第93話 ゴーレム、企む
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既に魔法スキルが使えなくなっていることに愕然とした都斗であったが、直ぐに最近は魔術を使うことが多くなっていたことを思い出して落ち着いた。とはいえやはり今まで有ったものが無くなった寂しさはある。
「パワーアップしたはずなのに弱くなってるって何なんすか?」
「セレスタは射撃が銃に特化しただけなので強くなっているはずですので安心しなさい、喪女」
「わっちの方の話っすよおっ!あと喪女じゃねーーーっ!」
「ま、まあまあ。都斗も今日はあたし達に頼ってよ」
「そうよ。魔術の方は頼りにしてるからね」
ここは中層、後衛で弱体化中の都斗が追放されたら普通に死ねる。しかし、お人好しの集まりである百花斉放でそんなことが起こるはずもなく木葉達の言葉やそれに頷くセレスタ、濡鴉の姿に都斗の涙腺が緩む。
「うう、みんな……いい仲間をーーー」
「字面だけで選ぶからですよ。………まあ、最上級職になればあのスキルも相待ってチートの域ですが(ぼそっ)」
「なんか言ったっすか?」
「……ふむ、駄肉で配信に貢献出来ているので、いいではないですか?筋肉の隣に並べておきましょうかBMI比較の見本として」
「うあぁぁぁぁぁぁぁん、柘榴がいじめるっすぅ」
「柘榴ぉっ!」
百花斉放の面々が望むならば最上級職に到らせるよう導くつもりであるが、今はまだ入口に立ったばかり。言っても詮無きことであるので柘榴は涼しい顔をして話を逸らした。なお都斗は探索で歩きまわっているので、前衛職ほどではないが腹回りはそれなりに締まっている。Bな部分とHな部分がわがままなだけである。
ともあれ、傍目では分からないが貴重なクラスチェンジの瞬間を見ることが出来たのでおおよそのリスナーも満足していた。
「あたし達も早くクラスチェンジできるようにがんばろ依和那」
「そうね、負けてられないわ」
仲間達が強化(?)されるのを目の当たりにした木葉達も奮起する。
「君達といると初めて得る知識が溢れてくるね。それじゃあ、そろそろ進もう」
イベントで立ち止まって時間を使ってしまったので、ハリスが促すと皆特に異論はなく探索を再開する。
パシュッパシュッパシュッ
再開してしばらくは新しい力を確かめるようにセレスタが敵の発見速撃破というように、いつぞやを思い起こさせる行動をとり木葉を心配させた。しかし、高揚はしてたが冷静であるようだったので一先ず様子を見守ることにする。時折隙を見て都斗も魔術を試し撃ちしていた。
しばらくすると十分に試せたのかセレスタは銃を下した。
「魔力弾を生成するのがスムーズになっテ魔力消費が減っていますわ。それに威力モ上がっていまスわね」
先ほどの手ごたえを思い出すように手元を見つめてセレスタが独り言ちる。
「わっちは魔導書を作るのは必要なものがあるみたいっすね。探索を終えてからの楽しみにしておくっすよ」
都斗は柘榴をして才能があると思わせるだけあって、使えるものが魔術だけになっても遜色なく戦えている。むしろ調子が良さそうであるので、なにがしかのスキルが発生していると思われた。
木葉も名古屋第1が初めてではないことと西田中の教えを守ることで罠を回避して、失敗した際は柘榴とヨダが力技で叩き潰す。現れる敵はハリス達との連携で難なく倒していくことが出来て、ついに10層ボス部屋前に辿り着いた。
「一気に来ちゃったけどもう夜だね」
「ふう、ふう。さすがにわしらの筋肉も疲労が溜まってきたのう」
「じゃあ、今日は此処で泊まろうか」
途中で休憩を挟んだとはいえ中層ボス部屋前までを1日で踏破したら夜になっていた。体力自慢のマス達も疲労が溜まっておりハリスはヨダが負ぶっていた。ほとりパーティの後衛ヤン吉君とモブ彦も柘榴が出した運搬用ゴーレムに魂が抜けた顔で背負われていた。
