第86話 ゴーレム、選択肢を突きつける
ご来店いただき誠にありがとうございます。
「うん。まずは発案者の僕から行こうか。僕はこの名古屋第2支部支部長の鷹柳だ。まあ、来月からは第一に異動になるけどね」
最近色々と図太くなってきた鷹柳は笑みを浮かべて名乗るが、初耳の情報を聞いた依和那達は驚いていた。
「え、鷹柳さん異動しちゃうんすか?」
「うん。第2ダンジョンが攻略された後、ある程度調査も終わってイレギュラーが起こることもなさそうだということで、いざという時の戦力になる僕は第1に移ることになったんだ。用がある際はそちらに来てくれればいいよ」
鷹柳の説明になるほどと依和那達が納得していると、当の鷹柳に続きを促されたので依和那が頷いて青年に向き直る。
「先ほどは木葉を止めていただいて有難うございました。わたしはそちらの咲乃木葉がリーダーを務めるパーティ【百花斉放】の姫宮依和那です」
「わっちは掛け持ちで百花斉放にも所属している書ノ上都斗っす」
「わタくしも百花斉放の一員でセレスタ=ストアラスです」
付けたばかりのパーティ名を名乗れるのが嬉しいのか、皆が心なしか弾んだ声で紹介をまわしていく。そして最後に自身が本命と言わんばかりに柘榴が胸を張る。
「そして私がしこ「君は界隈では有名だから知っているよ。会えて光栄だ。ボクはハリス・ヴァルマ。ハリスで構わない。こっちはヨダと名付けたダンジョンの中で見つけたよく分からない存在……だったのだけれどゴーレムらしいね」………ヨダ、貴方のマスターはマイペースすぎませんか?」
柘榴の自己紹介が長くなりそうだと判断したハリスが自然に自分とヨダの紹介を差し込む。いつもの柘榴節を初対面で封じた手際に依和那達は感心の声を上げていた。
名乗りを遮られた柘榴がヨダに同意を求めると肯定するように頷いていた。
「ボクが日本に来た目的はヨダの正体を確かめたかった。それが出来る可能性が最も高そうなのが地球上の誰よりダンジョンに詳しいZAKURO、君であると考えた。故にこの支部によく現れると聞いて来たのだが………あっさりと目的が達成されたという訳だ。それにZAKUROはヨダの言葉も解っているのだろう?」
「勿論です。ですが、さて………ん?」
『オレもお姉ちゃんみたいにこの世界の人間の姿にして欲しいんだ』
柘榴は自らを改造して様々な知識をダウンロードしたが、完全に戦闘型のヨダにはそれが出来ない。ハリスに言葉を教えるよりヨダに自身の言語データをコピーした方が早いかと考えていたら、ヨダが肩を叩いて自身の改造を願ってきた。
「ふっ。私が弟のお願いを断る訳ないではありませんか!任せなさい!」
早速とばかりにヨダの手を引いて部屋を出ようとする。
「ちょっと待って下さい!まだ先程の咲乃さんの異様な状態が何なのか聞いていませんよ。今の彼女は大丈夫なのですか?」
ノブに手を掛けようとしたところで慌てた鷹柳に止められる。どうでもいいことであれば無視をしているところだが、他ならぬ木葉の事であるので渋々引き返して木葉の元へ行く。
そして未だ眠っている木葉の顔を背伸びして撫でると、それが呼び水になったのか瞼が震えて眼が開く。
「あ、あれ、あたし………?え、えええっ!?」
「「「「ええええっ?」」」」
目を覚ました木葉が柘榴を見て驚いた声を上げるのと時を同じくして、柘榴の人?となりを知る面々も驚いていた。皆の視線の先にいる柘榴は土下座をしていた。手足が短いので蹲っている様にも見えるが、それは確かにDOGEZAであった。
「マスター、申し訳ありません。マスターが監獄解放を制御できないことを私は確信しておりました。その上で使用を勧めたのです」
「どうゆうこと?」
「いかに精神が強くてもマスターは他者と融和を望むお花……ごほん、慈愛に満ちた性質であるということです。しかし、監獄解放は私の中に封じられている収監者の力を支配下に置いて自在に使う能力です。相手は不倶戴天の邪悪ですから融和などを求めてはいけない」
「今お花畑って言いかけたよね?邪悪……柘榴みたいな?」
「そのくだりはもう済ませましたので結構です。続けますが、ですので力に残る収監者の意志の残滓をマスターの意志でねじ伏せなければならない。収監者の意志に負けた状態が先程のマスターの姿です」
