恋人の邪魔をする幼馴染って誰のこと? 〜パン屋で働くだけで最強と言われた私〜
流行りの『幼馴染』をテーマに書いてみたのですが、なんか思っていたのと違うのは、いつものことです。
よろしくお願いします。
村って狭い。土地は無駄に広いけど、人間関係がね。
私の名前はドリカ。
年齢は18歳。そろそろ結婚の話しが出てきてもいいお年頃で、私もさあ、少しは結婚ってやつに、夢を見ていたのよね。
この村じゃなくて、もう少ーしは都会に近い村(それでも村)の少ーしはいいとこの、イケメンまではいかなくても、少ーしはいい感じの人?辺りの話が来ないかなあと。
ところがよ。きたのは隣の家のジジイの後妻。
最近先妻が亡くなって、介護兼おらの嫁が欲しいとぬかしやがった。
私は7人兄弟姉妹の真ん中。所謂どうでもいいポジション。と言うことはよ。親は簡単に小金に目が眩むということで。
「いい縁談じゃないか」
「隣なら、うちの手伝いもやってもらえるよね」
もちろん速攻、家出した。あったり前じゃん。
どうせ家出するならと、都会を目指した。私は都会の女になる。うん。
もちろん、何も考えなしに行こうとしているわけじゃないわよ。
うちのローカルな村にもね、都会に行った人間がいるのよ、一応。魔力持ちで、そっちの勉強をするってことで都会に出たやつが。
そいつは私より一つ年下の男の子。いわゆる幼馴染ね。
子供の頃一緒に遊んだし、あいつが困ったときには助けてあげたし。それなりに私に恩を感じているとは……思うのよね、多分。
まあ、あいつに迷惑をかけるということは、理解しているわよ。それでも、住む場所と仕事を探すのは、手伝ってもらいたいなあと。
そもそもあいつんちのジジイの縁談のせいで、こんなことになったんだからね。
そんなこんなでやってきた、都会。何あれ、これ何、便利なのね、都会。私、田舎者だったのね、実感なう。
で、以前もらった手紙の住所を頼りに、あちこちの人に迷惑かけつつ、ようやくあいつんちにたどり着いたわけだ。
幼馴染の名前はフリッツ。17歳。王都の魔法学園の学生。
住んでいる場所は、3階建てのアパートだった。最上階の奥の部屋のドアをノックする。
「やっほー、来たわよ」
「ええ、ドリカねえちゃん、どうしてここへ?」
そりゃ驚くわよねえ。
驚きつつも家に入れてくれて、あんたんちのジジイのせいって言ったら、土下座してくれた。
「あんのくそジジイ……」
「本当よね」
「それで、これからどうするつもり?」
「うん、それで住むところと仕事を探したいのよ。悪いけど、助けてもらえないかな」
「ここには地方の人を雇うための職業紹介所があるんだ。住むところも斡旋してもらえるから、これからそこに行こう」
「うん、よろしくね」
私達は職業紹介所に向かうことになった。
アパートを出て一歩踏み出したところに、かわいい女の子がやってきた。
「あら、フリッツ、どこへ行くの?」
「しまった。スザナ、ごめん忘れてた」
どうやら今日約束をしていたみたい。
「ごめん、急用が入って」
「こちらどなたかしら」
「うん、紹介するね」
都会の挨拶なんて知らないけど、とりあえず村での最上級挨拶を心がけることにした。フリッツに悪いもんね。
「フリッツと同じ村出身のドリカと言います。まあ、所謂幼馴染ってやつ?いきなり来てごめんね」
「え、ええ」
やっぱり言葉は難しいわね。こんなもんでいいかしら。
