表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

葬儀屋機関

作者: 田中凸丸
掲載日:2026/06/14

今度、長編で投稿しようと考えている作品のプロトタイプ的なものです。

時代背景としては19世紀後半~20世紀前半辺りをイメージしたもので、電話やラジオなどが余り普及していない感じです。

 雨が体を打つ、雷が落ちて眩しく光り、轟音が響く。そんな外出に適さない天気の中、男は涙を流しながら、叫ぶ。


「なんで、なんで、君が、、、、」


 喪服を着た男が縋り付くのは一基の墓。其処には女性の名が刻まれており、男は悲しみを口にする。


「君が、、あんな事故に遭わなければ、、、君が生きていてくれれば!」


 どれだけ泣いただろう、縋っただろう、昼か夜か分からない中、泣き叫ぶ男の後ろから、声を掛ける者が居た。


「彼女を生き返らせたいですか?」


「え?」


 男が振り返ると其処には長身の男性が傘を差して、男を見降ろしていた。燕尾服にシルクハット、ニコニコとした笑みを浮かべる謎の男は訝し気に自分を見つめる視線を無視し、言葉を紡ぐ。


「私なら、彼女を生き返らせることが出来ますよ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 とある田舎町、特に歴史上重大な出来事がある訳でもなければ、観光地になるような場所も無い。敢えて特徴を挙げるならば、ガスや電気、電話線などが通っているぐらいだが、それも余程の僻地でなければ普通の事。本当に何も特徴のない、旅行中に通り過ぎるだけの町の警察署、その入り口で一人の女性が待ち合わせでもしているのか、周囲をキョロキョロと見回し、腕時計を見て溜息を吐く。


「やっぱり、あんなの適当な嘘だよね、、、」


 自分に連絡先を渡してくれた受付の中年女性の顔を思い浮かべながら、女性はその場を去ろうとしたが、その時彼女へ男が声を掛けた。


「アンタが俺達に連絡を取ったルイって人か?」


「えっ?」


 後ろから聞こえた声に振り向くと男性と女性、二人の人物が彼女を見つめていた。

 男性は十代半ばから後半くらいの青年、普通であれば高等学校(ハイスクール)に通ってても可笑しくない年齢の糸目と赤髪、黒いコートが特徴的な青年だ。


「坊ちゃま、いきなり声を掛けても相手が混乱するだけです。まずはこちらから名乗らないと」


 青年を坊ちゃまと呼び、窘めたのはメイド服、それもミルクホールやパーラー、カフェで使われるような集客目的のメイド服ではなく、古式ゆかしい貴族に仕えるメイドが着るような代物に身を包んだ女性。

 年は二十代後半か?身長が高く、長い灰色の髪をたなびかせる彼女は、その垂れ目がちな瞳と纏う雰囲気から服装を無視すれば青年と姉弟のようにも思える。


「えっと、もしかして貴方達が?」


「ああ、俺達が葬儀屋機関、ジョン=シュタイン」


「同じく葬儀屋機関に所属し、坊ちゃまの身の回りのお世話をしております。メイドのパオリン=ル・フォイです。お見知りおきを」


「とまあ、自己紹介が済んだところで、立ち話もなんだし、何処かで詳しい話を聞いてもいいか?」


 そうして女性=ルイも彼等に名乗った所で、近場のダイナーへと移動する三人。移動中、ダイナーについて席に座った後もメイド服に身を包んだパオリンは目立ったが、ジョンもパオリンも気にするそぶりは見せず、堂々としている。


「さて、それじゃあ話を聞かせてもらおうか?」


 騙されてないよね?と疑いながらも、自分の不安をいい加減誰かに吐露したいこともあり、ルイは一枚の写真を取り出し、机の上に置くと自分が体験した奇妙な出来事を語り出す。


「写真の子、、、レミィ=アルカナナイトって言うんですけど、アタシと彼女は幼馴染で大学(カレッジ)への入学で彼女が隣町に引っ越すまでよく遊んだりした、、、親友だったんです。でも、、、一か月前、交通事故で亡くなって、、、警察の人が言うには、レミィが急に車道に飛び出して、、、それで車に轢かれたって、、、その後はレミィの両親が住んでいるこの町で葬式を挙げて、、、」


