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エナジードリンク1本目

現代社会生き抜けない。


そうお考えの皆さん。『雑賀蛍は生きづらい』このタイトルで吸い寄せられた方なのではないでしょうか? もしくは戦国好き?

現代社会は何かと生きづらさを感じる人が多いと言います。まぁ、人類の発展が早すぎるというのが理由といいますが理屈で分かっても実際に行動するとなると難しいのが人間な訳です。

長い前置きは置いておいて、物語を始める前に一つだけ。一つだけ言わせてください。

皆さん、「生きているだけで大正解」なんです。自分を責めすぎないで。

 生きづらい。生きづらい。私は人間社会の中で常に感じている。しかし、誰だってそう思っている。誰だってこなしていることだ。私だけが弱音を吐いている訳にはいかない。そうやって、悲鳴を上げる身体に鞭を打って動かす。


「あぁ、今日も一日始まってしまった」

 

 朝日が昇ると思ってしまう。ずっと夜中で良かったのにと。私だけではない。世の中に次の日が迎えることを嫌がる人はごまんといる。だからといって私のこの憂鬱さが消える訳ではない。


「仕事行こう」


 そう自分に宣言するかのように仕事に行ってすらないのにすでに帰りたくなっている人間。それが私、雑賀蛍(さいかほたる)である。

 


 朝食は家で摂らない。だって、準備している手間があるなら寝ていたいから。この頃、休んでも休み足りない。眠くて眠くて仕方がない身体に朝の水分補給をする。水分補給と言ってもエナジードリンクだ。エナドリをさながら水のように常用する私はこのペースで飲み続ければ1か月で100本は優に超えてしまうだろう。

 私は途中でゴミが増えるのが嫌なために一気飲みして飲み干した缶を家の空き缶箱に投入する。服装と髪型を最低限整えて出社できる状態にしてから家を立つ。

 私は朝っぱらから強烈な眩しさを放つ太陽を訝しみながら歩を進める。体内時計のリセットに有効だとか言うがこの眩しさだけは何とかならないのかと思ってしまう。

 私はいつも速足で駅に向かう。理由は単純明快。ギリギリまで寝ているからである。私は間に合うギリギリまで寝て体力を回復させているのだ。そうでなければ仕事などやっていけない。人間社会で私は生きていけない。


「間もなく5番線に電車が参ります。黄色い線まで下がってお待ちください」


 間に合った。当たり前のことだがいつか必ず寝坊するだろうと思いながら私はすし詰め状態の列車に入り込む。1本後の列車に乗るなどの選択肢はハナから存在しない私は何とかして車両に入り込む。

 不健康体であるか体質なのかはわからないが私は普通の人なら入れないような車両の隙間に入り込むことができる。満員列車で端末の操作なんて不可能に近い状態だがこの隙間に込めば両手が使える。私は仕事の効率を少しでも良くしようと暇なこの時間にAIにプロンプトを打ち込んでプログラムを走らせる。


「次は××~××~お出口は右側です」


 私は重い足取りで職場に向かう。


「おはようございます」


 挨拶をしても返す人間は誰もいない。私が嫌われている訳でも、死者であることを気づいていない訳でもない。純粋にこの職場の人間は挨拶を返さないのだ。


「おはようございます」


 私の後に着いた同僚も同じく挨拶に返事がない。ここに来たばかりの頃は、私も返答していたが逆に変な目で見られてしまった。数週間は粘ったが次第に私も返答しない側に染められてしまった。これが悪しき伝統が残る要因なのだと思いつつ机に向き直る。

 今日は企画案の提出があるのだ。様々な仕事があって後回しになっていたがおおよそ完成というところまで持ってきている。しかし、こういう時に限って……。


「…………」


 コピー機の不具合。それも何だろうこれ……酷いなんてものではない。何がどうすればこんな猫が認識する色覚みたいな印刷物ができるのだろうか? 人間の色覚は眼球の錐体細胞が色覚を近くしている。全ての色が3つの色、三原色と呼ばれるもので作り合わせることができると言われているがその3つは一般的な人間が錐体細胞が認識する色だからこそだ。

