ヤバい、フラれた
このたび水樹 透は、十五回目の春を迎えました。
そして、この記念すべき高校の入学式にオレは、七人目の彼女をゲットした。
まぁ、七人目って言っても七人彼女がいるわけではなく、小学校の頃から数えてなので、大したことはない。
オレってば、とにかくモテるんですよ。
でも、すぐ別れようって言われるんですよね。
ほんと…
なに?
意味わからんわ。
ま、いいでしょう。
今日は、これからパーティーです。
入学式後に、おめでとうパーティーするからって、うちの両親が経営している喫茶店に出向いた。
うちから徒歩で、すぐにつく場所だ。
早速、幼馴染の莉菜に自慢してやろーっと。
喫茶店のドアを開けると、カランカランと金具が揺れて、甲高い音が鳴り響いた。
でも、嫌な音ではなくなんとも心地よい音を奏でる。
「「「「おかえり、おめでと〜」」」」
と、馴染みのある顔ぶれがオレを祝福してくれた。
オレの両親と、莉菜のご両親だ。
今日は、入学おめでとうパーティーなので貸し切りにしてくれたと両親は、笑顔でいうがほんとは、自分たちがはめをはずしたいだけなんじゃ?って少し思う。
だって…
乾杯用にワインとかあるし…
オレと莉菜には、ジュースが用意されていた。
なんなら、炭酸で色々割りができるようにと、さまざまな飲み物が用意されていた。
「何飲む?」
冷めた顔で、莉菜が聞いてきた。
…
莉菜の制服は、今初めてみた。
はじの方で読書をしていた莉菜が、パタンと本をとじ、オレに話しかける。
「莉菜…か、かわ…」
思わずかわいいっていいそうになった。
「え?乾き物食べたいの?それより先に飲み物でしょ。乾杯するんだから」
…
淡々と話してくる莉菜に、少しさみしくなった。
いっつもそうだ。
莉菜は、ロボットみたいに淡々と話して感情がまるでないみたいだ。
「莉菜、オレ彼女できた」
唐突に言葉が出てしまった。
一瞬動きが止まった莉菜だが、すぐに
「あっそう。それより早く飲み物決めなさいよ」
と、流された。
あっそうってなんだよ‼︎
オデコにニキビできた。
あっそう。
くらいのノリじゃんかよ⁉︎
こんなにモテる幼馴染がいるというのに、全く見向きもしない幼馴染っておるん⁉︎
腹が立ったので、オレは莉菜からコップを奪い、自分でジュースをよそった。
それじゃあ、乾杯ーってそれぞれコップを高々と掲げた。
めでたいのに、莉菜のやつ…しけたつらしやがって。
乾杯と同時に、親たちはくだらない世間話やらで盛り上がっていた。
オレは、莉菜から離れてドスンと椅子に腰掛けて、携帯を操作した。
…
チラッと莉菜をみると、淡々と料理を小皿にとりわけて、上品に口に運んでいた。
…なんなんだよ、あいつは。
飯ってのは、もっとかっくらって食うもんだろうが!
携帯を置いて、料理をよそいがっついた。
腹もいっぱいになり、ふと莉菜をみると…
また読書かよ…
莉菜の前に立ち、
「なぁ、莉菜って生きてて楽しいか?」
って聞いてやった。
オレの質問に莉菜は、本をそっと閉じて
「まあ、それなりに」
と、目もあわせずに言ってきやがった。
「莉菜さ、もっと青春したら?」
「してる。」
「オレみたいに恋人つくるとか」
「いらない」
「なら、オレと付き合うか?」
「は?あんた彼女できたんだよね?あんたの頭ってスカスカのスポンジみたいだよね。彼女がかわいそう。だからいっつもすぐ別れるんじゃない?」
…たしかに
「ちゃんと彼女と向き合いなさいよ」
「はい…。」
お説教されました?
でもさ、たしかにそうだよね。
で…言われた通りに、ちゃんと向き合った結果、別れることになりました。
あれ?
これは、ヤバない?
実はオレって、莉菜にどうこう言う前に自分の方がヤバない?
だって…
…
どうしよう、ヤバいことに気づいてしまった…。
真剣に彼女と向き合った結果…
オレは…
フラれたよ?
彼女ときちんと向き合った数日後、オレは喫茶店の端の席で頭を抱えた。
「ヤバイ…莉菜、どうしよう。早速フラれた…」
「それはアンタが悪いでしょ。彼女にキス迫られて断るとかさ、終わってる」
…
「てか、なんでそれ知ってんの?」
「だって、あんたの元カノわたしのクラスメイト」
「あ、そうなんだ…」
実は、オレと莉菜は同じ高校だ。
「てか、莉菜もここでバイト始めたんだ?」
「ううん。ただのコスプレ」
「えっ⁉︎」
驚くオレに莉菜は、
「そんなわけないでしょ。ほら、早くエプロンつけて」
と、お母さんかのように渡してきた。
しぶしぶエプロンをつけ、莉菜と喫茶店のバイトに励んだ。
オレは…困ったことに気づいた。
いや、困ったっていうか…重大なミスを犯していた。
オレの好きな人って…もしかして…
続く。