表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

6、文化祭(クラス発表 松山君の活躍)

中学校生活の3年間というのはあっという間に過ぎていく。夏休みも中体連の県大会、北信越大会などでみんな敗北すると、次は夏季補充学習で暑い中、1㎡2年生の学習を復習する。熱い教室にも最近はあまりの暑さに、クーラーを入れてくれている。生徒たちを悩ますのはそれ以外に各教科の先生から出された宿題がある。一番つらいのは理科の自由研究や美術のポスターだろうか。

 とにかく何とか仕上げると夏休み明けは文化祭だ。夏休みの作品発表や学校祭テーマの“未来”についての意見発表会。そして一番盛り上がるのがクラスの出し物と自主ステージだった。それぞれ何らかの形で参加するのだが、いくつも出演しようとして負担にならないように調整はした。本番まで1週間、放課後は自主ステージの生徒たちのバンドのギターやドラムの音が校内に響いた。

 そんな雰囲気で全員が何かに熱中する中、松山君は夏休みの理科の自由研究で提出した「宇宙の未来」というテーマの作品を全校生徒の前で発表することになった。これも発表に至るまでに紆余曲折があった。

 彼が自由研究として画用紙10枚ほどにまとめてきた作品は、社会科の私が見た限りでは見落としてしまう内容だった。中身が難しすぎてわからないことと、見た目が悪かった。文字が揃ってなくて、写真資料もネットで調べたものを貼り付けた感じがした。しかしその作品を見た理科の大谷先生は、中身を見て

「これ、すごいです。地球の公転周期と地軸がこの30年ほどの間に少しずつずれていることが、これからどんな気象的な影響を与えるかを、予想しています。しかも地球の公転周期のずれを計算する高等数学の計算式を利用しています。彼はこの計算式を理解しているんでしょうか。僕の専門は物理ですが、こんな地球物理学の計算式は大学の教科書でしか見たことがありません。」と言って目を見開き驚きを隠さなかった。

 そこからは大変だった。はたしてこんな内容を彼がは@@擁して、理解できる中学生が何人いるのだろうか。また、彼に全校生徒の前での発表を勧めても、受諾するだろうか。そんな疑問を持ちながら彼に放課後話してみることにした。

 放課後、吉沢先生と一緒に特別支援教室にいる彼を訪ねた。彼は自分の机で何か絵を描いていた。また何か細かな絵だった。とりあえず私は

「松山君、何を描いているの?」と軽い話題から話しかけた、すると彼は

「これ?これはね、ロケットのエンジンだよ。」と言ってたのしそうに笑っている。時間があれば宇宙のことを考えているんだなと再確認したが、本題に入った。

「実はね、松山君の理科自由研究なんだけど、素晴らしかったんだ。それで文化祭の午前のステージで全校生徒に発表してくれないかなって話なんだけど、どうかな。」と言葉を選びながらゆっくりと話してみた。すると彼は

「体育館で全校生徒の前で発表ですか?」と聞いてきた。

「そうだよ。」と答えると彼はしばらく考えて

「全校生徒の前で話すのは苦手だから、リモートかVTRで発表させてくれるならいいですよ。」と予想外の言葉を発してくれた。私はこの時の衝撃をはっきりと覚えている。発達障害を持った生徒に対する合理的配慮が必要な世の中になったことは理解しているが、現実的にどうしたらよいかは難しい。結局、本人たちがどのような配慮を望むかが大切なのだという事を思い知らされたからだ。


 翌日から松山君は発表の資料造りを始めた。PCを使って夏休みに作った自由研究の資料を映像化して、その映像に対応した発表原稿を書き始めた。

 発表内容が高度すぎるので一般の中学生にも理解出来るように理科の大谷先生に協力をお願いした。すると彼は数日で資料を作成し、発表できる状態に仕上げてくれた。大谷先生もその仕上がりに目を見張った層だ。

 しかしカメラの前で話すとなるとなかなか難しい。結局録画してVTR出演の形をとることになった。録画は理科室で行うことになり、映像資料をスクリーンに映し出して、彼がその資料を見ながら説明するようにした。私がカメラを構え、彼は教卓でマイクを握りながら原稿を机の上に広げていた。練習を始めるとマイクを持ったまま腰を曲げ俯いて、机の上を覗き込んで原稿を読んでいる。これでは発表にならないと感じた私は何とか顔をあげるように彼に

「松山君、輿を伸ばしてまっすぐにカメラの方を見ながら話してくれないかな。」と提案すると彼は顔をしかめて

「カメラを見るのじゃ恥ずかしいから出来ません。」と言った。このようなやり取りが何回か続いたところで見に来ていた吉沢先生が

「カメラで写されながら話をするのは、彼には難しいかもしれません。最初と最後だけ顔を映して、あとは資料を映して彼には声だけで出演してもらったらどうでしょうか。」とアドバイスしてくれた。その吉沢先生の意見を聞いて彼も頷いていた。さすがに毎日一緒にいて話し相手になっている先生の意見だと感心してその方法を採用した。