「ごめん、彼女を職業紹介所に、急いで連れて行かなくちゃいけなくて。悪いけど、今日は……」
ああ、デートだったのね。本当に悪いことをしたわ。
「ごめんなさいね」
今日中に決めないと、住む所がないのよ。そんなにお金もないから、宿もとれないし。彼女は困った顔をしていたけど、我々を見送ってくれた。
私たちは急いで職業紹介所に行って、なんとか今日からできる仕事と、今日から住むところを見つけることができた。
「フリッツ、本当にありがとう」
「……う、運がよかったね」
「本当に。パン屋さんに住み込みで働けるなんて。これで安心して食べていけるわ」
「ドリカねえちゃんは早起き得意だし、料理もうまいし、体力もあるし、いいんじゃないかな」
「こっちの生活に慣れるまでは、いろいろ聞いてもいい?」
「そうだね。僕のわかる範囲で教えるよ」
「ありがとう。今日は彼女さんに悪いことしちゃったわね」
そういうと、目に見えてフリッツの顔色が変わった。
「か、彼女だなんて、いやあそういう……」
「んもー、すっかり都会のおにいちゃんになっちゃってえ~」
「やめてよ、ねえちゃん」
そうやってフリッツをからかって、その日は解散した。
即日私はパン屋さんに住み込みで雇ってもらい、即働き始めた。店の上階に従業員用の部屋があって、私以外にも3人住んでいた。
「今日からよろしくお願いします」
って挨拶したら、なぜか残念そうな顔で見られた。田舎から来たってわかるのかな?
住み込みだから三食付き。ごはんは店長さんのお母さんが作ってくれる。部屋の掃除や洗濯は各自で。仕事用の服も貸してくれた。
パンを作るのは、店長さんとそのお父さん。
お客さんの対応と商品の品出しとかは、店長のお母さんが担当する。私達は主にお母さんのフォローってことだ。
パン屋さんは仕込みもあるから、朝がすごく早い。早朝から夜遅くまで買いにくるお客さんも多くて、みんなとても忙しそうだ。これだけ忙しいお店だから、すぐに雇ってもらえたのね。
でも、今朝1人辞め、翌日にさらに2人辞め、従業員は私だけになったけど。
そんなに大変なのかな、ここ。
まあ、田舎の暮らしよりはずっと楽だけどね。
だって、都会は井戸じゃなくて、水道なのよ!水汲みないんだ。井戸がなくても生きていけるってすげえ。それだけでも、仕事、楽。
あと、村の夜の仕事もないなんて、サイコーだわ。
*****
そうやって毎日忙しく過ごした。
少し生活に余裕が出てきたら、周りの様子も見えるようになってきた。
ここのパン屋さんは、主に平民が使うところで、店の場所が繊維工場の近くにあるから、そこで働く人がよく買いに来てくれる。
だから、仕事前に昼食用で買う人。仕事帰りに夕飯用で買う人。早朝「遅刻遅刻~」って言いながら、食パン買って口にくわえて走っていく人。それぞれである。
お客さんを観察するくらいの余裕も出てきて、少しではあるけれど、毎日の生活も楽しくなってきた。
そんなあるとき、フリッツが店にやってきた。
「いらっしゃ……あ、フリッツ。来てくれたの?」
「ドリカねえちゃん、調子はどう?」
「おかげさまで元気よ。仕事も順調順調!」
「……あの店で長く働ける人を紹介してくれて、本当にありがとうって言われたよ」
「えっ、何か言った?」
「いや、ねえちゃんが元気そうで本当によかった」
「まかせて。あ、そうだ、フリッツ」
「何?」
「今度時間があったら、一日付き合ってもらえない?」