 その時のことを思い出したのだろう、涙目になり、声も徐々に聞き取りづらい鼻声に変わっていく。話の進みも遅くなっていくが、ジョンとパオリンは急かすような事はせず、落ち着くまで待つ。


「アタシが見たのは一週間前でした。本当に唯町をブラブラ歩いていた時です。信号待ちの向かい側に、、、いたんです。レミィが、、、何言ってるんだと思いますよね?でもいたんです。彼女が、首元に包帯を巻いて、視線が前を向いていなかったですけど、、、アタシ驚いて信号が青になったら、直ぐに向かい側に行ったんですけど、、、人混みで直ぐに見失って」


「死んだ筈の友人が何故か、自分の目の前に現れたと、、、」


「周りの人間は見間違いだとか、他人の空似だとか言ってたけど、あれは見間違いじゃないです!だってずっと一緒にいたんです。見間違うわけがない!あれは間違いなくレミィでした!死んだ筈のレミィがそこにいたんです!」


「ルイ様、落ち着いてください」


「あ、ご、ごめんなさい。それでアタシ、レミィが死んだ事故をもう一度警察に調べてもらいたいって、掛け合ったんです。でも警察の人も見間違いとか言って、真面に聞いてもらえなくて、そしたら職員のおばさんが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、電話番号が書かれた紙をくれて」


 そしてそこに電話して、ジョンとパオリンの二人だったわけだ。ルイは上目遣いで二人を見つめる。自分より年下の男の子にメイド服を着た年上の女性。いっそドッキリだと言ってくれたほうが楽に想える。


「あはは、なんでしょうね、アタシ?死んだ人間が生き返る事は無いってのに、話を聞いてくれてありがとうございました。きっとアタシの見間違いだったんです」


 自分が頼んだパンケーキ分の代金を机に置いて、席を立ちダイナーから出ていこうとするルイ。

 

 その時、


「あるぜ」


「え?」


「死んだ人間が生き返る方法、、、いや、亡者を生者へと作り替える方法が」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 死者蘇生というのは古くから人類の夢若しくは禁忌として語られてきた。死者の体を繋ぎ合わせて出来たフランケンシュタイン、ウィルスによって動き出すゾンビ、呪術によって操る僵尸(キョンシー)、この手のものを挙げればキリがないが、所詮は作り話でSF小説や映画でしか見る事のないもの、()()()()()()()

 SF小説や映画の台頭により訪れた科学ブーム、それによって生まれた新技術達。ゼンマイ仕掛け、延いては電池仕掛けによって稼働する人工心臓、新種の鮫のロレンチーニ器官の解析によって生まれた僅かな電流で脳を刺激し、無理矢理覚醒させる電極ボルト、細胞の腐敗を止める特殊防腐剤。これらは死者蘇生を目的としたものではなかった。だが、これらの技術が組み合わさった結果、神をも恐れぬ所業、死者蘇生を可能としてしまった。

 これらを扱うには高度な技術と多方面の深い知識が必要な為、多くの人間は死者蘇生が可能であることに気付くことは無かった。逆に気づいた一部の天才・狂人たちは自らの欲望に負け、死者蘇生に手を出してしまった。

 ある者は愛する者を生き返らす為に、ある者は無敵の軍隊を作る為に、またある者は金儲けのためにと、裏の世界でひっそりとけれど確実にその技術は死者再生(ネクロライズ)として広まっていき、死者再生(ネクロライズ)された者は屍人と呼ばれた。

 だがそれは倫理観、軍事バランス、経済などのバランスを崩してしまう。故に生き返った死者は再び死ななければならない。もう一度葬儀を行い、現世から断ち切らねばならない。その理念を元に集まった者達が作った組織、それが葬儀屋機関だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


