没頭
昨日のことがあまりにもショックすぎて、目覚めたときにはもう…
それはまさかの…
朝だったーー‼︎
ヤベーな、まず風呂…ってさ、てかさ、オレって…なんでいまさら莉菜を好きってなったんだ?
べつに莉菜にこだわらなくても良くね?
って…
ムリなんだよ…
オレは、元カノのことを思い出していた。
めっちゃ可愛かったし、オレのこと好きでいてくれたっぽいけど…でもさ、キスできなかったんだよね。
なぜかどうしても莉菜を思い出しちゃってさ…
オレは、莉菜じゃないとダメなんだっていまさら気づいたのに…
なのに莉菜のやつは、石野くんとやらにうつつをぬかしやがって!
てか、まてよ?
オレにヤキモチやかせる作戦なのか?
…だったらいいけど。
どうなん?
ワンチャンアリなんじゃね⁉︎
ここは、ひとつ壁ドンでもくらわしてみるか。
バイト終わりに、オレと莉菜は喫茶店をでた。
そのとたんに、いきなりの壁ドンをくらわしてみた。
驚く莉菜、そしてオレも驚いた。
だって…
喫茶店にいた、おとんとめっちゃ目があったからさ…
慌てて離れたよね。
で…オレはまた驚いた。
だって、後ろに石野くんがいたから…。
「莉菜ちゃん、大丈夫?」
優しい口調の石野くんをみるなり、莉菜は石野くんのほうに逃げるよういってしまった。
いや、逃げるようにっていうかガチで逃げたっぽい。
気まず…
オレは何事もなかったかのように
「お疲れー」
って帰ろうとした。
すると、オレよりも低身長な石野くんがオレの手をガシッと掴んで、
「もう、こういうことしないでください」
って、オレの目を離さず訴えてきた。
…
意外だった。
石野くん…意外とオトコだった。
「ういーっす」
オレは、驚きながらも冷静を装って軽い返事をしてその場を立ち去った。
…オレって、おわってんな。
今までどんだけ自惚れてたんだろうな…。
情けね。
それからオレは、莉菜と口を聞かなくなった。
まぁ、最低限の会話くらいはするけど、基本的には、目も合わさない。
それでも学校でも、バイトでも支障はなかった。
幼馴染って、なんなんだろう…?
やっぱり他人なのかな。
…
その後、オレはずっとフリーを貫いた。
そしてとあることに没頭した。
一年、二年と年月が経った。
莉菜は、あいかわらず石野くんと付き合っているみたいだ。
でも、オレはそんなこと目もくれずとあることをひたすら没頭した。
オレの過去を知っている人たちは、オレのことめっちゃかわったって、口を揃えていう。
そう、オレはかわったんだ。
そのまま、オレたちは卒業を迎えた。
いつもは口を聞かないけど、オレは卒業式が終わった後に、石野くんと一緒にいた莉菜にひとことだけ言葉を伝えた。
「困ったら、いつでも助けるからな」
って。
莉菜は、オレをまっすぐみて
「ありがとう」
と返した。
でも…
莉菜は、最後までオレに笑顔を向けることは、なかった。
石野くんには、あんなにたくさん笑顔向けてたのにな…。
そんな石野くんにもオレは、
「いままで、ごめん」
って頭を下げた。
大学生になったオレは、高校生のときと同様に、とあることに没頭中だ。
なにに没頭してるんだよ?って?
勉強です。
ひたすら勉強です。
もう、莉菜に会うことはないかもしれない。
でも…
でも、いつかオレを頼ってくれたら嬉しい。
だから、オレは意味がないかもしれないことにひたすら没頭している。
これでいいんだ。
莉菜が困ったら、いち早く助けてあげられる人間になりたいんだ。
はじめは、どうすれば莉菜のためになるか必死に考えた。
そして一番はじめに出た答えが、莉菜から距離を置くことだった。
今思えば、自分の自惚れがよっぽどヤバかったことに、猛反省するばかりだ。
石野くんは、オレのこと腹ん中で笑ってたのかもしれないな。
昔の自分に言ってやりたい。
バカだなぁって。
でも、過去には戻れない。
前に進むしかないんだ。
過去のことを謝ることは、できる。
でも、その過ちは消えないんだ。
オレって少し大人になったんじゃね⁉︎
母さんは、よくオレにいう。
「大人は、いつのまにか歳を重ねてるだけであって、大人でもグズったり泣いたり、疲れたりするんだわ。だから、もっと肩の力抜いてもいいじゃないって」
見抜かれている感…
母さんは、エスパーみたいだな…。
オレも、早くからそんな能力が備わっていたらよかったぜ。
続く。