「うん?何か困りごと?」
「ううん、やっと休みがもらえそうだから、買い物に行きたいのよ。お店を教えてもらえると助かるんだけど」
「やっと休みか……」
「何か言った?」
「い、いや。あ、大丈夫だよ。何日?」
「急で悪いけど、3日後大丈夫?」
「うーん、なんとかするよ」
「ごめんね」
「大丈夫、それじゃあ3日後の9時に、中央広場の噴水前でどう?」
「わかった、よろしくね」
それからフリッツは、パンを数個買って、帰っていった。
なんかぶつぶつ言ってたけど、なんだったのかしらね。フリッツがそれ言うたびに、店長が向こうを向いてたの、何なのかしら。
3日後、フリッツからこの街のことをいろいろ教えてもらった。おすすめの雑貨屋さんや、安い食堂。服の流行りとか、あとは観光案内も。
毎日大変だろうと、クレープをご馳走になった。具はなかったが。
あと、落ち着いたら、他の仕事も探してみるといいよと言われた。
「ほら、急に決めたから。もっと条件のいいところも出る可能性もあるよ」
「そう?私は今でも大丈夫だけど」
「そそそう?それならいいけど」
都会ってすごいのね。そんなにいい仕事があるなんて。
それから数日、普通に仕事をして、普通に生活していた。たまーにお休みをもらえて、やっとたまったお金で買い物をする。住み込みだからごはんは3食出るし、基本買い物も不要だけど、たまにはねえ。
*****
そんなある時、事件は起こった。
久ーしぶりにお休みをもらい、買い物に出かけた。
噴水なんて田舎にはなかったから、出かける時は必ず噴水を見に行くようになっていた。そこの前のベンチにすわって、今日はどこに行こうかと考えるのが好きだった。
今日もいい天気で、噴水を眺めることができるお気に入りのベンチにすわって一息ついたとき、私の前に4人の男女がやってきた。男性2名女性2名、カップルでデートかしら。
噴水が見えなくなって、正直邪魔だった。でもまあ、彼らも噴水見るなら仕方ないわねと思ったけど、どうも彼ら、こっちを見ているのよね。それに男性がこそこそ女性の耳元に囁いている。
「こいつ?」
「そう」
気味が悪いから離れようと立ち上がった途端に、その中の大柄な男性が私の前にすいっと出てきた。ぶつかりそうだったから、急いでまた座った。上から目線で睨まれる。
「君か。フリッツの迷惑な幼馴染というのは」
何?こいつらフリッツの知り合い?
あ、よく見たら、女性の一人がフリッツの彼女だった。名前は確かスザナよね。でも一緒にいるのは別の男性だわ。しかも2人。フリッツ大丈夫?
にしても、変なこと言ったわね。
「迷惑な幼馴染ですか?」
もう1人の細身の男性が、メガネをクイクイ上げつつ言う。
「そうだ。君は幼馴染であることを理由に、フリッツに迷惑をかけまくっているそうじゃないか。彼女がいるというのにデートの邪魔をしたり、おごってもらっているそうだし」
「はあ?」
少しぽっちゃり丸顔の女の子が言う。
「それに時々泊りにいっているそうよ。未婚の女性がなんてはしたない」
「はあああ?」
「フリッツの恋人に失礼だとは思わないのか?」
「はあああああ?」
まっっったく、意味がわからない。
「あのー、なんのお話ですか?確かに私はフリッツの幼馴染ですよ。でも、そんなことは……」
スザナが目を潤ませて言う。
「デートの邪魔したじゃない」
ああ、確かに一度邪魔したわ。ここに来た時だけね。
「確かに一度……」