死者再生(ネクロライズ)、、、」


「ああ、それならアンタの話にも辻褄があう」


「ちょ、ちょっと待ってください、、、そんなの聞いたことも」


「極秘の情報、表の世間では広まっていない技術ですからね」


 ジョンに呼び止められ、彼から死者再生(ネクロライズ)について聞かされたルイだが、困惑しており、話が上手く理解できない。


「俺達葬儀屋機関は、そう言った死者再生(ネクロライズ)を利用する奴、死者再生(ネクロライズ)された屍人を専門にする組織だ。で、アンタに連絡先を渡したのも、多分俺達に所属している奴の一人だな」


「ええ、」


「俺達の役割は二つ、死者再生(ネクロライズ)を利用する奴をとっちめて生命を弄んだ罰をきっちり受けさせること、そして弄ばれた屍人を再び弔ってやることだ」


「弔う、、、」


「どうした?」


「その、、、、死者再生(ネクロライズ)って悪い事なんですか?死んだ人とまた会えるって素晴らしい事だと、、、」


 幼馴染を亡くした辛さを経験したルイ。彼女からしてみれば死者再生(ネクロライズ)はなんら悪い事の様には見えない。寧ろ、善行のようにすら思える。もう二度と会えない筈の人と再び会う事が出来るのだから。

 そんなルイの言葉にジョンは僅かに目を開くと、はっきりと己の考えを告げる事にした。


「これは俺の持論だから、別に従えとか考えを変えろとは言わない。その上でよく聞いてほしい、いいか人はな生き返ったらダメなんだよ」


「へ?」


「必死に生きるのは良い、延命に固執するのも良い、死ぬ直前に死にたくないと叫ぶのも構わない。故人に思いを馳せるのも、もう一度会いたいと、生き返って欲しいと願うのも構わない。でも()()()()()。それ以上先は進んではいけない。命の、死者の、生前の人生の冒涜だ。そして死者再生(ソレ)をしてしまったら、狂ってる。狂ってなくてもいずれ狂う」


「どういう、、、、」


()()()()()()()()()。死んでも、また死者再生(ネクロライズ)すればいい。人を殺してしまっても死者再生(ネクロライズ)で生き返るから問題ない、、、そうやって狂っていくんだよ死者再生(ネクロライズ)に関わる奴らは」


 ジョンとパオリンは見てきた。死者再生(ネクロライズ)に関わってきた者達は皆、人の命を軽く扱っていた。それこそ長旅の途中に寄った店で買ったチープトイのように。


「だから、俺は絶対に死者再生(ネクロライズ)を肯定しない。死者再生(ネクロライズ)を否定して、利用する奴らを許さない。それは命への、死者再生(ネクロライズ)された奴への冒涜だ」


 他人の言葉を借りた薄っぺらい思想とは違う、確かな経験と信念の元に導きだされた思想なのだろう。


「じゃあ、もしレミィが屍人だったら、、、」


「悪いがその時は、、覚悟してもらう。・・・別れの言葉を言うくらいなら待つさ」


 それからは情報収集が必要だとジョンが立ち上がり、パオリンもそれについていく。テーブルの上には注文したメニューの代金と『一週間後、同じ時間で此処で待つ』と書かれたメモが一枚。

 ルイは二人の後を追おうとするが、その時にはもう二人はいなかった。


「なんなの、、、これ」


 死者再生(ネクロライズ)、屍人、葬儀屋機関。何か悪い妄想のような、いっそ妄想であると誰かに否定して欲しいくらいだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 一週間後、ルイがダイナーに向かうと既に以前と同じ席に同じ格好でジョンとパオリンは彼女を待っていた。

 あの後、落ち着いて考えたやはりドッキリか何かではないかと、考えたが違った事にルイは複雑な溜息を吐く。


「雑談は必要ないだろうから、結論だけ。アンタの友人、レミィ=アルカナナイトは屍人の可能性が高い。そして彼女に死者再生(ネクロライズ)を施した、もしくは死者再生(ネクロライズ)を依頼したのはこの男だ」


 ジョンが懐から出した白黒写真には眼鏡を掛けた瘦せぎすの男性が写っている。


「この男は、、、?」


「この町の墓守に聞いたところ、レミィ=アルカナナイトの墓が建てられてから、毎日欠かさず墓参りをしていたらしい。墓守は彼女の恋人だと思っていたそうだが、、、けれどアンタがレミィを見たっていう数日前からパッタリ墓参りをすることはなくなったらしい」


