魔王♂は勇者♂の嫁になります
たいとるはふざけきってます。
「龍、起きなさい……って、起きてたの?」
「ああ、おはよう。母上」
「もう……御飯の用意できてるから、降りてらっしゃい」
--あれから、数日。ようやく慣れてきたか。
龍はベッドの上に放っておいた、学校の制服に着替える。
脱いだジャージを片手に、自室をでて一階に降りていく。
--未だに、"でんかせーひん"とやらは理解できんな。
洗面所に置いてあるかごへ、ジャージを放る。
--水道の使い方は理解できた。便利なものだ。
捻るだけ、押すだけで水が出る水道に称賛を送る。
龍は自身の中にある記憶と、今世の文明の違いに驚愕している。
無論、顔に出すようなことはない。
--記憶喪失という理由があるが、流石に驚くのは可笑しい。
と、龍は勝手に思っていた。
「おはよう、龍」
「おはよう、父上」
居間に行けば、暖かい御飯に父と母の姿。
目頭が熱くなるが、涙を流すことはない。
--これより先。何度も目にすることだ。
「龍……その喋り方、どうにかならんのか?」
「どうにか……とは?」
父の言葉に疑問を返す龍。
「むぅ……いや、ここ数日で様変わりしたのだから……」
父はボソボソと何かを喋っているが、龍には全く聞こえなかった。
--今日から"しんがっき"という奴だ。早めに出て損はない。
--前世では、アイリス殿がいたが……今世の私には……。
--友が一人も居ないのではな。
龍は考えながら、朝飯を平らげていく。
そんな龍を、父と母は微笑ましげに見ていた。
--------
「ふむ。ここが学舎となるのか」
一人言を呟きながら、龍は門をくぐる。
「門番も居なければ、巡回を行っている警備隊もいない……」
歩きながら一人言を続ける龍。
端から見れば、頭の可笑しい人である。
「それほどまでに、安全というのか……」
校舎に入り、下駄箱から上履きを取ろうとする龍。
--む?何か入っているな。……鉄屑?
鉄屑……釘が入っていたことに疑問を覚えるが、特に気にはしない。
自身の靴を持ったまま、上履きを履こうとする。
--……なんとまぁ、芸の無い。今度は針か……。
龍は上履きの靴底を取り、仕込まれていた画鋲をとる。
--今世の元の持ち主は、さぞや嫌われていたのだろう。
何もなくなったことを確認し、上履きをはいて教室へと向かう。
靴箱には何も入れないことを決めた、新学期初めだった。
--------
がやがやがや。
龍が教室に来てから、大分時間が経った。
--ふむ。日本という国は面白い。ここまで教養の基礎が高いとは。
読んでいた教科書を閉じ、教室を見渡す龍。
幾人か此方を見ていた気がするが、視線はすぐになくなった。
騒がしくなった教室ではあるが、龍は気にもしていない。
新たな教科書を引き出しから取り、読み始める。
--さて。今度は数を学ぶとするか。"すうがく"というからな。
ノートに鉛筆で式を書いていく。
--しかし、合成紙というのは良いな。作り方を学んでおこう。
龍は黙々とノートに書いていく。
「おはよー!内藤くん!」
すぐ近くから声が聞こえてきたが、龍は振り向きもしない。
--ナイトくん?この教室には騎士がいるのか?
検討違いな疑問を抱きながら、書く手を休めない龍。
「無視すんなー!な・い・と・う・りゅーくん!」
ようやく、自身が呼ばれていることに気づいた龍。
「…………なんだ?……誰だ?」
「ひ、酷い……私を忘れちゃったの?」
「生憎とな。私は記憶喪失と言うものでな」
肩を竦めて見せる龍。
「記憶喪失どころか、完全にキャラが変わってるよー!」
「ふむ。まぁ、余分な脂肪を落としたからな」
「そういう問題!?」
「まぁ、そういうことだ。で、だれだ?」
龍は先程から気になっていた、少女の名を問う。
「私は如月 弥穏だよー!もう忘れないでね」
「弥穏か。覚えておこう」
「はぁ~……本当に内藤君?」
「失敬な奴だな。正真正銘、内藤 龍だ」
龍はそう言って教科書を閉じる。
今度は生物と物理の教科書を取りだし、ノートに羅列していく。
「ぶすー!」
「何をふくれている。可愛らしい顔が台無しだぞ?まぁ、そういった反応もまた、可愛らしさではあるが」
「っ~--知らない!」
私、怒ってます!というように、自身の席へと戻っていく。
--……女心は分からぬものだな。
なんとも言えない気持ちになった、龍である。
-----
--……転校生というのは、今世でもあるのだな。
龍は教卓の前で、自己紹介をする女生徒を眺めていた。
言い知れぬ何かが、龍の中で渦巻いている。
しかし、それが何であるか迄は判らない。
「……では、宜しく」
「それじゃあ……内藤、お前が面倒見てやれ」
ズザッ。ドガン。
立ち上がり、椅子を思い切り倒す。弥穏。
弥穏は手をあげて異議を唱える。
「先生!私、私が面倒見ます!」
「如月か……まいっか。んじゃ頼むわ」
弥穏が積極的に転校生と関わる理由は、判らない。