 最初は彼の挨拶をお辞儀をとるとカメラはスクリーンに向けた。すると彼は原稿を両手で持ち、マイクをマイクスタンドに固定してゆっくりと話し始めた。

地球環境が変化し温暖化が進行している原因は二酸化炭素の増加であると特定されてるかのように言われているが、宇宙の歴史の中で地球の温暖化は過去に何回も起きたことであり、その原因の一つに考えられるのは地球の地軸のずれであるという考え方だが、その地軸のずれを、観察結果と計算式で証明しようとする発表だった。計算式は私にはまったく理解できなかったが、言われてみたらそうなのかなと納得させられてしまった。発表そのものは10分ほどだったが、最後の挨拶を撮影するのに1時間くらいかかった。なかなか最後の挨拶ができず、やり直しを繰り返したのだ。 とにかく出来上がったVTRのデジタルデータを編集して、生徒会のPCに保存したところで準備は完了した。

 

 文化祭前日には前夜祭として、生徒会執行部のテーマアピール。“未来”というテーマに込められた思いを執行部のみんなで寸劇にしてアピールした。その後はオーディションを勝ち抜いた生徒たちの自主ステージで、ダンスするものやアイドルタレントになり切って歌うもの、お笑いタレントのように漫才を披露するものなど何組かが出演して、生徒たちは翌日からの文化祭に向けて、気勢をあげた。そんな中で松山君はみんなと同じようには乗り切れず、一歩下がったところでみんなが踊る姿を眺めていた。その手と足が小さくリズムを取っているところを私は見て、吉沢先生を見ると彼女もその松山君の手足の動きを見逃していなかった。少しだけでもみんなと同じように楽しんでいる彼の姿を見て、嬉しそうだった。


 翌日、文化祭本番は厳粛な式典から始まった。杉下校長の挨拶移、生徒会長のあいさつに続き、“私たちの未来”というテーマで描くクラス代表の意見発表とお姉るディスカッション、そして吹奏楽部の演奏と続くと、いよいよ松山君の発表である。司会の放送部が

「夏休みの理科自由研究作品の中から優秀な作品の発表をお願いしたいと思います。3年1組松山遼さん、お願いします。松山さんは本日はVTRによるご発表です。ではお願いします。」と紹介されるとステージ上の大型スクリーンに松山君の姿が現われた。唐突に理科室の供託に立っている松山君の姿に驚いた生徒たちは本人がいつもの場所で椅子に座っているのを見つけて、少し笑い声も上がった。しかしスクリーンの彼が

「松山遼です。地球の未来についての発表を行います。」と言ってお礼をすると会場の生徒たちから拍手が起こった。そこからはスクリーンには画像と説明の箇条書きの文字群、そして音声は松山君の機械的な読み上げが続いた。生徒にとって難解な言葉と数式に、少しギブアップ感もあったが、地球の地軸のぞれが気象的に大きな変化を生み出すのだという事は理解できたようだった。10分間の説明が終わり、VTRが終了すると体育館居座る松山君の周りの生徒たちの反応が変わったような気がした。今まで変わり者だとか、トラブルを起こし突然暴れたりする危険人物として見ていた見方が、リスペクトの視線を彼に向けているように見えた。

 吉沢先生は少し涙を浮かべながら

「やっと彼の才能に周りのみんなが気づいてくれた瞬間だったかもしれませんね。彼がみんなからリスペクトされる一面を持ったことで、自信を持ち生き方が変わって行ってくれるといいんですが。」と私の顔を見ながら話した。私もほんの少しだが、彼の才能の発掘の手助けになったのならうれしく思った。

 その後は午後になると各クラスの発表があり、楽しい演劇を披露したり研究発表をしたりした。そして最後はオーデションで好成績をあげた2グループが自主ステージを披露し、全校生徒がダンスパーティーのようにステージ前に集まって踊り狂った。

 松山君は最初は自分の席で座っていたが、しばらく一人で見ていたが、同じクラスの女子たちが数人近寄り、彼の手を取って立ち上がらせ、ステージ前に連れて行ってしまった。そこからは彼の姿は踊る生徒たちの中に紛れてしまって見つけられなくなってしまった。

 少し心配ではあったが吉沢先生と見合わせて、このまま見守ることにした。

その後、文化祭が終わって彼が特別支援教室に戻って来た時、吉沢先生が彼に話しかけたらしい。

「松山君、今日は楽しかったですか?」と声をかけると彼は

「みんあといっしょに体を動かしたけど、育江ちゃんが優しくてうれしかったよ。」と笑顔で答えたらしい。みんなの和の中に連れて行ってくれた、育江ちゃんのことが好きになったのかもしれないと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