 しかし、猫の場合は赤を認識する錐体細胞が存在していない2種類の錐体細胞だ。つまり、猫の世界では二元色で世界が構成されている。そしてこの印刷物もそう。赤が入っていない。

 原因はすぐにわかった。赤色……プリンターの場合はマゼンタ。その位置にシアンが入っていた。そしてこのプリンターはカートリッジ式ではなくエコタンク式だ。カートリッジ式なら本体機能のクリーニングなどで自力の修繕ができるがエコタンク式の場合は業者を呼ばないといけない。つまり、印刷ができない。

 

「いらっしゃいませ」


 仕方が無いのでコンビニで印刷をする。そして普段、現金決済をしていないせいか1000円札も硬貨も無いので印刷決済ができない……。私は10000円札をコンビニで珈琲を買って崩す。本来、私は利便性はあるもののコンビニで購入すると高いためコンビニでの購入は避けている。だが、この場合は仕方ない。そして案の定、私が10000円札で購入したためか店員が嫌そうな顔をしていた。

 私はようやく印刷ができると思いながらプリンターの前に立つ。3部ほど印刷するために時間がそれなりにかかる。そのせいか私が印刷している間に後ろに並ぶ人ができたようで腕時計を見ながら舌打ちを何度もしていた。私は早く終わってほしい気持ちになりながら印刷口を見つめる。そしてお釣りと印刷したものを手に取ってそそくさと退店した。


 

「ただいま戻りました」


 相変わらず返事はない。丁度お昼休憩が終わる頃だ。普段ならば昼休憩の時間はニュースの閲覧や机の上に腕を載せ、それを枕代わりにして仮眠をとるなどをしているが今日はそんな暇などなかった。


「雑賀さんって昼食摂らないんですか?」


 不意に同僚から質問を投げかけられる。

 

「摂らないですね。昼食を摂った方がパフォーマンス的には良いと思うんですが、私の場合は昼食を摂ると眠くなってしまって業務に支障をきたしてしまうので摂らないようにしているんです」

「でも、食って人生に彩を与える行為の一つですよ」

「………その考え方、とてもいいと思います。私の場合は栄養補給できれば最悪、味も食感も何でもいいんです。食は私にとってただただ活動するためのエネルギー補給に過ぎないんです」

「…………そうなんですね」


 同僚はそう言うと自分の席に戻っていった。


「雑賀~企画案できたか~?」

「はい。只今!」


 私は上司に資料を持って企画案を提出する。上司はペラペラと捲りながら私が作成した資料を確認する。心臓の脈打つ鼓動が大きくなる。毎度毎度このタイミングが私にとって一番嫌な時間だ。早くこの場から逃げ出したいと思いながら上司の顔色を伺う。


「雑賀……」

「はい」


 「しまった。これではダメだ」と思った。上司の顔色にその口調。絶対、気に入っていない。


「こんなの雑賀の企画じゃない!」


 何その評価?


「ダメ。全然ダメ。雑賀らしさが全然ない」

「雑賀らしさ……ですか……?」

「雑賀の特性が完全に消えている。作り直し。雑賀はウチのエースなんだから。頼むよ」

「はぁ……」


 アドバイスは多少もらったが雑賀らしさとは一体何だろうか? いつもと同じ方法で作った。そして誰かの案を借りパクなど今の今まで一切していないため、雑賀らしさとは私の方法に他ならない。だと言うのに雑賀らしさとは?