しかし、過程はどうあれ龍は助かった。
--意図はないだろうが、感謝しなければな。
記憶喪失となった龍は、学校内を案内など出来ない。
正確に言えば、すると不自然なのだ。
弥穏以外には、未だに打ち明けていない問題だ。
それを無意識でも防いだ弥穏に、感謝しておく。
「成海 美春だ。宜しく、ゆ……」
「内藤 龍。宜しく頼もう」
転校生、美春を弥穏と挟む形の席順である。
龍は平静を装いながら、美春と挨拶を交わす。
--何だ、これは。胸のざわつき……まるで魔王と戦っていた時の……。
龍は美春を見つめる。特に、二つの巨峰を。
そこに何を見出だしているのかは判らない。
龍自身も、判らない。
ただ。
他から見れば、龍が美春の巨峰に目を奪われていると見える。
「その変態的な目線、やめた方がイイヨネ~?」
弥穏の問いかけすらも聞こえず。
「そうか……このざわつき……」
龍が何かを確信したとき、龍の机が蹴られる。
いつの間にか、朝礼が終わっていたのだろう。
男子生徒達が龍を囲み、嘲笑を口元に浮かべている。
--いつの世にも、居るものだな。
弥穏は怒りを露にして飛び出そうとするが、美春に止められている。
半ば呆れながら苦笑する、龍。
--ようやく、"虐めの対象"の変化に追い付いたのだろうな。
「よう、内藤くぅん。ちょっとさぁ」
「待て」
弥穏でも龍でもない、第三者からの声かけに一瞬だけ停止する。
「……な、何だよ、転校生ちゃん」
「ゆ……龍に、用がある。お前らは後にしろ」
「な、何言っちゃってんの?」
「言語が理解できぬのか?私がゆ……龍に用があると言ったのだ」
--やはり、か。
龍は徐に立ち上がり、男子生徒の一人を押し退けて扉へと向かう。
胸のざわつき、沸き上がる感情……。
--魔王……お前も、か。素晴らしいぞ!
龍が出ていった後を、素早く追いかける美春。
教室は先ほどと同じように、静かになった。
------
「ここで良いだろう」
龍は晴れ渡る空を見上げながら、背に声をかける。
「そうだな。勇者よ」
龍と少し距離開けて立つ、美春が答える。
「もう、私は勇者ではない。龍と呼べ、美春」
「未だに慣れんが……了解した。貴様に呼ばれると、これで良いと思えるしな」
「そうか」
龍はようやく、美春を正面から見据える。
流麗な長髪。色は、赤みが強い黒。
均整の取れた、愛らしくも凛々しい顔。
身長は龍の鼻の高さくらい。
全体的にスマートな印象を受ける体躯。
そして、目を見張る程の胸。
全てのバランスを崩す程の、胸の大きさ(推定、E)である。
「私としては、何故お前が女になっているかだが」
「むぅ……別に良いのではないか?我に不便はないぞ」
「私が抑えきれん。お前も知っているだろう?」
言いながら、美春に近づいていく龍。
「敵対した女を負かすと、強制的に発動する大罪の呪いか」
「ああ……霊魂としては、男であるお前でも発動するとは思わなんだ」
*大罪の呪い。人の根源、理性ある種としての欲。
それは人という種の強さであり、弱さである。
「ルクスリアの呪いとアワーリティアの呪いか」
「まぁ一度もしたことが無い私としては、お前でよかったとも思うがな」
「む、それは……複雑であるな。受け入れるには少々な」
「判っている」
「い、言いながら、近寄るな……」
ぐっと抱き寄せ、ゆっくりと美春に顔を寄せる。
美春も、決心したのか龍に顔を寄せていく。
徐に近づいていく唇。
それを、ジト眼で見続ける弥穏。
しかし、止まらない。
「いや止めようよ!」
「ん……ぁ………ぇろ……んちゅぁ……」
「ひゃあぁぁぁぁ」
「……ん、はぁ。何だ、弥穏。見るのは初めてか?」
何でもないように龍が問いかけるが、弥穏は顔を真っ赤にして逸らす。
美春は少し夢見心地な表情をしながら、龍に体重を預ける。
--ふむ。体が女だからか、反応も女らしくなるのか。
龍は胸元の美春をみやる。潰れた双丘……双山が心地よい。
--しかし……ルクスリアは他者、周囲にも効果があるようだな。
--かといって、私自身はもう、治まっているからな。
生まれ落ちたその時から、大罪の呪いを所持していた為、このように冷静に対処できるのである。
もし、持っていない者であれば、狂っているものだ。
意識がないまま女を襲い、気が付けば事後という状況。
それが種族的なものすらも、関係無いとなれば。
--確か、祖父はオークともゴブリンとも契っていたな。
--怖いものだ。魔物は発動する前に殺していたから、事なきを得ていたが……。
龍の、前世での祖父は、あらゆる種族の雌と性交を行う大変やb……奇特な人物であった。
それらも全て、大罪の呪いを所持していた為だ。
「すごい、な……これは……んっ……」
「ふむ。まぁこれから。よろしく頼むぞ、美春」
「ああ……よろしく頼む」
「一体どういうことなの……?」
------
大変お待たせしました。
次回投稿は、来週月曜日の予定です。