表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

7、理科オリンピック

9月学校祭が終わり、学校生活は落ち着きを取り戻し、学習に集中する時期に入った。部活動も引退し、楽しい学校祭も終わってしまい、高校進学に向けて受験体制に入っていった。担任である私は一人一人の生徒との面談を昼休みや放課後に計画して、それぞれの目指す進路について話を聞いていった。

そんな中、夏休みに製作した理科自由研究の審査会が理科教科研究会の先生方で行われた。本校からは大谷先生と大西先生が参加したらしい。帰ってきた大西先生が職員室に入るなり

「坂本先生。松山君の作品、最優秀賞です。福井地区代表になりました。県審査に出品されます。そして理科オリンピックの代表にも選出されました。彼は参加してくれますかね。理科オリンピックでは設定された課題に対して、周りの参加者の中学生と討論しながら、それぞれに回答を導き出すものです。」と言うので驚きながらも

「彼に聞いてみます。ただ、今の彼はまたいつもの彼に戻ってしまった、また毎日いろいろトラブル起こしてますけど。」と話した。最近は体育の時間に長距離を走りたくないと言ってグランドから家に帰ろうとしたり、掃除の時間が始まってもその前に美術の時間で描いていた絵の続きをやめられず、美術の先生に注意されて、我慢できなくなってパニックを起こし、学校中に響き渡るような大声で叫んだ事もあった。そんな彼が理科オリンピックで他の学校の生徒たちと課題解決のためにパニックを起こさずに冷静に討論をすることができるのだろうか。そんな不安が私の脳裏をよぎった。しかし大谷先生は

「他の学校から来る生徒の中にもコミュニケーションが苦手な生徒もいますよ。しかもそういう生徒の場合は、同じようなオタク気質の生徒同士になると、共感を深めてうまく話し合いを展開することもあります。彼の能力を発揮するには、絶好の場所かもしれません。」ということだった。

 すぐに特別支援教室に行って吉沢先生と一緒に松山君に話してみた。ちょうど松山君は放課後の時間で好きな動物図鑑をあけて動物の写真を眺めながら解説文を呼んでいた。本を読んでいるときに話しかけても返事をしないことが多いが、思い切って彼の肩に手をやって

「松山君、ちょっといいかい?」と問いかけると少し嫌そうな顔をしたが、私の顔を見て表情を緩めた。少しは私に対するガードが下がったのかなと安心して

「実はね、理科オリンピック福井地区大会というのがあって、松山君が選ばれたんだ。文化祭で発表した地球の地軸のずれの自由研究が評価されて、代表に選ばれたんだ。もし参加すると、新しい課題が出されてその課題に対して、福井地区の他の学校の生徒と討論しながら自分なりの回答を導き出すんだ。どんな回答を出すかも大事だけど、その過程でどのように討論したかも採点されて、優勝者が決まるらしい。」と言うと彼は少し考えて図鑑から手を放し

「優勝したら何かもらえるの?」と打算的なことを聞いてきた。労働に対する対価は必要なのだろう。横から余地沢先生が

「優勝賞品は図書券5000円って書いてあったよ。頑張ってみようか。」と励ますと彼は目の色を変えた。5000円は中学生にとって大金だし、そのお金が手に入ったら、きっと天文学関係に専門書を買うのだろうと思ったが、そんな意欲付けも有りかなと感じた。

 とにかく彼は理科オリンピックに参加することになった。引率は吉沢先生と大谷先生。私は不安もあったが、2人に任せることにした。大会は10月12日(日)会場は藤島高校理科室だった。


 10月13日(月)理科オリンピックの翌日、私は朝刊を見て少しがっかりした。福井地区理科オリンピックの結果が掲載されていたが、松山君の名前は入賞者の中にはなかった。パニックを起こしたのかなとも考えたが、連絡がなかったのでその心配もないかなと思った。

 学校に出勤して、職員室に入ると吉沢先生が来ていて、早速報告してくれた。

「坂本先生、さっき校長先生にも報告してきましたが、昨日の松山君の活躍はすごかったですよ。他を圧倒してました。出された課題は『来るべき地球規模の食糧争奪の危機に対し、有効な対策』という大きなテーマだったんです。彼は第5班のメンバー7人に入りました。その6人が個性的なメンバーで何となく松山君と似ていて、こだわりが強そうな学者タイプが多かったんです。だから行けるかなとおもっやんですよ。そうしたら案の定、全員が喋り捲りました。みんな様々な書籍を読み漁っていて、深い知識を持った豆博士ばかりでした。松山君は他の人の意見を聞くとするどい意見で考えの甘さを指摘しました。そして自分の意見を話すんですが、少し難しすぎて、他の子たちに理解できなかったようでした。最後にレポートを提出しましたが、ちょっと難しすぎたって大谷先生が言ってました。」と話してくれた。その時大谷先生も出勤してきて、2人の話に参加してくれた。大谷先生は

「提出されたレポートの評価をしたんだけど、松山君の意見は、最新の科学者の一部が考えているせいセクの一つで、我々中学校に勤める理科教員では評価しきれなかったんだ。他の子たちは中学生らしい意見で、学習した内容から創造できる考え方だったから、審査委員の心証が良かったんだ。」という話だった。私は最優秀賞が取れなかったことよりも彼が満足して終えたかどうかが心配で

「大会後母彼はどうでしたか?」と聞いてみた。すると吉沢先生は

「5000円取れなかったことは残念で、『誰が5000円もらうの?』としきりに聞いていましたが、帰りの田原町駅近くで、アイスクリームを買ってあげたらすごく喜んで、帰りの電車でもご機嫌でしたよ。」と教えてくれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