「ほら、みとめるんだな」
「だから一度……」
「やはりな」
「最低ね」
こいつら人の話を聞かねえ。都会の人間はせっかちって聞いていたけど、すごいな。
人の話を聞けよ。
結局奴らは自分達だけ言うだけ言って、帰っていった。
「……都会の人って、話を聞かないの?」
「そんなことねえって」
近くで焼き栗を売っていたおっちゃんが声をかけてくれた。
「なんですかね、あれ」
「あいつら近くの貴族学園の生徒だな」
それじゃあ、フリッツの同級生なのか。
フリッツは高度な魔力持ちってことで、田舎から都会に来た我ら田舎の英雄だ。貴族に混ざって勉強しているって聞いてはいたけど、苦労しているんだろうな、きっと。
「……フリッツ、大変だな。貴族学園って、魔法以外にも貴族のあしらい方も習うんだろうな」
焼き栗屋の店主が、むせていた。
*****
やっぱり納得いかなかったから、私はそのままフリッツの家に向かった。だけどフリッツは留守で、仕方ないから一度戻って手紙を書いて、家のドアの下に差し込んでおいた。
数日後、パン屋にフリッツが飛んできた。
「いらっしゃ……お、フリッツ」
「ドリカねえちゃん、ごめん!」
「今忙しいから後でいいかな」
「わかった。それじゃ後で来たらいい?」
「仕事が終わるのが、夜の11時……」
「ドリカくん、すぐ行ってきていいよ」
店長が口をはさむ。
「え、でもまだ忙しいんじゃ……」
「だ、大丈夫だから、大丈夫だから」
「……ねえ、まだ早朝なのに、深夜まで働かせる気なの?」
「やっぱりここ、ブラックって……」
何かこそこそ話しているお客さん達がいるけど、私は店長に押されて、フリッツと店を出た。
「やっぱり他の仕事を探さないと……」
「何、フリッツどうかした?」
「あ、ああ、ごめん。手紙のこと」
「うん、この前のことなんだけどね」
噴水前での出来事を話すとフリッツは、私に頭を下げた。
「ごめん、あいつら何か勘違いしているみたいなんだ」
「私がフリッツにたかりまくっているような発言していたわよ」
「なんだそれ」
彼らはフリッツの同級生だそう。
フリッツも彼らに、私が言われたのと同じことを言われたそうだけど。
「とにかくこっちの話を全然聞かないんだ。もうどうしたらいいのか」
そうして、フリッツの事情を聞いた。
*****
数日後。
久ーしぶりの休暇で、再び噴水を見に出掛けた。前回はなんだか馬鹿らしくなって、買い物に行くのやめちゃったからな。今日はどうしよう。
またあいつらに会うなんてことないよねえ、そんな偶然落ちているわけ……。なんて思った時期が私にもありました。
こいつら、なんでまたここにいるんだろう。
「あのー、もしかして私の後つけてます?」
思わず聞いてしまうほどに、4人組が私の前に立っていた。
「あんた、まだフリッツのこと解放しないんだって?」
「早くここから出て行きなさいよ」
「田舎に帰れっていうの」
フリッツの彼女は直接私に文句を言うことはないけど、あいつらに言わせているのが明らかで、ムカつく。
「何か言いなさいよ」
「え?話していいの?」
丸顔の女の子が、珍しくこっちに話をふってきた。私はベンチから立ち上がり、腕を組んだ。
「あのねえ、私はフリッツにたかってなんかいないわよ」
「嘘つくな!」
「フリッツは毎日お前のことで忙しいって言っているんだぞ!」
「え、何それ」
フリッツくん。君は私に何か隠していることが、あるのかい?
