第90話 ゴーレム、主達の成長を見る
ご来店いただき誠にありがとうございます。
「ヨダの主達は中々面白い人物のようですね」
不安そうにしながらも真剣な表情で罠を探しながら進む木葉に視線を据えながら柘榴はヨダに語り掛ける。
「ああ、ドストは頭が切れる。マス達も善い人格の持ち主だ。それはお姉ちゃんの主もではないか」
「そうですね。マスターは人の縁においては無類の才を持ちますね。マスターの父親もそうであったようですのでお人好しの家系に良縁が紐づいてきたという事でしょう揶揄いがいもあるよいマスターと仲間達です」
「そうか……。お姉ちゃんが楽しそうで嬉しいよ。……む、その傷はどうしたんだ?」
楽しそうに話す柘榴を横目で見た際に、伸ばした前髪からちらりと見えた破損に剣呑な雰囲気を滲ませながらヨダが尋ねる。
「……ジゴイトに戦闘で敗けまして。敗けても美しい私は至高ですが、私より弱い人間が命を懸けて作った機会を生かせなかったのは美しくありませんでした」
少し悔いを滲ませながら語る柘榴を見て、憤怒の表情をして足を踏み下ろした。
ズドンッ
「あっっっっっのクソ猿がぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!ぶっ殺してやらぁぁぁぁあ!」
「うきゃぁぁぁぁぁっ!」「のほぉぉぉぉぉお」「きゃあっ」「う、うわっ」
ヨダを中心に畳が吹き飛び地が縦横無尽に砕け散り、当然衾も破れてペナルティモンスターナオマサが出現するがヨダに瞬殺される。
階層をぶち抜かれて下に落ちそうになっている面々をとっさに出したライトナイトに拾わせて、自分は木葉と近くにいたセレスタを抱えて安全圏に退避する。インド勢はヨダが拾っていたのが確認できた。
「な、何が起こったの!?」
「すみません。私が不用意にこれのことをヨダに話してしまったので、姉思いの弟がブチ切れてしまいました」
「この穴って下の階層に抜けてイませんか?」
突然の崩落に目を白黒した木葉達が穴を覗き込むと下の階層の床が見えたので、穴が階層を跨いであることは確実であろう。
「うわぁ」
合流した依和那が木葉の横に立って一緒に下を覗き込むとドン引きした声を出した。
「ダンジョンの階層は繋げることができるのか。興味深いな」
続いてインド勢も合流してハリスが興味深げに覗き込んでいる少し後ろで、筋肉達が地団駄を踏むように地面を蹴りつけてビクともしないと分かるとヨダを憧れが込められた暑苦しい目で見つめている。
「あれ?都斗は?」
「此処っすよ~~。助けてっす~~」
全員集まったと思いきや姿が見えない1人を探してきょろきょろと探していると、上から情けない声が降ってきた。
声の出どころに向くと、そこには捲れ上がった床板の先端に襟首を吊るされた都斗がしんなりした顔でぶら下がっていた。襟首をつられた都斗の強調された山脈に木葉は平野を見下ろし、筋肉達は空気椅子を始めた。
「ひどい目にあったっすよ」
助け出された都斗が座り込んで視線を向けた先では、ヨダが正座で木葉に説教されていた。
「あの、マスター。何故、私まで」
ヨダの隣で一緒に説教をされていた柘榴が不服を申し立てると、やさぐれた小型犬の目で木葉に睨まれる。
「柘榴はこうなると分かってて話したでしょ!」
「♪~~~♪~~~」
図星を突かれた柘榴は視線を逸らして、口笛を吹いて誤魔化す。
「いや、なんで口笛を吹いてるはずなのに重厚なオーケストラが流れてるっすか?!?」
「なんか柘榴って時々ゴーレムっていうよりロボっぽくなるわよね」
「科学か魔力工学かの違いダけで似たようなものなノでしょうか?」
「そうかもね。本人もロボ好きそうだし」
3人の脳裏に身近なロボーーー配膳ロボの柘榴、すなわち配膳ザクロボが思い浮かんだ。「エサヲオモチシマシタ」「サッサトトリナサイカトウセイブツ」など暴言を吐いているのが容易に想像できて、思わず笑みが浮かぶ。