柘榴の説明を聞いたハリス以外の人間は危険な状況であったことを改めて知らされて身震いした。そしてそのような危険な力を地上で使わせたことに鷹柳は柘榴の人格に一瞬疑念を抱いたが、その考えは直ぐに霧散した。今までの柘榴の行動から木葉の心に傷を残すような真似はすまいと考えたためである。他の人間を犠牲にするわけないとは考えられないところが柘榴の人徳である。
「なるほどね。ところで、ヨダ君がいなかった場合はどうやって止めるつもりだったんだい?」
「今回ジンクロを選んだ理由ですが、彼が決闘者であるということです。誰彼構わず死合を吹っかけては決着はどちらかの死のみ。もっとも奴が封じられていることから、どちらかというのはお察しですが。そしてその剣技は神技に到り、やがては上級の超越者ですら幾柱も斬り殺した悪魔族。そのような性質ですので決着をつけてしまえば、一先ず落ち着くと考えていました。とはいえ、いくら元がマスターの肉体でもこのぷりちぃぼでーでは勝ち目は薄いですが、勝っても負けてもマスターは元に戻れるという算段です」
鷹柳の問いに最後まで答えたところで柘榴の頬がにゅーんと引っ張られた。引っ張ったのは涙目の木葉だった。
「それって柘榴が死んじゃってたかもしれないってことだよね?」
「いえ、仮ぼでーですのーーー」
「嫌だよ、そんなの」
本体から意識を飛ばしているだけということを言おうとしたが、ぎゅっと抱きしめられて口を噤んだ。木葉にとっては仮であろうと関係ない。自身を軽んじるなということなのだ。それを感じ取った柘榴はただされるがままにしていた。
久々に会った姉が主に愛されている姿を見たヨダはとても嬉しそうだった。柘榴も弟妹が大好きだが、ヨダも兄弟姉妹が大好きなのだ。
「イチャイチャっすね~。撮っておくっす」
ハリス以外の皆が生暖かく見守る中でうっかり口を滑らせた都斗の発言で、いい雰囲気が霧散してしまい木葉が顔を赤くして体を離した。邪魔をされた柘榴の額に青筋の幻が見えた気がした。
「このっ!駄肉がっ!いいところでぇっ!」
ずむんっ上上下下左右左右BA
木葉の腕から抜け出して都斗目掛けて跳びあがり、回転しながら勢いをつけて出っ歯な小学生ゲーマーのようなポーズで両手の人差し指を、とあるわがままな部分のジョイスティックに突き刺して動かした。
「あびゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ」
「貴女はもう逝っている」
敏感な秘孔?を突かれた都斗は見せられない顔をしながら倒れ込んだ。
「あらぁ」
それを覗き込んだセレスタがせめてもの情けとでも言うかのように猥褻物の顔にハンカチを掛けてあげた。
そんないつものやり取りを初めてみるハリスは興味深そうに見ていた。それに気づいた柘榴は「む」と言葉を漏らし改めてヨダを見上げた。
「ふむ、鷹柳。これで貴方の懸念には答えたかと思います。これは私より強い存在が現れたときに必要になるであろう力ですが、使うかどうかをマスターに委ねます。これの持つ力の危うさも示しました。あとはマスターが決めねばならないことです」
自分の甘さが誰かを傷つけるかもしれない。今回は幸運にも身体的な負傷者は出なかったが、次はそのような幸運は期待できないかもしれない。木葉の弱気が顔を出したことに柘榴は気づいたが、それも含めて判断するのは柘榴の主である木葉自身だ。しかし、柘榴は信じていた。木葉の意思はあらゆる障害を乗り越えて、邪を希望に変えて正道を往くだろうと。
悩んでいる木葉から視線を外して支部長室から出ると、ヨダを連れて適当な部屋を借りて入る。
『よかったのか?あのままにして』
「大丈夫です。私のマスターですから」
『そうか』
「それよりも屈んでください」
柘榴に言われて屈んだヨダと額を合わせて記憶データを送信する。一通りの言語と世界情勢など基本的な知識を送り、ヨダが自身の姿を選択するため様々な情報を送る。
そしてヨダの希望を聞いて愕然とするが、弟の希望を叶えるために心を無にして改造を始めた。
柘榴は(主にだけ)きちんと謝れるえらい子です。