 私は企画案を再度見つめながら上司の先ほどの言葉を反芻する。私としてはエースでなくていい。そこそこ地位で大きな責任を負わずに過ごしたい。でも、期待されている以上はそれに応えなければ失望されてしまう。

 失望されることは何とかして避けられなければならない。だって、失望されることは相手にとって私が死んだことに他ならないのだから。



 私は改めて企画案を作り直す気合を入れ直すためにオフィスを出て近くの自販機に立ち寄る。3つの自販機が並んだちょっとしたカフェテリアのような場所。そこに来た理由はもちろんエナドリを買うためだ。一番奥の自販機の2段目の右から3つ目。200円で売っている私が常飲しているものだが私はこれは1本あたり174円の箱買いをしている。家から職場に持ってきたいがエナドリは温度管理が必要でありながらここに冷蔵庫が無いため仕方なく自販機で買って飲んでいるのだ。

 手慣れた操作で私は端末に内蔵しているカードで決済を行う。


「決済ができませんでした」


 うん? 自販機の不具合だろうか。もう一度顔認証してカードを出して商品のボタンを押して決済へ……


「決済ができませんでした」


 …………カードが止められる程の買い物はしたことが無いし、覚えも無い。となると、カード会社がメンテナンスで今は使えないとかだろうか?

 私はカード会社のお知らせを調べるがそんなこと一切書いていなかった。仕方ないのでもう一回試すが…………


「決済ができませんでした」


 よし、別のカードを使おう。

 私はATMで利用しやすいだけで特ではないカードを使って決済を試みる。


「ピロン」


 そんな軽快な音と重量感のある音ともに商品が出てきた。一体何故いつものカードが使えなかったのかわからないが私は少し苛立ちを覚えた。しかし、何かに怒りをぶつける訳にもいかないので、ひとまず出てきたエナドリの蓋を開けて飲み始める。


「ッ!?」


 飲むと胸が急に痛くなった。突き刺すような痛み。この症状の対処法を私は知っている。それはゆっくり飲むことだ。時間をかけてゆっくりと。ただし、エナドリがぬるくなる前に。

(※急性カフェイン中毒です。カフェインを控えることを推奨します)

 頻繁に起こるものではないがこういう症状が現れるとやはり誰かが言った「命の前借り」と言う表現は適切なのだと思ってしまう。

 


 終業時間になった。続々と人が帰宅していく。だが、私は残って作業を進める。企画もそうだが、やるべき仕事がまだあるのだ。


「じゃあ、戸締まりよろしくね」

「はい」


 気がつけば最後の一人になっていた。作業もおおよそ終わって帰ろうと思えば帰れる状況だ。だけど、こういう時私はいつも「この完成させた資料のデータを消したらどうなるのだろうか」や「職場に私という死体が存在したら銅梁区はどうなるのだろうか」などと考えてしまう。

 もちろん、そんなことをしたところでデメリットしか無い。だからこそしないのだが最近やたらそんなことを考えてしまう。

 帰ろう。早く帰って寝ないと明日がキツくなる。

 私は足早に駅に向かう。私の無駄な特技は人混みの中を最適な道で歩むことだ。終電を逃すまいと押し寄せる人々を尻目に私は人にぶつかることなく先へ先へと進んでいく。そして改札へと進み端末をかざす。


「残高不足です」


 いやいや。このタイミングで? せめて出場時にして欲しかった。しかも、定期が切れているし…………。

 そんなことを思っていても終電というタイムリミットは近づいていく。少し離れた位置でチャージして改めて改札へと進むがさっきまで抜かした人々が改札の前で列になっていた。こうなるともはや並ぶしかない状況でしぶしぶ私は列に並ぶ。早く順番が来ることを願いながら私は待ち続ける。そしてようやく私の番が来ると改札に端末をかざし、許可が出たタイミングでホームへと走る。もう時間ギリギリで間に合うかわからない状態だ。

 息を切らしながら精一杯走り、電車の姿を捉える。発車の合図がなり始めて今にもドアが閉まりそうだ。私はラストスパートをかける。あと少しあと少しで………………


「発車します。ご注意ください」


 乗れなかった…………。手を伸ばせば届きそうな距離だったのに…………。

 私は呆然としながらタクシーを手配する。そして乗れないのがはじめからわかっていたかのようにすぐそばに居たようだ。

 本当、最悪…………。


 

