第七話:気持ち
「私が無断欠勤した日…覚えてる?」
ポツリポツリと、何かを思い出し、言葉を選びながら話す
時折歪む表情が辛くて直視できない
視線を前に移し、あずさの言葉にゆっくりと頷く
「その前の日に、あの木のそばで変な人に絡まれたの。」
正面にある葉が数枚しか残っていない大きな木を指差し、場所を細かく教えてくれる。
「でもね、何かされたわけじゃないの。…ただ、外に出たら同じ事が起こる気がして、怖くなっちゃったの。」
恐怖や悲しみが入り混じった瞳で、口角をあげ健気に笑うあずさ
本当の事なんてわからない
言えないだけで何かされているのかもしれない。
だけど今はあずさの言葉を信じるしかない
すごく短く、簡単に言っているように感じるあずさの言葉
電話やメールで聞いていれば、あまり傷ついてない印象を受けてしまうだろう…
でも、言葉をひとつ発する毎に曇る表情
思い出したくないのか、それとも思い出して苦しいのか…
瞳はゆらゆらと涙で揺れている
「…そっか。何もなかったんだよな?」
再度確認するようにあずさの顔を覗き込む
目が合った瞬間、止まりかけていた涙が忙しなく流れだした
掌で顔を覆い、2度3度と頷くと声を押し殺し再び膝に顔を埋めてしまった。
目の前で揺れる小さな頭
時折しゃくり上げる声が聞こえる
しゃくり上げる度に上下に揺れる頭にそっと手を乗せ、「大丈夫だから。俺が守る」と、心の中で囁きながらゆっくりと撫でる。
しばらくして、涙も枯れ果てたのか顔をあげ、いつもの笑顔に戻っていた。
「ありがとう」
そう言ってはにかむあずさ。
「そう言えば、何でこんな所に座ってたん?」
素朴な疑問をあずさにぶつけると、またあの木を指差しながら
「あの出来事に負けたくないから!!一種のリハビリかな?」
気を指差したまま俺に向かって笑いながら答える。
リハビリというより、荒療治な気もするが…
それがまたあずさらしくて、二人で笑う
きっとこの傷は一生残り、何かの拍子に思い出してしまうだろう。
「俺があの時送っていれば」
そんな後悔も俺の心に残り続ける…
でも、もう二度と同じ事が起こらないように…
守っていこう。
そう決めた。
恋人としてじゃなく、友達として、あずさが本当に安らげる。
そんな人間になろう。
あの出来事があって、そう決めてしまい…
告白もできず…今現在に至る