闇に堕つ
ヒトが至れない領域に、神は《叡智》があると嘯く。
信じた愚か者を絡めとって捕食するための、神が作り上げた都合のいい罠。けれど、いかなる嘘も繰り返せば何にも勝る真になり、世界には本当に《叡智》を手にしたものが現れた。
魔人、あるいは魔女と呼ばれる彼らは不老。そして長寿。神は一見、高みにたどり着いた人の子を祝福したように見せかけて、それでもきっちりと制約をつけることは忘れない。
彼らには永遠はない。
永遠に近い、時間が与えられた。
人の身に余る恩恵を、人の身に収まらない呪いを。
彼らの技術は、そして長い時間で濃縮された知識は世界を変える。ヒトのような姿をした道具が生まれ、人々の生活はあっという間に改善され、向上し、以前よりずっと楽になった。
それでも世界に争いが起こらなかったのは、きっと神の策略だろう。
いや、これさえも呪いかもしれない。魔人や魔女がもっとも力を発揮するのは、世界さえも飲み込むほどの争いだろうと、神ならばきっとわかっていたはずだから。
実に意地の悪い神だ。
そして、醜悪。
高みにあるという《叡智》という餌を用意し、至ったものには平穏という地獄、至らなかったものには永劫。そんな恩恵と呪いを掛け合わせたようなものを、押し付けるのだから。
けれど、人々はそれでも高みに手を伸ばすことをやめない。叡智を手にし、ヒトを逸脱することを望み続ける。その果てに不死の呪いがあっても、彼らは手を伸ばすことを止めない。
そして叡智を手にしたごく一部は、平穏という名の地獄に繋がれる。
ボクはセドリック・フラーチェ。
昔、ヒトであることを拒否し理想を望み、八番目の果実を手にした魔人。三桁の年月を積み重ねて望むのは、ボクよりもヒトのような人形を、音色を作り上げるという更なる大罪。
そんなボクの願い、それは――。