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第85 話 ゴーレムの主、S級探索者と闘う(後)

ご来店いただき誠にありがとうございます。

「っ!!」 


 木葉が能力を使ったのを見た柘榴が焦燥を含んだ表情になった。柘榴の初めて見る姿に目を丸くしている仲間達を余所に、柘榴は自身が今すぐに介入すべきか思考をまわす。結論を保留として飛び出せるようにしながらも座りなおした。


「どうしたンですか?」


 尋常ならざる様子に硬い声でセレスタが聞くと木葉から目を離すことなく口を開いた。


「私の中に封じられている存在は例外なく”邪悪”です」


「柘榴みたいなっすか?」


「茶化さないでください。他者を嬲って弄んで苦しめるのが好きな猿、存在するだけで世界を灼き尽くす業の炎、愛であらゆる生物を幸せに死に絶やす女神、喰らっても喰らっても満たされぬ飢餓の口など。そんな存在が私には封じられています」


「はいっす。言葉だけでヤバいのが伝わるっすよ」


「木葉サんはそんなモノの能力を借りて大丈夫なノですか?」


 柘榴が例に挙げただけでも自身の仇と同等の物騒極まりない存在に顔を青くして、柘榴から大丈夫であると半ば願ってセレスタが一番大事なことを聞く。


「それはもちろん……大丈夫ではありません。私の中では思考も停止していますので本体からの邪神の囁きといったものではないのですが、使用者の心が弱いと自身の意思が収監者のそれに置き換わってしまいます。つまりは悪堕ちというやつですね。特に今マスターが告げた力を貸してというアプローチは悪手です」


「と、いうことは……!!」


「取説の大事さが分かりますね。吉祥院舞姫は死ぬかもしれません」


「「「そんな呑気に言ってる場合かっ(ですか)!」」」


 全員の表情が強張りツッコむが、柘榴がすぐに介入しないのを見て一先ず成り行きを見守ることにした。


 そして皆が緊張して見守る前で木葉の白目が黒く染まり虹彩は朱くなった。そして木葉の持つナイフの刃が伸びてボロボロな片刃の直刀となり、どこからともなく取り出した編笠を被る。


「な、なにっ……」


 吉祥院は先ほどまでのどことなく小型犬を思わせる愛嬌が消え去り、不気味な変化を遂げたことに戸惑っている。否、手に持つチャクラムが小刻みに震えており無自覚で恐怖に身を震わせていた。


「キッキッキ」


 そんな吉祥院を嗤うように木葉が剣を引きずってふらりと身体を揺らすと剣が目の前にあった。


「なっ!?あああああああっ!」


 自身の顔を輪切りにする斬撃を無理矢理仰け反って倒れ込み、なりふり構わず転がった。


「キッキッキ」


 しかし木葉はそんな吉祥院を追撃せずに剣を肩に乗せて先ほどのように嗤っていた。


「なんなのよ、これ?あれは誰なの?」


 吉祥院の背筋を冷たい汗が伝う。吉祥院は魔物はもちろんのこと対人戦も戦闘経験は豊富な方だ。数多の戦闘経験から先読みも習得しており、例え多彩な攻撃方法を持つ探索者が相手であろうとそれは技能として発揮される。先ほどまでの木葉などは攻撃が真っ直ぐすぎて、正直に言えば最初の1撃でカウンターを合わせて倒すことも出来ていたほどだ。


 それが今は何も見えない。否、見えすぎる。


斬斬斬斬突斬斬斬斬斬斬斬斬斬突斬突斬斬斬斬斬斬斬斬斬突斬斬斬


「は、はは。なにこれ………。バケモノ………」


 あらゆる方向からの斬撃刺突が予測出来てしまい、何が本当なのか分かったものではない。呆けたように口が勝手に笑いを作り、体は自然に後ずさっていたが踏みとどまる。


「こんなバケモノは見たことないわ。でも、こっちも伊達でS級の看板背負ってないの!」


 自身に発破を掛けて強化魔術に魔闘術を重ねると八方からの小チャクラムに合わせて流れるような足取りで木葉に斬りかかる。吉祥院の二つ名【舞剣】の呼び名となったのは小チャクラが舞うように飛ぶからだけではない。自らの舞うような連撃と小チャクラムによる飛剣によって舞剣は完成する。


しかし、


「あ……え……」


 ぬるりと吉祥院の斬撃を抜けた木葉によってチャクラムは全て切り落とされて、踏み込んだ吉祥院の頭がずれて………地に落ちた。


 そして吉祥院の人型のLPは0となりドームが砕けると、地に落ちたはずの吉祥院の頭は繋がっており、荒い息を吐いて膝をつき自らの首が繋がっているか確かめるように撫でる。