「レミィに恋人がいたなんて、、、」


 親友であると思っていた筈なのに自分が知らない情報を聞かされて、ルイはショックを受ける。親友と思っていたのは自分だけなのかと。


「あーーー、恋人がどうか、、、、いや、、、、これも見てもらった方が早いか、、、パオリン」


「はい坊ちゃま、ルイ様こちらをどうぞ」


 俯くルイ、しかしジョンは複雑な表情を浮かべており、彼から指示を受けてパオリンが自身の隣に置いていた鞄から封筒を取り出し、ルイに渡す。


「これは、、、?」


「警察に潜んでいる葬儀屋機関の者に集めさせたレミィ様に関する情報です。レミィ様がお亡くなりになられた事故やそれ以前のレミィ様の置かれていた状況が記されています」


「状況って、、、」


 妙な言い回しをするパオリンに訝しみながらも、封筒に入っていた書類を隅々まで読んでいくレミィ。最初は戸惑いながらも書類を呼んでいた彼女だったが、徐々に顔が青くなり、書類を読み終える頃にはまるで彼女が死人であるかのように真っ青な顔になっていた。


「嘘、、、でしょ、、、じゃあ、レミィが、、、事故も、、、、アタシが見たのも、、、、」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 街灯のみが道を照らす深夜の町、テレビやラジオなどの娯楽も少なく普及も進んでいない為、殆どの人間はもう眠りにつき、無音と化した町。

 そんな暗闇の中、二人の人間が町の中を進んでいた。一人は首元に包帯を巻き、虚ろな目で虚空を眺める車椅子に乗った女性。もう一人は眼鏡を掛けた瘦せぎすの男で彼女の耳元に顔を寄せている。


「大丈夫だよレミィ。今日も防腐処理を施せば、また僕と一緒にいられるからね」


「愛してるわ、アラン」


 短く成り立っていない会話、その後も男は女性の耳元で囁くが女性の返答は『愛してるわ』『好きよ』の二種類しかない。けれど男はその言葉を聞くだけで満足そうに笑みを浮かべる。

 やがて二人は路地裏へと進み、完全に闇に消えそうになる直前。


「はい、そこまで」


 人などいない時間帯、後ろから声を掛けられ、男が驚き振り返ると、其処には糸目の男とメイド服を着た女性に口元を抑えた女性の三人が立っていた。


「な、なんだお前は、、、」


「レミィ!」


 謎の人物に男が動揺していると、口元を抑えていた女性=ルイが駆け出し、男を引き離して車椅子の女性の肩を掴む。


「ねえ、レミィ!レミィでしょ!アタシの事分かる?ルイだよ?ねえ、レミィなんでしょ?」


「おい、彼女に近づくな!」


「女性に暴力を振るうのは感心しませんよ」


 自分の愛する女性に近づく女をどかそうと、殴り掛かろうとする男だがあっさりとメイド服の女性=パオリンに関節を抑えられ、地面に押し付けられる。

 そして糸目の男=ジョンが近づいて膝を折り、男へと視線を合わせる。


「なあアンタ、レミィとはどんな関係なんだ?」


「彼女の名を気安く呼ぶな!彼女は俺の恋人だ!彼女から離れろお!」


 血走った目でルイに怒鳴る男、けれどルイはどれだけ声を掛けても、同じことしか言わないレミィに絶望し、男に気付く様子はない。

 ジョンは懐から、ルイから預かったレミィの写真を取り出すと男に突き付ける。


「この写真の人、レミィ=アルカナナイトって言うんだけど。一か月くらい前に車に轢かれて亡くなってるんだよね。ちゃんと葬式も上げて、役所に死亡届も出されている。なのに何で彼女そっくりの女性が此処にいるんだ?」


「し、知るかよ!他人の空似だろ!」


「でも俺や彼女がレミィて呼んでもアンタは否定しなかったよな?普通なら最初に人違いって指摘するもんだが」


「っ!」


 もう男の反応でほぼ確定だが、確認は取らないといけない。ジョンは男から視線を外すと、レミィへと近づき、透明なフィルムを指に押しあて、付箋のような紙を首元に近づけ、ペンライトで瞳を観察し、反応を見る。


