第96話 ゴーレム、いちゃつく
ご来店いただき誠にありがとうございます。
「それでイエヤスさんはなんで岡崎じゃなくて名古屋なんすか?」
「都斗、そこじゃないわ」
「儂っちの魂の名前ウェイヤスと呼んでほしいのぉ。それで、ここにいる理由は岡崎にダンジョンが出なかったからじゃ」
小〇構文のようであるが、それ以外に理由がないので仕方がない。ダンジョンマスターにもダンジョンが出現する場所は選べない。
「江戸城でもないんですね?」
「お嬢ちゃんよ。江戸城はもうないんじゃよ」
「ええっ!?それは嘘だよウェイヤスさん。暴れん坊な上様が住んでたよ」
筋肉達とセレスタも驚いていたが、依和那と都斗は純日本育ちであるはずの木葉に残念そうな視線を向ける。
「マスター、あれは姫路城です」
「えええっ!?」
:魂の名前w
:ダンジョンボスに常識を説かれる木葉ちゃんww
:某エルフのセリフをエルフが言ってない
サングラスを額に上げるて狸を思わせる顔を露わにしたダンジョンボス相手に和やかな会話でコメントも笑いで埋められている。しかし、職員から知らされて視聴していた鷹柳は口から魂が出ていた。
「因みに姫路ダンジョンのボスは暴れん坊ウェイ様じゃよ」
「あっちもウェイなの!?」
因みにほぼどこのダンジョンも入口以外は別の空間に存在している。名古屋城もであるが姫路城もダンジョン内部は別空間であるため、入口以外は通常の空間として存在している。その為、某時代劇の撮影も特に問題はなかった。
「この通りウェイヤス君は対話の出来るエゴです。稽古をつけてもらいに来るのも、ダンスをしに来るのもいいでしょう。せいぜい今は御霊というゴースト系の魔物ですが、一度は人種の頂点に立った存在ということを忘れないようにしなさい」
キリのいいところで柘榴はカメラに向かってそう告げると、手振りで配信を終わらせるようにほとりに示す。
「今回は驚きの連続でしたね。それでは次回の配信も見てくださいね~」
ほとり達が締めの挨拶をして配信を終わらせると、それまで和やかな表情をしていたウェイヤスも表情を引き締める。それを目の当たりにした木葉達もここからは公開できない話なのだと感じ取った。
「ほとり、ここからは撮るのは構いませんが公開は禁じます。もし公開を交渉をするのなら剣崎としなさい」
ダンジョン探索組合日本支部の最高責任者の名前を出されて配信者達はかなりビビって勢いよく首を横に振った。
「さてまずは………ウェイヤス君のことを黙っていたのはただのノリです」
「何の宣言だ?」
柘榴の前置きに影が掛かって表情の見えなくなった木葉が一歩踏み出す。
「まままっ、待ってくださいマスター。続きがあるのです!」
少し慌てた様子の柘榴が木葉を制止すると、疑わしそうな顔をしながらも一先ず引き下がる。
「少し説明しますと、このダンジョンは下層までで階層としては第2と同じレベルです。ただし、四天王は現状で深層レベルの能力があり、大怨霊に進化していたらダンジョンも深くなって彼らも強化されていたことでしょう」
柘榴の説明を聞いて一同はさもありなんと頷いて納得して続きを待つ。
「そんな闇堕イエヤス君のころに、ある存在が接触したそうです」
柘榴が告げる存在を知る木葉達はピンと来たが、知らないインド勢とほとり達は頭に疑問符を浮かべた。ハリスは予測がついたようでちらりとヨダに視線を向けた。
「儂っちはその頃全ての生命を道連れに終わらせてやるつもりになっておったからのう。そ奴も拒絶して追い返したんじゃ。そ奴は儂っちよりも強かったが、狂気にまみれた儂っちの様子に使い物にならんと判断したのかその場は大人しく帰りおった」
話の雲行きが危険な方に進んできたと配信者達は思い逃げたくなったが、重くなってきた胃を押さえながら黙って話を聞く。