木葉に視線で促された柘榴が小屋キューブを2つ取り出して展開する。
「こっちはあたし達がいつも使っている方だね」
「それじゃボク達はこちらだ」
木葉達とハリス達がそれぞれの小屋に入ろうとするのを眺めながらほとり達は困っていた。野宿は嫌だが無理を言ってついてきておいてこれ以上図々しくないか、と。
「あ、ほとりさんとちょい美さんはこっちにどうぞ」
「おおっ!ヤン吉君君とモブ彦君は俺達と仲良くしようではないか!」
木葉に誘われた女性2人は翌日の開始時刻を告知して配信を終了すると喜んで小屋に入っていき、マス達に意味深な誘い方をされた男性2人は顔を引きつらせてほとり達に助けの視線を送るが気づかれることもなく、迷った末にマス達の小屋に入っていった。
「私達は外で見張りですね。マスター達の食事を用意したら戻りますのでそれまで2人でお願いします」
「wood」
「それならドスト達の分も頼む」
「分かりました」
濡鴉は木葉達の小屋の前に立ち、ヨダはハリス達の小屋の前で腰を下ろす。
柘榴が小屋に入るとほとりたちに設備の使い方を教えてリビングに戻ってきたところだった。
「わたしの家よりも立派………」
なにやらちょい美が落ち込んでいたが、そのあたりは木葉達に任せて夕食の準備に取り掛かる。
そこまで手間を掛けずに手早くがっつりと肉肉肉な料理を作って並べると、いただきますをするや一心不乱に食べ始める。
柘榴は既にハリス達の分の食事に取り掛かっており、ソイやソイやな料理を作ってハリス達の小屋に移動すると、腹を鳴らした筋肉達+2が転がっていた。服装に乱れはないのでアッー!なことにはなっていないようだ。というかハリス以外の3人は既婚者であるので普通に気のいいだけのマッチョである。何気にコミュ力が高い筋肉達は既にヤン吉君達とも仲良くなっていた。
柘榴が中に入り料理の匂いが漂うとゾンビのように起きだすと、ダイニングの席に着いて涎を垂らしながら待ち構える。
「ウメエ゛エーーーイ!ウメエ゛エーーーイ!」
料理に口をつけると低コストアニメのような反応をして、涙を流しながらモリモリと食べ始めた。よっぽど空腹だったようだが、その様子に柘榴は若干引いていた。
しかし、昼食以降は休憩もそこそこに進んでいたので致し方ないことだろう。
安全圏のないこのダンジョンでは落ち着いて休息、それどころかまともに飲食もままならない。それがこのダンジョンの攻略が進んでいない理由の1つでもある。
食べ終わったら食器を流しに置いておくように言いつけて柘榴は小屋から出る。
外に出ると2体とも先ほどと同じ状態であったが、ドロップが落ちているので襲撃があったようだ。
「よくやりましたね2人とも」
「wood」
「おう」
柘榴のねぎらいに2体も顔を向けて短く応える。
そんな2体に頷きを返して自身は木葉から買ってもらったスマホでどこかに電話を掛けた。
「私です。…………明日………ええ……………中層…………後……………終わら…………。では、そのように」
通話を終えた柘榴はスマホの照明に照らされて、糸目でもないのに裏切っている雰囲気が満々に出ていた。
「wood」
これはまた何かやらかすんだろうなと思い、濡鴉は主の苦労を思ってせめて言葉にはならないが応援だけはしておいた。
人間達は皆疲労困憊の状態だったので、割と早めの時間で小屋の照明が消された。
超越者のゴーレム2体は中層の魔物を凌駕する能力をもって主達の眠りを妨げぬように物音を立てることなく魔物を始末していく。濡鴉は万が一のために小屋の傍で待機することにした。
そして、ドロップがこんもりと山になるころには風景は変わらぬが時間的に朝を迎えた。




