scene4 そんなの知らなひぃ!
あれから三日。僕は己を鍛え始めた。
間食を止め、帰宅後にジョギングや自重トレーニング、ストレッチと身体能力向上に努める。
一応、中学まではテニスをやっていたけど、高校に入ってまったく運動をしなくなりすっかり衰えていたのだ。
鍛えるのは体だけじゃない、心もだ。
瞑想___
己と向き合い、心を磨く。丁寧に上下に擦るように……
思うのはクラスのアイドル、美貫 いちご さん。肩まで伸びた麗しい黒髪と優しい目の下のほくろが素敵な女子生徒だ。僕より少し小さい身長で、華奢だがしっかりと成長期を感じさせる凹凸のあるボディライン。体操服の短パンからみえた、ヒップラインから延びる太ももは顔に見合わずムッチリしているのは男子全員が知るところだ。
もっと心を……うっ!
すぅ、はぁ、はぁ。
いけない、集中しすぎて汗が。ティッシュで拭かなければ。
彼女のような女の子を、守る。
そして憎きグラサンを滅ぼすため……決意を新たに、瞼を閉じた。
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放課後。いつもの教室に顔を出すと、そこにはすでに部長がいた。
「久しぶりだね、馬並くん。早速で悪いけれど、現場に向かおうか」
「え?いきなりですね……ってまさか!」
「ご明察、もうコジレモノが暴れてるよ」
駆け足で向かったのは体育館裏。遠くからでもわかる猿叫のような鳴き声と破壊音。
あれ、なんかサイズが大きい……?
「おっと、すでに進行してしまっているね。フェーズ2といったところかな。馬並くん、早く彼を救済するんだ!」
「は、はい!!」
「コ”ス”プレ”も”の”で”ぬ”ぐな”よ”ぉ”ぉ”ぉ”!!!」
僕の2倍はあるような巨体、前回の奴より赤黒い肌が露出し、はち切れそうなほど血管が隆起している。
衣服は破れ、股間付近にやたら影を差しながらも何も纏わぬ姿は、まさしく化け物だ。
しかし、二回目ともなれば僕にも余裕が出てくる。
コジレモノの気持ちも容易に理解できる!
性剣テンガルドを取り出し、抜刀の口上を叫ぶっ……!
「わか」「だめだ!!馬並くん!!」
部長の制止に思わず従ってしまった。
僕らに気づいたコジレモノが、甲高い咆哮をあげながら腕を振り下ろすように攻撃してきた。
「ぎえ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”い”い”!!」
「あぶなっ!ちょっと部長!なんで止めるんですか!?」
コジレモノの攻撃は大振りで避けるのにそこまで苦労はない。が、破壊力は前回とは桁違いだった。
一撃でコンクリートブロックが粉砕されている。
腰を低くして地面を転がるように回避。先手を譲る原因となった部長に、少なくない叱責の念が向く。
「だめなんだ馬並くん。我々は……」
「なんですか!?理由があるなら早く言ってください!!」
「我々は!未成年なんだ!!」
「それがなん……っ!?」
未成年。そう、僕たちにはまだそれを観ることが許されていない。
観れない、だから知っているはずもない。だから、理解もできない。
だから
剣が抜けない。
「うそでしょ!!?そんなことあります!?でも急がないと……!」
時間はない。体力も残り少ない。
どうする……どうする……っ
焦る中、記憶の海で手がかりを探す。友達との猥談。美貫さんの笑顔。部長のニヒルな笑み…
『テン……ディ……?……ドイツ語かい?』かい?……かい?……かい?……
リフレインする馬鹿にしたような顔に怒りがこみ上げる。
未成年とか、勇者とか!今は知らない!
ただ、思いの丈を……!!
「コスプレは自由なんだ!!!」
ぴたりとコジレモノの動きが止まる。
「普段の自分以外になることで、あらゆるものから解放されているんだ!!」
静止したコジレモノがピクピクと耳を動かす。
「コスプレ衣装を脱ぐこと、それはキャラを捨てることじゃない!より、広く心を開放しているんだ!!」
コジレモノがワナワナと震えだす。
「決して原作への敬愛を欠いているわけじゃない!衣装を脱ぐことで、そのキャラの裸衣装を身にまとうんだ!!僕は理解る!コスプレのエロさが!!」
コジレモノはショックを受けたように膝をつき、地に手を付け四つん這いのような体制になった。
鞘の鯉口からトロリと蜜が垂れる。僕は性剣を正面で構えて引き抜いた。
ヌ”ゥルン
素早くコジレモノの後ろに回り、切っ先を向け、突いた。
勢いよく突き出した剣は、何の抵抗も感じなかった。柄の部分でつっかえなければ、もっと入ったかもしれない。スイッチを押した僕は、体を置き去りにしてそんなことを考えてしまった。
「ん”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!」
コジレモノが倒れ、わずかに土煙を上げる。
沈みゆく強敵に、少し切なさを感じた。
「お疲れ様、馬並くん」
「……部長」
「よかったのかい?コスプレAVを理解してしまって」
「何言ってるんですか、AV?アニマルビデオですか?」
部長は疑問を抱くように腕を組んだ。
そして、理解するとやはり、ニヒルに笑った。
「君は『コスプレ』に言及しただけ、かい?」
「えぇ、AVなんて知りませんよ。僕はね」
一本取られたと笑う彼と、僕はたぶん同じような顔をしてた。
すみません、自分でもよくわっかんないです
でもいいんです。勢いが大事