「指紋は採取できず、体温は周囲と同じ、瞳孔は開いて、濁りも見られる。何より、、、」


 レミィの指先へとスポイトで液体を垂らすと、薄い青色だった液体が濁った赤色へと変色する。


「反応液の変色。これは特殊防腐剤を使わなきゃ変色しない。見た瞬間に大体そうだと思ったけど、彼女は死者再生(ネクロライズ)を受けた屍人だ」


「っ!」


「しかも、、、」


 ショックを受けるルイを尻目にジョンはレミィの首元、正確には首に巻かれた包帯へと手を伸ばし、そのまま自分の指を彼女の首に()()()()()()


「な、何を、、、!」


「黙って見とけ!」


 思わず止めようとするルイだが、彼の気迫に気おされてしまう。そしてジョンが指を首から引き戻すと彼の手に小型の機械が握られていた。


「それは、、、?」


「ゼンマイ式の小型蓄音機、これが喉に仕込まれていた。彼女が発してた声は全部この機械が出してる音だったんだよ」


 機械を地面に放るとスイッチが入ったのか、レミィの声で『愛してるわ』『好きよ』といった音声が繰り替えして発せられる。


「彼女に施された死者再生(ネクロライズ)は相当お粗末な代物だ。人工心臓も電極ボルトも出力が低ければ素材も精度も低い粗悪品。これじゃ動けるのは死者再生(ネクロライズ)を受けた数時間だけ、それからはもう脳からの信号を受けても体を動かすエネルギーすらない、目を動かすのが精いっぱいって有様だ」


「そんな、、、、」


「こんなにしてまで、彼女を自分のものにしたかったのか?」


 軽蔑の視線を向けるジョン、けれど視線を向けられた男はパオリンに抑えつけられながらも大きな声で反論する。


「五月蠅い!お前に何が分かる!大事な人を、、、恋人失った気持ちが、、、僕には彼女しか、、、彼女さえいればそれでよかったのに、、、彼女は死んで、、、、僕には、、、、」


「いや、なに恋人を亡くした男を気取ってんだよ、、、アンタは彼女の恋人じゃなくて、ス・・・」


「ちょっと、困りますよお。ウチの大事なお客さんに手を出しちゃあ」


「っ!」


 男の正体を知っている三人が、男の言い分に不快感を露にしていると路地裏の奥から声が聞こえ、振り向くと燕尾服にシルクハットという道化師のような格好をした男がこちらに近づいてきた。


「動くな!」


「おっとっ、ちょっとちょっとそんな物騒な物()、こっちに向けないで下さいよ」


 突如現れた男にジョンはコートの内側に隠していたソードオフ仕様のレバーアクション式ショットガンをパオリンはガーターベルトに仕込んでいた中折れ式のリボルバーを男へ向ける。


「この男を客って言ったって事は、アンタがレミィ=アルカナナイトに死者再生(ネクロライズ)を施した奴か?」


「ご名答!恋人の墓の前で泣き苦しむ彼に私の死者再生(ネクロライズ)技術を紹介した所、二つ返事でOKを貰いましてね!今日も彼女にアフターケアとして防腐処理を施してあげる予定なんですよ!そういう貴方は葬儀屋機関ですか?我々の業界でも話題になってますよ、仕事を邪魔する厄介者って」


死者再生(ネクロライズ)ねえ、、、、だとしたらとんだ二流だな。こんなお粗末な死者再生(ネクロライズ)、アンタのいう業界でも相当な底辺だぜ」


 ジョンの言葉にプライドを刺激されたのか、一瞬だけ男が歯を食いしばるが無理に笑顔を作る。


「お粗末とは心外ですねえ、私は唯富裕層しか利用できない死者再生(ネクロライズ)を安価により多くの人に体験して欲しいだけですよ!まあ、安くした分、それ相応の出来になってしまいますが」