道が殆ど塞がっていて魔物も来ないので最低限の警戒だけで、大体いつもの光景を眺めながら呑気にお喋りしながら木葉の説教が終わるのを待つ3人。ハリスは床の断面を調べているし、筋肉達は体育座りで筋肉を休めている。破天荒に振り回された末マイペースになった者と、初めからマイペースな者達の相性は悪くないようだ。
木葉の説教が終わりせっかく魔物が来ない状況なので、そのまま昼食にすることにした。
百花斉放の持つ休憩セットはコスト度外視のため魔物素材などがふんだんに使われており、一般に販売されている物より高性能で使い心地がいい。そもそも未だ需要に供給が追い付いていないため予約を取ることも難しい状態である。
キャンプなどと違って仕事の面が強いダンジョン探索では不便を楽しむよりも便利を取りたいと考える探索者が多いということだ。実は公共や一部の職種からも一般人が使用できる製品の要望も上がっていたりする。
そんな休憩セットを使ったインド勢達も柘榴印の弁当に舌鼓を打ちながらダンジョン内と思えない快適さに先ほどの騒動の疲れが癒されていた。
「んん?うぅ~~っ!」
デザートを食べていたら急にぴくっと反応して唸り始めた木葉に他の面々が怪訝な視線を向けるが、柘榴とヨダは感心していた。
「ほう。よく気づいたな。何かまでは分かっていないようだが」
「自ら種族犬説を高めているマスター。それは空間を越えて見られている感覚です。ここのダンジョンボスですよ」
「はっ!こ、こほん。何やつっ!」
柘榴に犬っぽいと指摘されて人間の反応をしようとしたら、何故か時代劇になっていた。場所的には合っているが。
「何やつも何もダンジョンボスですよ」
ごまかすことに失敗して赤くなった木葉は聞かなかった振りをして、デザートのアップルパイをばくばくと口に入れて完食する。
今も見られている感覚はあるが柘榴達が警戒しておらず、生存本能も反応がなく危険な予感もないので一先ずその感覚を気にしない様にして一息ついているといつの間にかハリスが傍にいた。
「君は自分の感知能力の正体が分かっているのか?興味深いんだが解剖してもいいだろうか?」
「嫌ですよぉっ!?この人怖っ!」
木葉がボスの視線は察知したあたりから様子を観察していたハリスが、類まれなる木葉の察知能力に興味を示して解剖の交渉に入りドン引きされていた。
「そんなことは許しませんよ!」
「柘榴、たす………」
「まずは友達から初めて、次は手を繋ぐところです」
「ワイフになる前にライフが無くなりそうだよっ!?」
サイコパスから助けてくれると思いきや、まさかの裏切りに木葉が涙目になる。そんな木葉に優し気な顔をして頷くとハリスに向き直る。
「という訳で、却下です。マスターの体はもうマスター1人のものではありませんので」
「意味深っ!」
こいつは駄目だった。
「はっはっは。ハリス流の冗談だからそんなに怯えなくていいぜ。………たぶん(ボソッ)」
「最後に何かいいました?」
きゃーきゃー騒いでいる小型犬にマスがフォローをするが、微妙に目が泳いでおり自信なさげであったが幸い木葉の耳には届かなかった。
しかし、聞こえてこそいないものの鈍いリーダーとは違って3人娘は雰囲気で察しており、いざという時はリーダーを助けようとこっそり話し合っていた。もちろんいざという時は柘榴も助ける側だ。……ほんとだよ。
相変わらず危険地帯と思えないくらいの賑やかさであるが、そんな中塞がれた先から声が聞こえたような声がした。
”なんだこれっ?床が捲れ上がってんのか!?”
”ダンジョンの異変かよっ!?”
”少し落ち着きましょうよ。向こうから声が聞こえませんか?”
”確かに!向こうにも人がいるのか”
”おーい。聞こえるか?”
どうやら、別のパーティと遭遇したようだった。
ハリスは知識欲の為なら常識や道徳を越えるタイプです。