「ねえ、一度フリッツも連れてきてくれないかな。どうやら誤解しているみたいだし」
「彼を呼ぶ必要なんてないわよ」
「そうだ、お前が田舎に帰ればいいだけだ」
私が反論したせいか、余計に彼らの声がヒートアップした。その声が大きいせいで、周りにいた人たちもこちらの様子を伺うようになっていた。
私が一つ言うだけで彼らはその倍かける人数反論してくるから、私は言われっぱなしのサンドバッグ状態だった。つい虚な目になっても仕方ないよね。
貴族学園の生徒ってことは、こいつらも貴族かもしれないし。フリッツ同様、魔法特待生の庶民かもしれないけど、下手なことをすると身が危うい。
焼き栗屋のおっちゃんが『頑張れ』って横断幕作って、こっちに向けていた。
それより援軍送ってくれ。
そんな私の心の声が聞こえたのか、フリッツが走ってくるのが見えた。
「ちょっと、すみません、通して」
人混みの中をかき分けて、フリッツがやってきた。
「役者が増えたぞ」
って、近くのおっちゃんが話している。出店も増えてないか。これ見せ物じゃねえぞ。
「あのー、フリッツくんや。これ、どういう……」
「ドリカねえちゃん、大丈夫?」
フリッツは彼らの前に立つと、頭を下げた。
「彼女を責めるのはやめてもらえないか?」
「フリッツ、まだこいつを庇うのか?」
「幼馴染だからって、自分の彼女より優先するっておかしいでしょ?」
また3人が文句を言い始めた。
相変わらず彼女さんは、黙っている。少し斜め下を見つめ、涙を堪えているように見える。
あれ、うちの末の妹がよくやる手段に似ているな。
家の手伝いしろって親に言われて「私、お腹が……」って言うやつ。昨日ラスイチの焼肉奪ったやつのセリフじゃねえって言い返されて、本人もばれたかーってガハガハ笑ってたやつと一緒だな。
「なんだ、嘘泣きか」
ついボソッと声に出してしまった。そうしたら4人全員に睨まれた。
「何だと?」
「嘘つきはあんたでしょ!」
なんかめんどくさくなってきた。
「フリッツ、こいつら人の話を全く聞かないんだけどさ。どこかで仲裁してくれるとこないの?」
田舎だけど、村にはそういうとこあったんだよね。
「あるよ。そうだね、誰かに間に入ってもらったほうがいいかも」
「そんなことしなくても、こいつが出ていけばいいだけだ」
「いや、そんなことしないし」
そうしていたら、騎士2名がこちらにやってきた。街中を警備する人達だ。
「どうした、何か揉め事か」
「そうなんです。なんか出ていけって言われているんですけど」
「こ、こいつが悪いんです!」
ガタイ男が私を指差し怒鳴る。
「お、お前が黙って出ていけばいいんだっ」
「あのー」
後ろから声がかかった。全員で振り返ると、焼き栗屋のおっちゃんだった。他の出店のおっちゃん達もいる。
「その子、以前からずっと出ていけって言われてて」
「そうそう、幼馴染がどうとか言われていたわねえ」
「あんたら、貴族学園の子だろう。騒ぎを起こしたら学園で問題になるんじゃ……」
噴水周りの出店の人々が援護してくれた。サンキュっ。
4人がヤバいという顔をして、さらにこちらを睨んできた。私のせいじゃないでしょ。
「あのー、そもそもなんだけど、私の何が気に入らないのか、簡潔に教えてくれます?」
小さく手を上げて聞いてみたら、メガネ男が上から目線かましてきた。クイクイ。
「お前はなあ、フリッツの幼馴染であることに胡座をかいて、このフリッツの彼女であるスザナをいじめたのだ」
「それに、2人のデートの邪魔をしたのよね。幼馴染を優先して、恋人を置き去りにするなんて、フリッツもひどいわ」
「フリッツに貢がせたとも聞いた。ただでさえ平民の魔法学生の彼になんという負担を強いるのだ。許せん」
周りの痛い視線を感じる。
「あのー」
そこへフリッツが、そーっと手を上げた。
「どうしたフリッツ」
「フリッツくん、本当のことを言ってもいいのよ」
「幼馴染を優先したのはよくない。だが、改心すればスザナも許すと言っている。わかったな」
「その、そもそもなんだけど」
フリッツの歯切れが悪い。
「どうしたの」
騎士も側に来て、フリッツの前に立った。
「君達は、少し黙っていてくれ。ちゃんとこちらの言い分も聞くんだ」