「物は良いようだな。まあいい、お前が死者再生(ネクロライズ)を利用して金もうけをするって言うなら、俺達の領分だ。しょっ引かせてもらう、足の一本は覚悟しろよ」


 そう言い放ち、警告もなく引き金を引くジョン。本来ならショットガンから放たれたスラッグ弾が男の足を吹き飛ばすはずだったが、弾は分厚い鉄塊に弾かれる。


「ああ?」


 弾を弾いたのは分厚い斧、そして斧を持っているのは2mを優に超える巨躯の男だった。


「ふふふ、無駄ですよ。私には最強のボディーガードが付いていますから、これぞ私の最高傑作!屍兵(ネクロソルジャー)『ジャック・ザ・チョッパー』です!」

 

 そう叫ぶ男の隣に佇む屍人、ジャックは明らかに生者の姿ではなかった。腕と足が普通の人間ではありえない程太く、また心臓や肩、腕に鉄板が文字通り打ち付けられており、皮膚に焼き付いて剥がせなくなった鉄仮面の目元のスリットからは二つの視線がこちらを覗いている。


「チョッパーは唯の屍人ではありませんよ!屈強な軍人の死体をベースに骨格に金属フレームを追加!弱点となる人工心臓と電極ボルトにはそれぞれ戦車に使われる装甲をシールドとして張り付けてます!その分重量がましましたが、それも十数人分の筋肉を移植することで解決!パワーとスピードを備えた最強の屍兵(ネクロソルジャー)です!おつむは少々残念ですが、些細な問題です」


「あ、そうっ!」


 男の話を聞いてる振りをしながら、二発目のスラッグ弾をチョッパーの心臓へと放つが、胸の鉄板が僅かに凹みチョッパーが少し後ろに下がるだけで、人工心臓の破壊は出来ていない。


「無駄だと言ったでしょう?さて、、、貴方達がいては私の商売の邪魔になりますし、私を侮辱した罪は償ってもらいましょう、、、やれ、チョッパー!その男と女二人を殺せ!ああ、但し、余り傷つけるな!その斧で綺麗に切断してやれ!男は屍兵(ネクロソルジャー)として、女共は死者再生(ネクロライズ)して死体愛好家(ネクロフィリア)の金持ちに売り飛ばすからな!」


 男の指示を受けるとチョッパーは斧を振りかぶりながら、こちらへと向かってくる。ジョンは直ぐにレミィを肩に抱きかかえると、スピンコックし次弾をチョッパーへと放つ。頭に当たり、僅かに動きが遅くなる。


「パオリン!ソイツは放っておけ、ルイを頼む!」


「はっ!ルイ様、こちらへ!」


 同じように拳銃を連射し、チョッパーの足止めをしていたパオリンがルイを自分の後ろへ下がらせると、排莢・装填し、自分もジョンとチョッパーから距離を取る。


「おら、こっちだ!デカブツ!」


 叫ぶことで屍兵(ネクロソルジャー)の注意をこちらへと引かせる。ショットガンの残弾は残り二発、チョッパーの斧を振る速度を考えると今のままでは再装填する暇はないだろう。

 かといって、心臓や頭部を貫くには威力不足。


(となると、先ずは足か!)


 足首に向って放つと、右足首が大きく吹き飛びバランスを崩すチョッパー。だが、持ち前の筋力で無理矢理バランスを整えると、再びこちらへ向かってくる。最後の一発も左足へと向かって撃つが、こちらは外れてしまい、足の指が吹き飛んだだけだった。

 それでも最初よりは大分動きが鈍くなっている。その隙に弾を装填していると、チョッパーが斧を振り下ろす。動きが襲いソレをタイミングを見極め横へ飛び避けようとする。その瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「うおっ!」

 

 予想外の攻撃に吹き飛び、肺の中の空気が口から一気に吐き出る。また吹き飛ばされた衝撃でショットガンが手元から離れて、道路に転がる。


「坊ちゃま!」


「忘れたんですか?こいつは十数人分の筋肉を使ってるんですよ?無理矢理攻撃の軌道を変えるなんて朝飯前です!」


 パオリンが拳銃をチョッパーに向って撃つが装甲や筋肉に阻まれてしまい、大した足止めにならない。チョッパーはそのまま蹲っているジョンへと近づき、斧を振り上げる。


「さあ!やってしまいなさいチョッパー!この私を侮辱した輩に裁きを!」


 斧を振り下ろすチョッパー、もうジョンが助かる術はない。歓喜に振るえる男、そうして男の目に飛び込んできたのは肩から丸ごと右腕が吹き飛んだジャック・ザ・チョッパー、そして目の前に転がる斧を握ったチョッパーの右腕だった。


