悪女の言い分
『彼女』の言い分
話って何?……私、早く帰りたいの。
……このビッチ?尻軽?逆ハー女?寝取り女?主人公気取りの天然悪女?
黙って聞いていれば、突然あなたは何を言い出すのよ。
好きな男を手に入れるためなら、自分の持ってる力を最大限に利用するのは当たり前でしょう?そんなこともわからないの?
……それとも、何の努力もしないで『婚約者』のままでいられると思っていたの?
あなたたちは『恋愛』で結ばれていたんじゃなくて、家同士の『利害』で『婚約』していたのでしょう?
それなら、より条件のよい方に乗り換えるに決まってるじゃない。それがビジネスだもの。
私は、あなたよりも『賢い』。
私は、あなたよりも『美しい』。
私は、あなたよりも『家柄が上』。
私は、あなたよりも『お金持ち』。
私は、あなたよりも『家庭的』。
私は、あなたよりも『健康』。
私は、あなたよりも『社交的』。
私は、あなたよりも『経済に詳しい』。
私は、あなたよりも『味方が多い』。
私は、あなたよりも『センスがある』。
私は、あなたよりも『行動力がある』。
……私は、あなたよりも『彼を愛してる』。
そして……
私は、あなたよりも『努力した』の。
ねえ、『元婚約者』さん。私をなじる前に、自分を振り返ってみたら?
あなたは、私以上に努力をしたの?
ただ何もせずに受け入れて、「私って可哀そう」って言っていただけじゃないの?
……悔しかったら、努力して取り返してみればいいじゃない。
『婚約者の彼に相応しくなるよう、小さい頃から努力してきた』ってさっき言ってたけど、何をどう努力してたの?
努力っていうのはね、積み重ねていくものなの。一朝一夕でできるような、付け焼き刃ではないのよ。
……これ以上、私の貴重な時間を無駄にしたくないわ。私、早く帰りたいの。
これからランニングしながら中国語を勉強して、夜は着物の着付けと茶華道のおけいこがあるの。家に帰ってからは家事手伝いと筋トレと宿題と受験勉強があるから、忙しいのよ。
なに?睡眠時間?六時間よ。夜は十時に寝て、朝は四時に起きてるわ。
そして、家事の手伝いをして新聞とニュースをチェックするの。そのあとは護身術とラジオ体操ね。それから肌の手入れをしっかりとして、身なりを整えて登校しているわ。六時半の電車ね。
それから教室を掃除して、その日の授業の予習をするわ。
……なに?わかってくれたの?そう、それはよかった。
じゃあ、私を拘束した時間分の料金を頂けるかしら。私が一時間で、どれだけ仕事や勉強できたと思ってるの?時は金なりって言うでしょう?
え、払いたくない?やだ、じゃあご両親から頂くから。……株価の暴落ってどうやるか、あなた知ってる?あら、知らないの?残念ね。……私は知ってるわ。
勉強って楽しいわよね。学校で教えてくれることって何の役に立つの?って言ってる子がいるけど、学校教育は学ぶことの基盤を作ってるのよ。
学校は遊び場じゃないの、学ぶ場なの。
あなたも、訳のわからないことばかり言っていないで、地に足付けて生きなさいよ。
現実は、泣いていたって誰も助けてくれないの。漫画やゲームじゃないんだから、騎士や王子様は助けてくれないの。
じゃあね、『可哀相な元婚約者』さん。
せいぜい彼の情に訴えてみたらいいじゃない。あなたの持っているカードは、それだけなんだから。
そんなに彼が好きなら、私以上の努力をして取り返してみなさいよ。
私は、逃げも隠れもしないわ。
※したたかに逞しく生きていくために、愛する人を手に入れるために努力することのどこが悪い。くやしかったら人を恨む前に自分がそれ以上の努力をしろ。
家同士の婚約に、恋愛を持ち込むとドロドロになるよね。なんというか、ビジネスに感情を持ち込んではいけないよ、みたいな話を書いてみたかった。