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SS VDショート

ご来店いただき誠にありがとうございます。


ちょっとは甘味成分が出ているといいな

 その日、咲乃家の面々を見送った柘榴は手早く家事を終わらせてキッチンで腕を組み目を閉じ考え込んでいた。


「この私が作るのですから、かの陶芸家すら昇天させるものでなければいけません」


 そう言って手袋を外すと、用意したボールに手のひらからパラパラと虹色に発色するゲーミングな豆を山盛りに出した。そして別の器にキラキラと輝く純白の粉を盛る。


「くっくっく。こいつはキマルぜぇ。と、何故だか言わなければいけない気が?」


 謎の衝動に首を傾げながら用意した材料ーーーそう!今日は2月14日バレンタインデーなので、木葉にチョコレートをプレゼントしようと計画しているのだ。


「ふふん。この虹の麓に生える精霊樹から採れるスピリットカカオとドライアドに祝福された甜菜から採れるブレスシュガー。あえて他の材料は使わずに素材のポテンシャルを感じていただきましょう」


 独り言ちると通常のカカオ豆と同じく洗いにかけて魔術で発行・乾燥してローストすることによりむらなく火を通す。


 手作業で外皮と胚芽を取り除いたカカオニブを再び魔術で粉砕してカカオマスにすると、ブレスシュガーを投入して更に細かい粒子になるまで磨り潰す。


 そこからコンチェングからテンパリングまで器用に魔術で熟していく。なお、ここまで器用に魔術が使えるのは柘榴だからであり、将来的にはともかく現在の人類では不可能な精度である。


 故に柘榴がマウントをとってもぐぬぬと歯噛みするしかないのだが、はいはいを覚えた赤子に100m走でクラスで1番のタイムで走れたことを自慢するようなものであり、実際にやったらとっても大人げない。


 ともあれ、出来上がったチョコレートを立方体から大まかに形を変えると、彫刻刀を取り出して削りだしていく。


 望んだ形に掘り出して満足すると、色を塗って彫像というよりも実像といっていいほどリアルな見た目に仕上がった。


「完璧です。さすが!さすが私!これならマスターもしっぽを振って喜びを表すことでしょう」


 自画自賛するとチョコレートを箱詰めして棚の中にいれて保管しておく。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 授業が終わった木葉はクラスメイト達に挨拶をして教室を出ると一目散に走って帰っていく。


 家に着いた木葉は出迎えた柘榴にただいまを言うと、声を掛けようとしていることに気づかず手を洗って自室に戻っていく。


「んーーーと?あっ、あったあった!」


 自室に戻った木葉はマジックバッグの中をひっくり返して目当ての物を見つけると、それを持ってリビングへ向かう。


 リビングに目当ての人物の姿が見えなかったのでキッチンを覗くと、水分が抜けた葉野菜のようにややしんなりした柘榴が夕食を作っていた。


「?まあいいや。柘榴!」


「はい。なんでしょう?」


 木葉に呼びかけられた柘榴は一度手を止めてなぜか手を後ろに回した木葉に向き合った。


「柘榴は物を食べないからね。こっちにしたんだよ。はい、ハッピーバレンタイン」


 笑顔でそう告げた木葉は背中に隠していたそれーーー綺麗にラッピングされた白いダリアの花束を捧げる。


「えっへっへ。この時期だと季節外れになっちゃうから、マジックバッグにしまっておいたんだよ」


 花束を受け取った柘榴は涙腺があれば涙を流していたであろう表情で、ふと白の中にピンクが一輪混ざっていることに気づいた。


「ふむ?ふむ。なるほど。ありがとうございます。マスターの気持ちは理解しました」


「ん?」


「では、愛なホテルでデートでもしましょうか!マスターを頂けるよう機能の追加が先でしょうか!」


「なあ!?」


「マスターの真心は確かに受け取りました」


「そんな意味はないよぉっ!?」


 木葉を抱えて飛び出していきそうな柘榴を顔を真っ赤にしてペシペシ叩いて落ち着かせる。


 暴走モードから戻った柘榴は名残惜しそうに木葉を下ろすと、棚から例の箱を取り出して手渡す。


「私は製菓会社の陰謀に乗ってあげることにしました。もっとも、製菓会社には1銭たりとも落としていませんが」


 回りくどい言い回しで手作りであること告げて渡してくる柘榴に苦笑しながら、受け取って丁寧に包みを剥がして箱のふたを開ける。


「ワア~~~~カワイイポメラニアンダナ~~」


 箱を開けたそこには茶色の毛並みでくりくりした目を持つポメラニアンの姿を模したチョコレートが入っていた。


「リアルすぎて食べられないよ~~」


 チョコレートなのに訴えかけるような眼差しで取り分けることが出来そうにないと訴えると、柘榴は跳ねた毛並みを何本か折って木葉の口元に差し出す。


「ううぅ、あむっ。……………!!おいしいよ〜〜」


「あとは夕食の後です」


 味覚だけでなく細胞に到るまで全身でおいしさを感じるチョコレートに、感傷よりも食い気が上回って柘榴の言葉にコクコクと頷いた。


 夕食後に切り分けられた見た目にちょっと引きながらもそのおいしさを堪能して、おすそ分けされた佳未亜と健も天にも昇る甘味を味わった。


 その後、何日か咲乃家で飾られたダリアは、密かに宝物を収めるにふさわしい場所に大切に保管された。

「機能の追加って何をするつもりだったの?」

「至高書房によると腐太鳴という魔道具がありまして………」

「めっ」

「ゴメンナサイ」

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