぎる。方向はこちらであっているようだ。「急ぐ」とだけ、キーリに告げた。

暫く、進むとルークの姿が見えた。

「っ!」思わず、走り出したくなるのを堪える。キーリに接近すると伝える。キーリが無言で頷く。が、キーリの目は純粋な驚きに満ちていた。ルークが生きていたことがあり得ないと思っているのだ。

少しユナはむっとしながら戦況を観察した。狼はかなり苛立っていた。ルークの動きをみていれば分かる。狼の動きを先読みして、かわしているのだ。

だが、これには森というフィールドが大きく関係しているだろう。

巨大な狼は動きが木に制限されているのだ。

それにルークの先読みのうまさが加わり、この逃走劇は成立している。

ここが平地であれば、ルークはすでに死に、タッグも全滅していただろう。だが、ルークに重傷の怪我はないが怪我は遠目にもいくつかある。ふと、気づく。ということはあの回復力は発動していない。

なぜだ、早く、行かなくては。ユナは目的の場所へと急いだ。


もう、何回避けたのか、わからない。自分はなぜ、こんなことを、そうだ、ユナさん、もう、逃げたかな。この自分とのやり取りも何回目だろう。狼からの致命傷は受けていないが、怪我も何個もある、痛いし、もう、いいか、でも逃げきれてなかったら?ユナさんは死ぬ。

それは駄目だ。

横にとぶ。

瞬間、

狼の氷の息吹き。

速度は遅いが通った部分は全てが凍っていく。

当たりはしなかったが周囲の冷気で片耳が凍った。

急いでその場から離れるふり。そこに留まる。

そばを、尖った氷の塊が飛来。その場を離れていたら貫通していた。

ぞっとしながら、狼を観察。

イライラして攻撃は単調になったものの、威力は強くなった。

さっきから小技がつづく、大技をうつ隙をうかがっているのだ。

わざと隙を作り、うたせて、魔力を消費させる。

茂みから飛び出してルークは狼の目の前にたった。狙い通り、狼は大技を放とうと一瞬のけぞる。

「ぐぉっ」ルークはとっさに場所も確認せず、逃げ出した。

一瞬おいて、狼の口からすさまじい魔力の奔流が吐き出された。

光と轟音。

それで全てが埋め尽くされる。

「しまった!」ルークの視界は焼かれ使い物にならない。身体も上手く動かない。

やばい、やばい、やばい。

まず、そこらへんの木に隠れようと手探りで手を伸ばす。手が木に当たることは無い。

ま、さか。ルークは顔を引き攣らせた。

ルークは森に時々存在する、木の生えていない大きい円形の空き地にいた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。ついに戦闘開始です。

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