第八話:お願い
思い出に浸りながら、あずさの作ってくれた朝食をいただく。
目の前に座るあずさが笑いながら話しているが…
まったく脳に入ってこない。
あの時の傷は癒えたのか?
俺はちゃんと守れているのか…
自問自答を繰り返し、自分の世界に入り込んでいた脳を連れ戻したのはあずさの平手打ち
「なんでちゃんと聞いてくれないのよ〜!!!」
ムスッとした表情で机に手を置き、身を乗り出し俺を責める
そんな表情も愛しくてしかたない。
「ごめんごめん。で?なんの話だっけ?」
素直に謝ると乗り出していた身を元の姿勢に戻し、行儀よく正座をする
「だからね?今度高校の同窓会があるの。でも…」
にこにこしていたかと思うと、急に下を向き上目づかいで俺を見つめる
何年も一緒にいるとわかる。
この顔は何かお願いをしたい時の顔だ
「同窓会ね〜。それで?何を頼みたいの?」
机に肘を乗せ頬杖をつきながらあずさの目を見つめる
申し訳なさそうに、けれどどこか嬉しそうに顔を綻ばせている
「彼氏のふりしてほしいの!!」
…意味がわからない
「えっと…何で?」
嬉しそうなあずさに対し、俺の顔は引き攣っていたと思う
そんな俺の表情を見ても、あずさの顔はニコニコしたまま…
「何でって言われてもなぁ。実はね?今度の同窓会って、恋人がいる人は連れてくるって話になってるの」
下げていた顔を正面に向け生き生きと説明するあずさ
詳しく聞くと、あずさの高校は女子高で今度同窓会をするのだが、それだけじゃつまらない。という話になったらしく、恋人がいる人間はその彼氏と同伴して見せ合い…
つまり、自分の彼氏の方が勝っていると思いたい品定めのイベントらしい。
「でもお前彼氏いるよな?」
素朴な疑問をあずさにぶつけてみる
う〜ん。と、首を傾け眉間にしわを寄せながら難しい顔をしている
「うん…いたよ。昨日までは」
…昨日まで??
「はぁ?また別れたの!!いつものあれが原因でか?」
「いつものあれ」と言うのは、あの事件以来あずさは異性と体の関係になるのを恐れている。
つまり、彼氏と体を重ねたりするのが怖くていつも拒否しているらしい。
付き合う前に体の関係は無理だと言っているらしいのだが、それが原因で振ったり振られたり…
なんとも腑に落ちない事だが…愛する者と交わいたい。そう思うのは自然な事で、誰が悪いなんて事はない。
黙って頷くあずさ
その顔は悲しみで歪んでいるが、それでもわずかに笑顔なのは自分を責めているからだろう。
「まぁいいや。その同窓会っていつ?」
その話を深く追求したところで、あずさは更に傷つき自分を責める
だから話を同窓会に戻した
「えっとねぇ…」
スケジュール帳を開きながら日付を確認している
「あっ。4日後だ」
なんともまた…
「お前突然すぎ」
わざとらしく溜息をつきあずさを睨む
手を前で合わせ[ごめん]とポーズをとり
「大丈夫?」
なんて聞いてくる…
惚れた弱みか
こいつには逆らえない
「たぶん予定ないから大丈夫じゃね〜か?」
脳に記憶されたスケジュールを整理しながら答える
その瞬間、あずさの顔がパッと明るくなり
「やっぱ和成最高!!」
なんて言うか…
わかりやすいやつ
話も一段落し嬉しそうなあずさは、食べ終わった食器を片づけ始め、洗い物をしながら鼻歌まで…
そんなあずさを見ていると、幸せな気分になる。
偽物といえども、4日後は彼氏彼女
俺の頭には心配と不安が入り混じっていた