4人は仕方なくといった感じで黙った。
「さあ、フリッツ君とやら。何が言いたいんだね」
騎士に言われて、ようやくフリッツも頷く。
「あの、そもそもなんですけど……僕はスザナと付き合っていません」
「「「「はあ?」」」」
会場中が叫んだ。
「き、君の彼女じゃないのか?」
「はい、そうです。あと、こっちの幼馴染も彼女じゃないです。僕の姉みたいなもんです」
「そうですよ」
私も頷く。以前フリッツから今の状況を詳しく聞いた時に、スザナは自分の彼女じゃないって言われて驚いた。彼女どころか……。
フリッツは自分達の状況を説明した。
「幼馴染のドリカねえちゃんが田舎から突然出てきて、仕事と住むところをその日のうちに決めなくてはいけなくて。丁度その日にスザナから、勉強のことで教えてほしいことがあるからうちに来るって連絡がきて」
「女の子が独身男性の家に行くなんてダメでしょ」
「そうなんだよ。でも伝言魔法で急に言われて。断ろうとしたところに丁度ねえちゃんが来て、すっごく助かったんだ」
だから余計に急いで出かけたんだ。
「それを、幼馴染がデートを妨害したことにされたと」
「そう」
「で、でも、幼馴染のことで忙しいって、いつも言ってたじゃない!」
「だって、そうでも言わないと、君、うちに入ろうとするじゃないか!」
「もしかして幼馴染が泊まりにきてるってやつは?」
「ごめん、嘘ついた。そうでも言わないと突入されそうで」
「それじゃあ、幼馴染に奢ったって言ってたのは?」
「クレープ一個奢ってもらっただけよ。具なしだけど」
「かわいそうに…」
あ、なんか知らん人に同情された。
「なぜかスザナは僕の行く所に必ずいるんだ。だから、怖くて。それで何か用事があることにしようと思って。それでつい幼馴染の都合でって、嘘つくこともあって……」
「フリッツくん。後で話があるからね」
「……はい」
スザナが縋り付くようにフリッツの側に来る。慌てて騎士が間に入った。ナイス。
「でも、本当にドリカねえちゃんのことで用事もあって……」
何も頼んでいないけどな?
「だって、ドリカねえちゃんの仕事、本当に急だったから、いいとこなくて……」
フリッツがぶつぶつ言い始めて、やがて私に90度の角度で頭を下げた。
「ねえちゃん、ごめん!あの時いい仕事なくて。でも僕んちに住んでほしくなくって。そ、それで、最悪な仕事しか残ってなかったけど、それ押し付けちゃった!」
最悪?もしやあのパン屋は最悪なのか。
「参考までに聞くが、その職場は?」
恐る恐る騎士が尋ねる。
「オオニシパン屋です」
「「「あそこかっ!!!」」」
広場中の人間が叫んだ!4人も叫んだ。騎士ものけぞった。
「そんなにやばいとこだったの?」
どうやらあそこのパン屋は、ブラックパン屋で有名だったらしい。
安くておいしい、早朝から深夜まで営業している、利用する人から見たらとても良心的なお店なんだが、従業員には最悪の職場なのだと。
まず、勤務時間、めちゃ長。賃金、最低。休み、ほぼなし。そりゃいくら求人だしても無理だわ。
私みたいに急に都会にきた田舎の子が、騙されて行く定番スポットだったらしい。
「でも、うちの田舎に比べたらねえ」
「え、あれよりすごいの?」
「うん、日の出と共に仕事始めるし。一応交代制だけど、夜のお仕事もあるのよね」
「なななんだその、如何わしい夜の仕事とはっ!」
ガタイ男が顔を真っ赤にして怒鳴り出した。
「夜の仕事って言ったらあれよ」
「ドリカねえちゃん、都会には、あの夜の仕事はないんだよ……」
「そっか。騎士さんいるもんねえ」
やっぱ都会は楽でいいなあ。フリッツが説明する。
「うちの村は、すぐ隣に森があって。そこから時々魔獣が出て来るんだよ」
「だから、夜はみんなで見張りをするの。魔物が出たら、えいってね」
槍を投げる真似をしたら、みんな一歩離れたんだけど。
「え、あなたも戦うの?」
丸顔女生徒が恐々聞いてきた。あったりまえじゃーん。
「もちろんやるわよ?うちの村、全員戦えるけど?」
「だから、あんなパン屋で仕事できるんか……」
田舎怖いって声が聞こえた。そんな田舎から逃げた自分、もしかして悪い選択ではなかったのか?