「へっ?」


「ふ~、さっすが15mm弾、とんでもねえ威力と反動だな」


 とんでもない仕込み武器を作った職人の顔を思い浮かべ、呆れの溜息を吐くジョン。


「義足に仕込み銃だと!」


 義足をバイポッドのようにし、脛から上下二連式の銃を展開しているジョンの右足。銃口から煙を吐く銃身の横のグリップを握り、狙いをチョッパーの心臓部に定める。


「ば、馬鹿な、いくらコストの問題で厚みを削っているとはいえ、戦車に使われる装甲だぞ!そんな人間の銃で、、、」


「俺が使ったのは対戦車ライフル用の特注の弾薬な」


「っ!」


 もう男の疑問に答える気は無いとばかりに、チョッパーへ視線を向ける。そのチョッパーは体が大きくえぐれたことで、不規則な動きをしており碌に真っすぐ歩くことも出来ないようだった。


「ごめんな、こんな乱暴な方法でしかアンタ、、、アンタ達を葬ってやれなくて」


 謝罪の言葉を口にし、引き金を引く。そしてチョッパーの人工心臓は上半身事吹き飛んだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あああああああ!」


「黙りなさい。坊ちゃまを殺そうとしたしたこと、本当ならその命を持って償うべきところをこの程度で我慢してやっているのです」


 チョッパーが破れた後、逃げようとした死者再生(ネクロライズ)の男だが怒り心頭のパオリンによって取り押さえられ、()()()()()()()()()()という拷問じみた方法で身動きがとれない状況となっている。叫び声が五月蠅いので猿轡を噛ませ黙らせると、パオリンはジョンの元へと駆け寄った。


「坊ちゃま!」


「ああ、悪い。心配かけた」


 泥だらけで所々青く腫れている姿を目にし、思わず抱き寄せようとしまうがジョンが手でそれを制し、肩に担いだレミィを指さす。


「先ずはこっちが先だ」


「ーーーー」


「えっ?」


 レミィを車椅子に載せようと肩から降ろそうとしたその時、耳元で聞こえた言葉にジョンがレミィの顔を見る。


「アンタ、、、」


「おい、何やっている!彼女を離せ!」


 彼女に施されたお粗末な死者再生(ネクロライズ)では本来あり得ない現象にジョンが困惑していると今まで何処に隠れていたのだろうか、眼鏡の男性が甲高い声を挙げながら近づいてくる。


「っち!そういえばまだコイツがいたか」


「彼女を返せ!彼女は俺の物だ!」


 血走った目で近寄るその男の狂気にルイはジョンの後ろに隠れ、パオリンは銃を相手に向ける。流石に銃を向けられては近寄ることが出来ないと眼鏡の男が立ち止まると、ジョンは先程言いかけていた言葉の続きを言う。


「なあ、いい加減()()やめろよ。アンタは恋人失った悲劇の人物じゃあない。唯テメエの薄汚い欲望で彼女を汚した最低野郎だ。()()()()()()()


「アンタの所為で、、、レミィは、、、!」


「な、何を言って、、、?」


 ジョンの言葉とルイの怒りが籠った視線に狼狽する眼鏡の男。


「こっちはちゃんと調べてるんだ。彼女が引っ越した隣町でストーカー被害に遭っていたことをな」


 ジョンが懐から紙の束を取り出し、男へと見せる。それはダイナーでルイに見せたもので、葬儀屋機関に属する協力者から手に入れた警察がレミィのストーカー被害の詳細を纏めた資料だった。


