scene2 古き良き……
二階渡り廊下、校舎から体育館をつなぐここは、夕方には陰になり薄暗い。体育館を利用する運動部も嫌遠するほど、どこか気味の悪い場所だ。
しかし、一部の生徒。どこのグループにも属せない、いわゆる『ぼっち』はこういう場所を好む。
「だから、人目は気にしなくていいよ。馬並くん、思う存分やってくれ」
「え、あの部長さん!?あの人、すごい叫んでますけど!」
渡り廊下の中央に蹲る男子生徒。
反響する慟哭が頭に響く。よく聞くと彼は何やら恨み言を吐き出しているようだった。
「逆バニーってなんなんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!うぉぉぉぉぉ!!!!」
「……部長さん……あの人、逆バニーにキレてませんか?」
「そうだね、逆バニーにキレているね」
地面にこぶしを叩きつけ怨嗟を吐く男子生徒の怒りの対象は逆バニーだった。
逆バニー。読んで字のごとく、バニー服の逆。
つまり、胸部やデリケートゾーンのみが露わになっている状態の服だ。
誰が生み出したか、その卑猥極まる装束は世を席巻し、人々は新たなるエロスコンテンツに熱狂した。
しかし、輝かしい光は影も生み出す。
逆バニーが幅を利かせだすと同時に、大本であるはずのバニー服が衰退しだしたのだ。
厳密には衰退というより、検索上位に逆バニーが出るようになった程度だが……
バニー信者には許しがたい現状なのだろう。
「ふざけんなぁぁぁぁ!!!!バニー服こそ原点にして頂点なんだぁ”ぁ”ぁ”!!!」
男子生徒が殴打している地面が蜘蛛の巣状にひび割れる。
ビキビキと血管が膨張し、肌が赤黒く変色していく。獣のような咆哮とともに、男子生徒の姿が変わっていく。
頭部からはうさ耳、とはよべない不健康そうな髪が対をなして伸び、掻きむしる様に衣服を破り捨てると、不自然なほど胴体と股間に衣服が残った。遠目に見たらバニー服に見えなくもない状態だ。
「ふむ、どうやら彼はオナニストになり切れなかったようだね。あの状態を我々は『コジレモノ』と呼んでいる」
「コジレモノ……ってあんな状態になって、どうするんですか!?」
「君が人間に戻すのさ。これを使ってね」
手渡されたものに目を見やる。赤と白のストライプ、プラスチックの筒は壺のようにウェーブがかかって掴みやすい形状。その筒からスイッチのついた柄のようなものが出ている。
TE〇GAだ。TE〇GAにディ〇ドが刺さっていた。
「こんなんでどうしろって言うんですかぁぁ!!」
ふざけるならタイミングを考えてほしい。こんな非常時に出されても笑えない。
むしろブチ切れだ。
ディ〇ドinTE〇GAを地面に叩きつける。
部長はそれを拾い、軽く汚れを払ってから再度手渡してくる。
「私は真面目に言ってるんだよ、馬並くん」
「ばに”ぃ”ぃ”ぃ”ぃ”ぃ”ぃ”!!!」
コジレモノの血走った双眸がこちらを睨んだ。
獲物を狩るような四つん這いの姿勢。
何もしなければ、僕らは襲われてしまうだろう。どうなるかなど想像もしたくない。
目の前のグラサンを信じたわけじゃないけれど、何もないよりはマシかとそれをつかんだ。
「っ!?抜けない!!?」
「ふ”ざけ”る”な”!!ばに”ぃ”はヌけるだるぉ!!!」
コジレモノが飛び掛かり、右腕を振り下ろす。
部長が僕の肩を押し飛ばし、自分も反対方向へ飛ぶようにして攻撃をかわした。
コンクリートの床を揺らすほどの衝撃。コジレモノが腕を振り下ろした先は罅が走り、クレーターのようになっていた。
それをわが身で受けていたら、ふと過った想像に血の気が引く。
「馬並くん!!性剣は性癖への理解を示さないと抜け……ヌけないんだ!!」
「なんで言い直したんです!?理解を示すって……っ!」
どうしたらいいのか、そう口にする前にニヒルな笑みを受けべて部長が聞き返した。
「君はバニーはNGなのかい?」
違う!!バニーはエッチで大好きだ!
今までに何回もお世話になったことがある!
…,...そうか!!
「バニーは逆バニーに負けてなんかない」
ぴたりとコジレモノの動きが止まる。
「バニーには調和がある。洗練された高い水準の調和が!」
コジレモノのうさ耳がぴくぴくと動く。
「うさ耳の『かわいさ』!エナメル質の『優雅さ』!露出具合の『淫靡さ』!すべての要素が極まって調律が取れているんだ!!」
コジレモノが腕を組み、うんうんと頷く。
「ヒップの上で跳ねる尻尾!ハイレグが織りなす直線のデルタゾーン!女体の生み出す曲線との交響曲!!僕は理解る!バニー服のエロさが!!」
体の正面に構えた性剣。鞘と剣、その鯉口からぬるりと粘度のある透明な液が垂れる。
もう、剣を引き抜くのに何の抵抗も感じなかった。
ニュポンっ!!
「さぁ、馬並くん!そいつをコジラセモノに挿入ろぉ!!」
部長がこぶしの人差し指と中指の間に親指を入れたハンドサインをしていた。
ステップを刻み、奴の後ろに回る。
かがんで狙いを定める。肉のない硬そうな尻、その中央____
切っ先が差し込まれる。
少しの抵抗を感じた。でもそれだけだった。
根元まで差し込まれた性剣がブルブルと震えた。
「ん”ほ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”!!!」
汚い濁声とともにコジレモノだった男子生徒は地に伏した。
時折、ビクンビクンと痙攣しているし、生きてるんだろう。
「おめでとう、馬並くん。童貞卒業かな?」
「なわけないでしょ……」
下校のチャイムが遠くに聞こえる。
手に持った剣から、ぬらりと垂れた液体が、僕の普通の高校生活の終わりを告げた気がした。
〇ENGAさん、こんな使い方で申し訳ない。
怒らないでください……
バニーはお尻。
異論は認める。