「そこまでっ!勝者咲乃木葉!」


 鷹柳が勝者を宣言するが、訓練所は異様な雰囲気に包まれており観客から声が上がることもない。


 そして、木葉も能力が解けておらず未だ吉祥院に狙いを定めている。


「キッキッ」


「ひっ。こ、来ないで」


 木葉の視線に気づいた吉祥院が疑似的にでも首を落とされたことで心が折れたのか、ぺたんと尻もちをついて悲鳴を漏らす。


「これ以上はいけませんねっ!」


 これ以上は危険と判断した柘榴が木葉に向かって跳ぼうとしたところで胴体を何者かに掴まれた。


「ここはヨダに任せるといい。ヨダ、頼む」


『ああ』


 柘榴の胴体を掴んだ眼鏡の青年が傍らのシーツお化けのような不審者に声を掛けると、ヨダと呼ばれたシーツお化けは一足で木葉と吉祥院の間に入った。


「これがZAKUROか。ふむ……ふむ……どうやって動いているんだ?興味深いなぁ」


 ヨダに任せておけば問題ないとでも言うかのように青年の興味は既に柘榴に移っており、腕を動かしてみたり振ってみたりひっくり返してみたりと好き勝手やっていたが服を剥ごうとしたところで気を持ち直した依和那が奪い返した。


「それはさすがに事案ですよ……。柘榴もどうして好きにさせてるのよ?」


 いつもの柘榴であれば青年の眼鏡を割って吹っ飛ばしていたであろうところを好きにさせていたことが気になり柘榴に目を向けると驚愕の表情で固まっていた。


「柘榴?」


「あ、ああ、すみません依和那。有難うございます。しかし………あれは………」


 驚愕から立ち直った柘榴が依和那に礼を言って木葉達の方に目を向けると、そこには先ほどまでとは違って警戒の色を滲ませる木葉と向かい合うヨダがいた。


 そして、ヨダが全身を覆う布に手を掛けて脱ぎ去るとそこには190cmはありそうな体格のいいメタルヒーローのような人型が眼を緑色に光らせて立っていた。


「【無双士】」


 その姿を見て柘榴が信じられないとでも言うかのようにポツリと呟く。


 その名を聞いたことがある仲間達は驚いて一斉に柘榴に視線を向ける。


「ZAKURO、君はヨダを知っているのかい?」


 また、眼鏡の青年も予想はしていたが確認をするように問いかけると、柘榴は青年を見定めるような眼を向けて頷いた。


「はい。彼は私と同じく創造主メイアリスに創造されたゴーレム。【無双士】です」


 柘榴がヨダの正体を告げると同時に、ヨダが無造作に手を上げて親指と人差し指を摘まむとそこにはボロボロの刃が挟まれていた。


「ギーーッ!」


『お姉ちゃんの主か………傷つける訳にはいかないな』


 剣を摘ままれた木葉が剣を手放して下がろうとするが、それより早くヨダが距離を詰めて腹に掌をそっと当てると木葉は意識を失って崩れ落ちた。倒れかける木葉をヨダは横抱きにして柘榴の元に歩いてくる。


 ようやく異様な空気から解放された観客達は、それでも生でS級の実力からそれを超える怪物にメタルヒーローっぽいのまで現れて興奮していた。そして訓練する者とダンジョンに向かう者や野次馬をする者にとそれぞれ行動を移していった。


 戻ってきたヨダは木葉を椅子に座らせると自らを見上げる柘榴をひょいと持ち上げて、やっぱり色々調べる仕草をしていた。


『お姉ちゃん…か?ああ、本体ではないのか』


「ええまあ」


 柘榴が一通りなすがままにされたあたりで鷹柳がやってきた。


「ふう。君達先ほどは有難う。それで、色々聞きたいこともあるし支部長室まで来て欲しい。咲乃さんは、医務室の方がいいかな?」


「いえ、ただ眠っているだけなので直に目覚めるでしょう。依和那お願いしてもいいですか」


「分かったわ」


 柘榴に頼まれた依和那の背に木葉を背負わせて柘榴が取り出した毛布を掛ける。


 そして先導する鷹柳の後を木葉一行と青年とヨダがついていく。


「吉祥院さんは大丈夫なんですか?」


「ああ、外傷はないけどショックが大きそうだったので職員に医務室に連れて行かせたよ」


 歩きがてら依和那が放心していた吉祥院の心配をして様子を尋ねていた。


 支部長室に入ると木葉をソファーに寝かせて面々は席に着いた鷹柳と向かい合う。


 最初に口を開いたのは鷹柳だった。


「さて、初対面の人もいるしまずは自己紹介でもしようか」


 柘榴の弟なるゴーレムを連れた青年に視線を向けてそう提案をした。

収監者たち本体は喋れます。

意思の残滓なので言葉を失っている者もいます。

作者がセリフ考えるのが面倒くさかったからじゃあないですよ?

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