フリッツは、私をブラックパン屋に押し付けた良心の呵責から、代わりの仕事を探してくれていたらしい。でも現在私がオオニシパン屋で働いているって言うと、そんな猛者は、そこに置いておけって言われて、なかなか転職先が見つからなかったんだって。
職業紹介所にも、頼むから辞めさせないでくれって、土下座までされたらしい。
いや、パン屋を行政指導しろ。
「彼女じゃなかったんだ……。いや、そんなことはない、スザナが嘘を言うわけがない」
ガタイ男がブツブツ言っている。他の2人も一緒に。
あれ、なんか、様子がおかしい。
「「「スザナ様の恋人は、フリッツだーっ!」」」
3人がブチ切れて、私達の方に向かってきた。
なんか目がおかしいよ、真っ赤になっている。
「やばい、洗脳魔法か!」
騎士さんの1人が私達の前に出てきたけど、丸顔に魔法で吹き飛ばされた。あいつ、強いな。騎士さん弱いな。
「フリッツ!」
「大丈夫!」
フリッツが風魔法で防御する。
突進する3人は、それでもこちらに来ようとしている。無理に動こうとしているせいか、表情はとても辛そうだ。
その間に、スザナが横から私達の元に近寄る。
「ひどいわ、フリッツ。また幼馴染を優先するのね」
「していません」
「わかっているのよ。あの子が妨害するのね」
「してないって」
スザナが更に一歩近寄る。よく見ると手にはナイフが握られていた。
「きゃっ!」
「スザナさん、落ち着くんだ!」
「やめろっ!」
近くのおっちゃん達がスザナに声をかけるが、彼女はナイフを持ったままだった。手が震えている。
「フリッツは、わ、私の大切な人なの。彼は私のものなのよ!」
「スザナちゃん、ダメだよ」
私は彼女の手を押さえ、ナイフを取り上げた。
あ、これ。折りたたみナイフね。危ないわねえ、畳んでしまって……。
パキッ。
「「パキッ?」」
「あ。ごめん、折りたたむ方向間違えちゃった」
ナイフの折りたたむ方向を間違えちゃったから、折れちゃったわ。
「ごめんね、ナイフ、折れちゃった。これ、強度イマイチね」
「「普通は、折れない!そもそも、折りたたみナイフじゃない!!」」
「え、そーなの?それじゃどうやって持ってきたの?」
「鞘があるから……」
「そっかー、ごめんごめん」
これ、弁償かな?
呆けた様子で、スザナがその場に座り込んだ。
慌てて騎士さんが彼女を拘束する。
「これ、そんなに大事なナイフだったの?」
「ねえちゃんは、黙ってて」
他の騎士さんもやってきて、彼女から魔道具を回収していた。『洗脳くん14号』とか、聞こえたな。
それを止めたら、3人がその場に倒れた。
更に多くの騎士さんがやってきて、スザナと他の3人を連れて去っていった。
どこからか、見せ物は終わりだぞー、お疲れさーんって声がかけられ、野次馬達は解散した。そのまま屋台で飲み食いして、宴会に突入した奴もいたが。
とりあえず、屋台のおっちゃん達には、お礼を言っておいた。どうやら店の誰かが、フリッツを呼んできてくれたらしい。
「おかげさまで今後は絡まれずにすみそうです」
「他の店で働きたくなったら、今の職場名と勤務日数を言えば、大抵の店は雇ってくれると思うぞ」
「そこまでブラックなんかい、オオニシパン屋」
「店主は悪いやつじゃないんだが」
「そうそう、パンはうまいし、安いし。でも、仕事に夢中になりすぎて、他は二の次三の次」
「店長の奥さんも、私は無料のバイトじゃねえって、出ていっちゃったし」
「だろうな」
あれから学園で話し合いとカウンセリングが行われて、結局スザナは家に帰ることになったという。
「スザナも田舎の出身でね。貴族だけど」
都会に来たけど元々大人しくて友達もできない。勉強も大変。そこへ田舎出身でも1人で頑張ってるフリッツを見て、好きになってしまったと。
「でもなかなか恋人になれない。そこに幼馴染が現れた。仲良さそう。彼を奪われてしまう。そんなことさせないわと、嘘を言って同情をひく作戦にでたと」
元々スザナは可愛いから、泣いている姿に胸ズッキュンされちゃう子が出てきて、その子達に魔道具『洗脳くん14号』を使用したというわけだ。そこで妥協してそいつを彼氏にしておけば、問題なかったのでは?
