転生先は
降り続ける雨は、すすり泣きをかき消す。
「痛い……痛いよぉ」
少し低いテノールを、涙声で震わせる。
泣いていても、痛みは感じる。
誰も助けてはくれない。むしろ、罵られる。
いつもそうだ。自分は醜いから……。
脂肪によって膨らんだ身体。
オドオドと、自信のない喋り方。
「ふっ……ぐ……ぁぁ」
今日も今日とて、不良に絡まれてボロボロだ。
--いっそ……このまま……。
そう考えるが、死ぬのは怖い。
--もういちど、やり直したい……。
思いが届く。空が、白く染まる。
----
「先生!龍は……息子は大丈夫なんですね!?」
女性が白衣の男性に詰め寄る。
それを優しく押し止めるスーツ姿の男性。
病院の通路にて、よく見られる光景。
女性は幾分か落ち着きを取り戻したが、直ぐに両の掌で顔を隠す。
「豊子……。先生、手術は成功したんですよね?」
スーツ姿の男性は、白衣の男性へと問いかける。
白衣の男性……先生と呼ばれた男性は首を縦に振る。
豊子と呼ばれた女性が泣く声が響く。無論、嬉しくてだ。
しかし、先生は浮かない顔をしている。
スーツ姿の男性は、違和感を覚えた。
先生がようやく、口を開く。
「息子さんは……記憶が……」
一瞬、時が止まる。
「息子の……龍の記憶は!?」
今度は首を横に降る。
そして、響く。泣く声は止まらなかった……。
------
「龍、ここが……貴方の家よ……」
少し窶れてはいるが、幸せそうな女性。
龍と呼ばれた青年は、女性が指す家を見る。
--やはり……私は転生したのか。
龍の考えていることは、自分自身のことである。
いったい自分は誰なのか、ここはどのような場所なのか。
--私の名は龍。ここは先々代の勇者の故郷。
地球。日本。お伽噺の世界だと、苦笑する。
しかし、現実だ。
隣にいる今世の母、豊子。
今まで付きっきりで看病してくれた、優しき母。
--懐かしいな。
前世の母は、上級貴族ながら自身で世話をしてくれた。
そのときの暖かさを感じる。同時に、苦しみを覚える。
今世の……優しき母の、息子を奪ったのだから。
--だからとて、死ぬわけにはいかない。
肉体的にも精神的にも、龍は今世を全うせんと誓う。
「龍……?」
「いや……懐かしいと、思って」
「……っ」
優しく龍を抱き、涙を流す母。
龍は抱き返し、落ち着けるように背を擦る。
--この母を悲しませんよう、精進するか。
先ずは、肉体をどうにかしようと、密かに決心した。
書き出しは早いですが、徐々にペースががが……。
次話更新は不定です。済みません。