心の音色
この世のヒトは、魂から音楽が流れているといいます。
人それぞれの人生の模様で、まったく違った音色になる音楽です。それがあるから、ヒトは実に多種多様な姿を持つことができるのだと。そう、我が主は語ってくれました。
わたしたちドールにも、魂は備わっています。
それがコア。ヒトの魂と同じく、音を刻む回路です。
ヒトのそれは目に見えない。ですが我々はコアと呼ばれるパーツとして、実際に手にとって眺めることができます。もちろん、破壊することさえも、ヒトに行うより容易いでしょう。
すべての音色は、時間と経験とどうでもいいその他諸々から生み出されます。
嬉しいことがあれば喜びの音色、悲しいことがあれば悲しみの音色。その時々の喜び悲しみという感情がスパイス、エッセンスとして、音色に深みを与えるのだそうです。
ヒトであれば音色は自然とあるべき形へと組みあがり、そして刻まれます。ヒトは生まれながらにそういう『仕組み』になっているのです。しかし我々ドールは、そういきません。
コアに蓄積されたさまざまな音色、そう呼ばれるデータを、醜くにごった不協和音にしないよう組み立てなければ、ドールがヒトのように音を奏でることなど決して無いのです。
えぇ、実に面倒なことなのですが、これはとても大切な作業です。
その作業が行われるあいだ、ドールは夢を見ます。眠りにつくのです。目が覚めたら新しい音色を奏でるココロを得て、我々はまたいろんなものを感じる日々を送るのです。
次に目覚めた時に聞こえる音色は……どんなものでしょう。
わたしはカティ・ベルウェット。
いつか、ヒトと見紛う音色を持つと約束された、由緒ある個体です。稀代の魔人たるセドリック・フラーチェにより製作、調律され、日々、彩り鮮やかな音色をコアに宿しています。
そんなわたしの願い、それは――。