「ただいま」

 

 なんて言葉はこの部屋には必要ない。独り暮らしだからだ。誰にも返されない挨拶程虚しいものはない。

 あぁ、職場で毎日しているんだった。

 私はシャワーを浴びた後にかなり遅めの夕食を準備する。完全栄養食のカップ麺。これが最近の私の食事だ。何を食べたところで最近は味を感じなくなってきているのでコレについてどうこう語る気はない。ただ、湯を沸かして注ぎ込み時間が経ったら湯を切る…………こぼした…………。大丈夫、シンクは注いだあとの余ったお湯で熱湯消毒をしている。だから問題ない。

 だが、頭で考えていてもやはり心に来るものはある。そんな時、お酒は嫌なことを忘れられるいいアイテムとして機能しないのが私である。酔う前に飲むとアルコールの味ではないが何かで気持ち悪くなってしまうので飲酒自体しない。

 食べ終わった私はゴミを捨てて歯を磨く。それと同時にネットで今日の出来事を見る。諸々のことが終わればもう時刻は1時を回ろうとしていた。

 寝よう。寝て嫌なことは起きた明日の私に任せよう。

 そんなことを考えながら私はベットに入る。嫌なことを考えて私は頭が熱く眠れないことが多い私は保冷枕使うのだ。こうすれば快適に寝ることができる。

 おやすみ。私の生きづらいこの世界。さようなら、今日の私。

 目を閉じて何も考えずに就寝することだけを意識する。そしてまるで重力に従って私の意識は落ちて……いかなかった。


「何故……?」


 思わず声が出てしまう。眠いはずなのに眠れない。むしろ、何故か目が冴え切っている。仕事疲れで眠くて眠くて仕方がない。

 そうだ。こういうときは羊を数えるといいのだったな。

 羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹、羊が…………羊が2467匹……。

 もういいや、起きよう。今日は眠れない日なんだ。いっそ、カフェインを摂取して完全に目を覚ましてしまおうか。

 私は冷蔵庫の中からエナドリを手に取って飲む。時刻は午前3時過ぎ。出勤までにはまだ時間がある。何にしようか少し考えていると途端に眠気が襲ってきた。さっきまでの覚醒した意識が嘘のように眠くて眠くて仕方がない。ベットに入って目を閉じる。すると何故か眠れない。念の為に目覚ましのアラームをセットしながら眠くなるのを待つ。



 アラームが鳴る。時刻は遅刻しそうなギリギリの時間だ。

 あぁ、気分が悪い。

 私は寝不足で痛む頭を押さえながら朝の準備をする。毎度のごとくただただ、今日を乗り切るための準備。そこに自分を着飾る時間も心も余裕がない。


「仕事行こう」


 そう自分に宣言するかのように仕事に行ってすらないのにすでに帰りたくなっている人間。それが私、雑賀蛍である。

さて、いかがでしょうか。この作品……。

まぁ、言うまでもないですが作者の実体験が4~8割ほど入る作品です。

ですので、この作品は作者の精神が病んだ時に執筆致しますので更新がなるべく遅くなることを祈ってください。そんなの知らねぇって方は私の不幸を願ってください。こちらの執筆が早くなります。


雑賀蛍という名前ですが、彼女は完全に現代社会に生きるのが難しい人間としてあえて戦国時代の傭兵集団である雑賀衆から名前を付けました。逆に言えば、適正は別なところで輝くタイプの人間な訳です。

それ以外の人物に名前が無いのは彼女が覚えていないのに加えて覚える気が無いからですね。実際、私も人の顔と名前すぐ忘れますし……。


最後になりますが、壊れる前に誰かに相談してくださいね。そうでないと取り返しのつかないことになりますから。

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