第六話:駆け引き
「俺は、お前を傷つけたりはしない。誰の事を言っているのかは解らないけど、お前を傷つけるような男と一緒にはしてほしくない。もし俺を受け入れてくれるなら何があってもお前を守る。でもお前が今ここで拒絶するなら、もう二度と連絡しないし、会わない。…どうする?」
自分勝手な俺の言葉を、横やりも入れずにジッと静かに聞いている
でも、これは勝負の見えている問いかけ…
答えなんてはじめから分かっている。
あずさは誰も拒絶する事はできない…
3年前、大好きだった父親が亡くなり、友達が自殺した…
大切な人の死を経験し、失う怖さや残された者の苦しみを味わっているからこそ…誰よりも人を失う事を恐れている
それを知ってて言う今の俺は、卑怯で自己中心的
それでも、今より少しでもあずさの苦しみを軽減できるなら俺は力になりたいから…
「………ズルイ」
風の音に負けて微かにしか聞こえない
「なに?」
街灯の光を見上げながらわざとらしく聞き返す
「…和成はズルイよ。そうやって人の弱点ばっかり刺激して。」
膝に埋めていた顔をあげ、俺の目をジッと見つめる
やっと本当の…心が感じられる表情を見せた
いつもみたいに楽しそうな、笑ってる顔じゃなくてもいい。
泣いていても、怒っていても…
今みたいに苦笑いを浮かべていてもいい。
やっとあずさの心に触れることができた
「…で?何があった?」
隣に座る俺を一瞬横目で見ると、あずさは周りの音や人を少しも気にする事なく、大粒の涙を流しながら静かな声で話はじめた。