「彼女の向かいのアパートに住んで、彼女が大学(カレッジ)への通学に使ってる道で毎日彼女の後を着けてたらしいな」


「ち、違う!僕は唯、彼女が暴漢に襲われないよう、彼女を見守って、、、」


「それをストーカーって言うのよ!」


「それだけじゃねえ、彼女の部屋から出されるゴミを漁ったり、大学(カレッジ)の学生じゃねえ癖に|大学に入って、彼女の写真の隠し撮りや彼女の友人に近づいて危害を加えたらしいな」


「違う!それはアイツらが彼女に邪な視線を向けたり、僕と彼女の中を引き裂こうとしたから、、、、」


「で、とうとう警察の世話になって、捕まったと。禁止命令を出されたと、、、なあ、彼女は突然道路に飛び出して車に轢かれたんが、、、()()()()()()()()()()()()()()()()()


 此処までくれば深く考える必要などない。


「僕はただ、彼女に会いたかっただけなんだ。なのに急に彼女は叫び出して、、、そのまま、、、、なんで、、、なんで死んでしまったんだ、、、ああああああ!」


 泣きじゃくる男、何処までも自分が悲劇の人物だと思い込むその姿はとても醜い物だった。


「もういい、これ以上アンタに彼女を汚される訳にはいかない」


 ジョンはレミィを車椅子に載せると、ショットガンの銃口を彼女の頭部に当てる。


「悪いな、ルイさん。本当ならちゃんと墓に弔ってやるべきなんだろうが、それは出来ない。もしした所で死者再生(ネクロライズ)を知った者は性懲りも無く、墓を暴いて同じことをする。何せ一度は墓を暴いているんだからな。一度やったら二度めも平気で行う」


「はい、、、、」


 悲しげな顔で頷くルイ。これは事前に話していたこと、死者再生(ネクロライズ)は命を軽くする。軽くなってしまえば躊躇は無い、いくらでも、何度でも墓を暴き、彼等の尊厳を破壊する。だから、死者再生(ネクロライズ)出来ない程に破壊しかない。


「お、おい、やめろ、、、、、やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!」


 深夜の町に激発の音が響いた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「それじゃ、達者でな」


「はい、ジョンさん達もお元気で」


 翌日、現場の後始末を警察 (内部の葬儀屋機関の者) に任せ、レミィの遺体を元の墓場に弔い、墓地で三人は別れを告げる。死者再生(ネクロライズ)の男は既に葬儀屋機関の本部に護送済み、ストーカーの男も犯した罪でたっぷりと絞られているだろう。唯一の心残りはジャック・ザ・チョッパーの身元が分からず、浮浪者などの為の公共墓地に埋葬するしかなかった事か。


「アンタは、死者再生(ネクロライズ)には手を出すなよ」


 死者との再会を叶える禁断の技を知ってしまったルイにジョンが忠告をする。


「出しませんよ、あんなの、、、あんなの、、、、命の、、、、レミィを侮辱しています」


 親友がストーカー男への恐怖によって死に、死後その死体をストーカー男によって辱められるという光景を目にした彼女が死者再生(ネクロライズ)に手を染める事はないだろう。

 それを確信したジョンは移動用のサイドカーに跨り、ゴーグルを付けエンジンを入れると彼女に手を振って墓地を後にする。


「坊ちゃま、一つ聞きたいのですが」


「ん?」


 町を出て一時間程経った頃、側車に乗っていたパオリンが此方を見上げる。


「あの時、レミィ様は坊ちゃまになんと仰ったのですか?」


 パオリンが言うあの時とはジャック・ザ・チョッパーを倒した後、レミィを車椅子に載せる時だ。本来喋る事は出来ない筈のお粗末な死者再生(ネクロライズ)、けれど彼女の中に残っていた強靭な心がそれを可能にしたのか、レミィはジョンに一言伝えたのだ。


「”殺して”だってよ」


主要登場人物紹介

・ジョン=シュタイン:主人公、糸目赤毛、武器はソードオフ仕様のレバーアクション式ショットガンに義足に仕込んだ15mmライフル、葬儀屋機関所属で過去の経験から死者再生を全否定している。

・パオリン=ル・フォイ:相棒、巨乳メイド、武器は中折れ式のリボルバー、一応葬儀屋機関に所属しているけど、実際はジョンに個人的に仕えている感じに近い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