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第五話:問いかけ

街灯の下

スポットライトを浴びているかのように、あずさが座っていた

その場所から動かず、じっと何かを待っているようにも感じられた。

「あずさ」

公園に向かって全速力で走り息絶え絶えだったが、なるべく落ち着いて優しく名前を呼ぶ


さっきみたいにゆっくりとした動作で顔をあげた

「あれ?また和成だ。どうしたの?」

クスクスと声で笑いながら、だけど眼は笑っていない。

うつろな眼

何かに怯えたような。

何かに耐えるような…

「ちょっと気になって。お前がそんなに落ち込んでるの見た事ないし、心配で」

正直な気持ちを素直に伝えると

「なに…が?ただの散歩だよ。」

明らかに動揺しながら

でも認めずに尚もとぼける

ベンチのすぐ横に自転車を停め、あずさの横に腰をおろした。

その瞬間

ビクッ

あずさの肩が動いた。

俺に対する怯え

何かを拒絶するかの様に、人が一人座れる程度の距離まであずさは横へと動いた


「え…っと。いきなり座るからビックリしたじゃん。それセクハラだよ〜」

さっきよりも明るく、引き攣った表情でおどける。

この一連のやり取りで、俺は何かあったと確信した。

「なぁ。お前何かあった?バイト辞めたのと関係あるんだろ?」


突然の無断欠勤

返事のないメール

誰もでない電話

痩せこけた頬


どうしてあんなメールを信じたのだろう。

勉強のためなんかじゃない。

何か…もっと大きな何かがある。


「教えてほしい。俺で力になれるなら…俺はお前を助けたい」

さっきは直視できなかったあずさの眼をジッと見つめながら言った

この気持に嘘はない

お前が苦しんでいるのに黙ってなんかいられない

「なぁ…」

その言葉と同時に、大きな瞳からは涙が流れ落ちた

正直に言うと…驚いた

あのあずさが泣くなんて信じられなかった。

肩を震わせ、声を抑え、瞬きもせずに大粒の涙を流し続けている

「な…ん…で…」

「えっ?」

聞き取れないぐらいの小さな声であずさが言葉を発した

「な…んで…そんな事言うの…」

今度はしっかりと聞き取れた。

「俺はお前が心配だから…だか「そんなの和成に関係ないじゃん!!!」」

俺の言葉があずさの悲鳴にも似た声にかき消される。

初めて見る涙と表情

初めて聞く声

「何で和成に心配されなきゃいけないの?和成は私のなによ!!家族?他人でしょ?」

捲くし立てるような速さで言葉を発する

響きわたる悲痛な声

公園を通る人達が、興味本位に視線を向けてくる

膝の上で、痛いくらいに強く握られた拳

その上に涙が落ち、スカートには大きな染みをつくっている

こんなあずさを俺は知らない

攻撃的で、何人をも拒絶するような

怯えているような

それでいて、助けを求めているような態度


「…確かに他人だけど、俺はお前が心配だ。友達を心配する事はダメなのか?」

今すぐ聞いた事を撤回して、謝りたい衝動に駆られながらも、それでも俺は真実を知りたかった。

「どうせ…和成には解んない。だって男だもん。あいつらと同じ男じゃん!」

男の俺には解らない?あいつら?

今の発言にいくつものヒントが隠されている気がした

「俺には解らないって?あいつらって誰だよ」

興奮しているあずさにつられ、感情を抑えきれず少し強めに聞いてしまう

すごく嫌な予感がした。


「言いたく…ない」

来た時と同じような、揃えられた膝に顔を埋めながら拒絶の意思を示した

頭に浮かんだ出来事。

この想像が当たっていたら…俺はどうなるだろう

俺は平静でいられるか?

俺に聞かれてあずさは今以上に壊れてしまわないか?

…どうすればいい?

何度も頭の中で自分と葛藤するが、こんな状態のあずさを見捨てる事はできない。

今の俺にできるのは、一緒に苦しみ、そして立ち直る事。

だから、今聞かなきゃダメなんだ…

そう決めた俺はあずさに対し、酷な問いかけをした。


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