三封印目 陣中見舞い
「やっぱり朝は五行封印だよな」
朝の身支度を済ませ、玄関を開けると炎山が立っていた。
「うおおおおおお! 陰陽師ビーム!」
思わず撃ってしまった必殺技を、炎山は軽々とした身のこなしで避けた。その動きは、風に揺れる炎を連想させる。
「危ないな。僕でなければ死んでいたところだよ。次から気を付けなよ」
……こいつは本当にいいやつだ。当たれば即死の陰陽師ビームを撃ち、向こうのビルをぶっ壊してしまった我を一切咎めようともしないとは。
「過ぎた事は仕方が無いさ。それより、早く学校へ行こう」
そうして、珍しく炎山と二人の時間が始まった。部活の話から勉強の話まで……。炎山はどうやらどの部活にも属していないようだった。
「野球か五行封印に興味あるか?」
「強いて言うなら野球に興味があるかな」
「五行封印は……」
「野球ならやってもいいよ……。昔やっていたからね」
ちなみに我が野球部と掛け持ちで続けている五行封印部は、現在部員一人である。
教室に着くと、あの人が心配そうな顔をしながら我の元にやってきた。
「安部晴明……。昨日は何があったのか分からないけど、無理しないでね。辛い時は……頼っていいから……」
彼女の言葉が花の香りのように漂う。
「……ありがとう」
「あれ、ひょっとして泣いてる?」
からかうような口調。我も冗談っぽく「うるせぇ」と言えた。
彼女と話すだけで、こんなにも満たされる。このまま時間が止まればいい。そのためなら背負ってきた陰陽師の名も五行封印部も捨ててしまえるのに……。
「しゅん……………泣かないもん、片思いは辛いことは知っているからいつかは…………でも涙がでるよぉ」
桃咲の声が聞こえた。……何だか、苦しんでいる時の我と似ている……いや、あんなに大っぴらでもなかったか。