ちなみにスザナの得意魔法は、探索。相手の居場所を検知してって……ストーカーやないかーい。それで、私やフリッツを見つけることができたのか。
多分ずっと我々の行動を監視して……こわっ。
例の3人は、スザナに同情したところを洗脳くんで利用されたと判明したので、学園としてはお咎めなしとなった。
なんか納得いかなかったので、処罰はオオニシパン屋でバイトって提案したら、土下座された。
先生も、それだけは勘弁してやってくれって泣いたの、解せぬ。
「スザナもさ、ちゃんと話せばよかったのにね。せめて、お友達からでもさ」
「んー。でも付き合う気はなかったな」
「なに?他に好きな子いるの?」
「べ、別に、関係ないでしょ」
「おおう、ヒューヒュー」
「もー、揶揄わないでよ」
「その子には、勘違いされないようにね」
「わかってる。ドリカねえちゃんには、かかわらない。幼馴染には、優しくしない」
「おめえ、いい度胸だな。ああん?」
「しまった、本音が出てた」
今後もフリッツには、会いに行ってやろう。
同郷だからって、必ず親切にする必要はない。
だけど友達なら、たまには昔に帰るのもいいんじゃないかなと私は思うのよね。
「困ったら誰かに頼ることは、悪いことじゃないと思うのよ。でもそれを、当たり前って思っちゃダメよね」
「お互い様って言葉もあるよね。僕も昔はねえちゃんに助けてもらったもん。だから、今回僕を頼ってくれて、これでやっと恩が返せるって思ったんだ」
「ありがと」
「僕もね」
*****
結局、私はまだ例のパン屋で働いている。
でも店長に言うことは言った。世の中には労働条件ってもんがあるんだと。
そうしたら、夕飯のおかずが一品増えた。そういうことじゃねえと追加説教しといた。美味しいからいいけど。
時々職業紹介所の前を通ることがある。従業員と目が合うと、速攻で店じまいするの、やめてほしいんだが。
フリッツは、他の3人と和解した。元々正義感が強くて、悪い子達じゃないと。でも、思い込みはすんごく激しそうだけどな。それでも友達になれそうだと笑っていた。
フリッツは筆記も実技も優秀で、上位の魔法使いになれそうだと喜んでいた。
最近気がついたんだけど。もしかして、うちの村人って、全員最強なんじゃないか?
うちの村、魔法使いは少数だけど、ほら、そんなもんなくても魔獣はやっつけられるし。うちの親父とか兄貴はワンパンで倒しているし。
世の中のみんな、そういうものだと思っていたんだけど、最近、まあ薄々気がついてきたけど。
最強と言えば、
「君はあのパン屋で無双するすごい人だ。ナイフをへし折る最強だ。ぜひお付き合いを」
現在、私達のトラブルを仲介してくれた騎士さんの1人に懐かれている。丸顔女生徒に飛ばされてたやつな。
強さに惹かれたって言うけどさ。都会の価値観ってわかんない。
でもまあ、私も都会の女に近づいたのかしらね。
さて、今日もお仕事がんばりますか!
フリッツ「そういえば、ドリカねえちゃんは、村からここまでどうやって来たの?馬車代あったの?」
ドリカ「走ってきたけど?」
フリッツ「……ふーん」