「誘いに応じる時の為に連絡方法を残していったそうですので、ヨダもいる今日この日に呼び寄せることにしたのです。私の知らないところでウェイヤス君が取り込まれたり、消されたりしたら面倒ですので」
「面倒………」
「人の心とかないんすか?あ、なかったっす」
「ええ、ええ、ですので汚物も消毒できてしまいますよ!あたたたたたたっ!」
「それは雑魚のセリんほおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
柘榴の遠慮とか思いやりとかがない言葉選びにウェイヤスがしょんぼりとするのを見た都斗が口を滑らせた。哀れな都斗は3秒間に50突胸部の秘孔を突かれて、断末魔をあげると白目を剥いて逝ってしまった。今回は木葉がとっさに隠したが白いハンカチだったので心なしかヤバい顔が透けて見える気がする。ヤン吉君とモブ彦は何故か急に立位体前屈を始めた。
「ぐるるるるっ」
「楽しんでいるところすまないが、お姉ちゃん。どうやら来たようだぜ」
「っ!!皆さん下層側の扉の方へ下がっていてください」
中層ボス部屋前に禍々しい気配を感じた木葉が犬化して唸り、同時にヨダも察知して柘榴に警告をする。瞬時に戦闘モードに入った柘榴が奥側に誘導して、何故か気絶している都斗はそちらに放り投げた。
「ぶげっ」
一同が退避したところで皆の前に一振りの剣を突き立てる。
「ヨダ、いかなる攻撃もここより先に通しませんよ」
「ああ、分かったぜ。お姉ちゃん」
太い笑みを浮かべて柘榴に答えるヨダを頼もし気に一瞥して、振り向いて木葉に視線を向ける。
「?」
「それでマスターはどうしますか?」
「え?」
問われた木葉は初め何を言われているのか分からなかった。しかし、選択肢を木葉に預ける意思をその眼から感じ取り問いの意味を理解した。
すなわち5の最凶と101の災厄に挑むか、それとも逃げるか、と。
木葉が挑むべきはこれから訪れる敵ではなく、自身のものとすべき力そのもの。
「あ、あたし………」
怖い。以前暴走した時の記憶は残っていないが雲の上の相手を容易く蹂躙する事が出来る力で荒れ狂ってしまう事が、仲間達や他者を傷つけてしまう事が。
しかし、
「正直に言うと怖いよ。でも、あたしは弱いからこの力から逃げたらずっと柘榴にだけ無理をさせちゃう。それにあたしの目指す探索者、お父さんならきっと立ち向かうから。だからあたしも戦う。戦わせて!」
「マスター………」
木葉の想いを聞き届けた柘榴はその決意を感じ取ったのか目を伏せる。
「マスター、幸彦を美化しすぎてハードルを上げては可哀そうでは?」
心底気の毒そうな顔で言われた木葉はむくれて柘榴の頬をにゅーんとする。例え気負っている自分を解す為にわざと空気を読まなかったのだとしても許してあげないのだ。
「マスター。私はマスターの意思を誇らしく思います。ふふん、いつも至高の私を説教している時のように奴らもめっとしてやればいいのですよ!」
「そんな簡単に………っ!!」
それを木葉だけが見た。口調はいつものとおりであるが、木葉に対する信頼を告げる慈しむような表情を。
木葉は頬が熱くなっているのを感じた。制御を失敗して暴走してしまう事への恐怖はすっかり忘れていた。
「とはいえ今回は監獄解放を使うのは5秒だけにしましょう。ですので、ここぞという時に………ですね」
「うんうん。羨ましいな。俺もドストとイイ感じになりたいものだ」
「あわわ」
見惚れて呆けていた木葉はヨダの生温かい声で我に返って気恥ずかしさから慌てて距離を取る。その際に柘榴から手渡されたものを見て目を見張る。
一応強敵との決戦前であるのにどことなくゆりゆりした空気が漂ったが、それを吹き飛ばすようにボス部屋に通じる扉が開かれてそれが姿を現した。
暴れん坊ウェイ様は別の踊りを踊っています。多分。




