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第一話:関係

 紅く染まった空

吐いた息が白く、煙のようにも見える

両手に持ったビニール袋からビールやつまみが透けて見え、独り暮らしだということを物語っている

ふと横を見ると、さほど大きくない公園が見え、なんだか物悲しい気持ちになった

きっと、ひとりでに揺れるブランコのせいだろう


今から15年前

小学校6年だった俺は、毎日のように友達と遊んでいた。

どちらが高くブランコをこげるか

どちらが遠くまで靴を飛ばせるか

そんな事ばかりしていた気がする。

夕暮れが近づくにつれて、友達は一人減り…

また一人減り

いつも最後まで俺だけが残っていた

そのうち日は沈み、街頭の明かりが道を照らす中、母親が心配そうな面持ちで迎えに来てくれた

二人で帰り道を歩き、街頭に照らされ伸びる影をじっとみつめていた

特に話す事なんてないのに…

それが、何よりも幸せな母との時間だった


 しばらく物思いに耽っていると、公園のベンチに人影があるのに気づいた

目を凝らすと、小さな男の子が座っている。

もう辺りも暗く、街頭だけが少年を照らして、まるで別世界のように感じる

あの時の俺のように何かを待つようにジッと地面を見つめて動かない

俺はその様子が気になり、しばらく少年を見つめていると、後ろから足音が聞こえ、次第に近づいてくる


 後ろを振り返ろうとした瞬間

「まさと〜!」

と、大きな声が耳に入った

まさとと呼ばれた少年は、地面から視線を逸らし大きな声の主を見ると、とても嬉しそうに微笑み、母親と思われる女性に駆け寄り共に歩き始めた


 「今日のご飯なに〜」

と、嬉しそうな少年の声が微かに聞こえてくる

そんな母と息子の会話が、今の俺には何よりも幸せに感じた

懐かしい光景に自身を重ね、長く伸びる影を見つめ家路を急ぐ


 公園から5分程歩き、なんの変哲もないアパートに着き、右手に握られた鍵を差し込むと、違和感に気づく

閉めたはずの鍵が開いている…

「またか…」

溜息をひとつ、そして扉を開けた


 「おかえり〜」

能天気な甲高い声が俺の脳を刺激する

「また来たのか?…お前も暇だな」

嫌味交じりの発言も、こいつには効かない。

俺の家の鍵を持つ唯一の友達

川村あずさ

高校時代にバイト先で知り合い意気投合し、以来11年間こんな風に付き纏われている。


染めた事がないという肩まである艶やかな黒髪

少し垂れ気味のパッチリとした二重の瞳

155cmしかない身長に細い体

見た目はいいが、中身は小学生の男の子のように自由奔放で危機感がまるで無い

…良い意味純粋だが、ただのバカである。


「お前さぁ?26歳にもなって親に甘えてないでバイトしろよ」

机の上にビールの入った袋を置くと、当然のようにあずさの手が伸びてくる

ガサガサと袋を漁りビールを取り出し、プシュっと美味そうな音で鳴きあずさの手の中で飲まれるのを待っている

「和成まで同じ事言うか…。」

喉元を上下させ勢いよくビールを流し込み俺を睨む

「って事は誰かにも言われたわけね」

苦笑いを浮かべ、俺もビールに手を伸ばす

「…彼氏に言われた」

すでに半分は無くなったであろうビール缶を両手で握り、下を向きながら呟いた

下を向いていて表情はハッキリわからないが、こういう時のあずさは泣くのを我慢している

「…そっか。じゃあ俺はもう何も言わないよ。」

そう言いながら、あずさの頭を撫でる。

同じ年なのに頼りないあずさに対し、自分の気持ちを誤魔化しながら兄貴のような気持で接するようにしている

以前…俺はあずさの事を守る事ができなかった。

その事が胸に痞えて、気持ちに素直になれない自分がいた

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