第84話 ゴーレムの主、S級探索者と闘う(前)
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あっという間に時は流れ木葉のしょけ………対戦の日になった。
「あ、あばばばばばばばばばばばば」
肝心の木葉は控室にされた部屋で口から魂が漏れ出ていた。そんな木葉を柘榴が飾り立てていつもより可愛らしさが強調されていた。
「マスター、ここまで来たらしゃんとして下さい。……ああ、ダーリンと言った方がよかったですか?」
「何言ってるのかわかんないよ!?3日間いつもの訓練くらいであとは柘榴がくっついていただけじゃん」
「ふっ。堪能しました。でも、私の使い方は解ったでしょう?」
「そうなんだけどぉ」
「ダーリンは普通の探索者の才能はありませんが、こと私の主としての才能は申し分ありません。貴女の感覚を信じて下さい」
「ダーリンやめてっ!?」
「ふふっ」
のろのろと訓練所に向かう木葉の横をざくろちゃんぼでーに似つかわしくない笑みを浮かべて歩いていく。
「あれ?なんで柘榴が付いてくるの?」
今回の対戦は木葉と吉祥院の1対1であるはずなので本来柘榴は観覧席にいるはずなので、今自分と一緒に訓練所に向かっているのはなぜだろうかと思い柘榴に尋ねる。
「ステージにギミックを仕掛けますので、その説明です」
「ギミック?」
「はい。アトラクションなどではないので安心してください」
「あ、うん」
詳細は言わないが、またとんでもないことなんだろうなと思いながら再び歩を進める。
そして訓練所につながる扉をくぐると鷹柳を始め吉祥院が闘うことを聞きつけた探索者達が観覧席に集まっていた。既に吉祥院も完全装備で対戦側で待ち構えている。
「逃げずに来たわね!そんな邪悪を飼っていることが、どれだけ害悪なことか教えて……って、なんであんたまでいるのよっ!」
吉祥院が木葉の横にいる柘榴を見咎めて、指をさしてわめくがそれを無視して柘榴はフィールドの中央辺りまで歩いて止まる。
「「?」」
皆の頭に疑問符が浮かぶ中で手のひらサイズのドームを取り出し「展開」と唱えると、ドームが人や物を透過して広がりフィールドを包むような形で展開する。
「こ、これはっ!?」
柘榴を一切信用していない吉祥院は何か攻撃を仕掛けられたのかと警戒するが、それ以外の面々はただただこれが何なのか疑問に思っていた。
「はあ。こういうことをするなら事前に相談してくださいよ。それで、これはどういう効果があるのですか?」
さすがに対戦前に人に害がある効果のあるものではないだろうとは思っているが、報連相の出来ない柘榴に鷹柳は苦言を呈しながら魔道具の効果を尋ねる。
「うまくいきましたか。完成がぎりぎりになったものですから許しなさい。これはドロップで出る身代わり人形の構造を応用した決闘空間生成の魔道具。その名もデミコロシアムです」
「決闘空間生成?」
「ええ、あちらを見てください」
意味が分からずおうむ返しされた言葉に反応するように吉祥院の背後空中を指さすと、そこにはデフォルメされた吉祥院の人型が1000という数字が表示されたメーターに腰かけていた。
「あれがマスターの方にもあり、この空間内では攻撃が当たればあの人型が表示された数字LPが削られます」
そこまで説明されれば大凡の人間にはその効果が理解できた。
「つまりはこの空間の中では闘った人達が怪我をしないということですね!」
先ほどまでの呆れた表情が吹き飛んで、鼻息を荒くした鷹柳が柘榴に顔を寄せてデミコロシアムの効果を確認する。
「ちか、近いです。離れなさい。結果的にはその認識で間違いありませんが、闘っている最中は怪我を負います。どちらかのLPが0になるか魔道具を解除すると両者の負傷が人型に移されるのです。あとは生体にしか効果は及ぼさないので装備は普通に壊れますので注意してください!」
とても嫌そうに鷹柳から距離を取り、最後の説明を一息ですると自分はさっさと観覧席の依和那達の元へ走っていった。
「またとんでもないものを作ったわね。あんなのが作れるならあの身代わり人形ももう少し見栄えのいいものを作れないのかしら?」
「デミコロシアムは起動時に空間内にいる生体のイデア「簡単にお願いするっす」……闘う前でセーブして終わったらロードします。生産に特化していない私にはこれが限界ですので、あのような小型化された物は作れません」
鷹柳から逃れて依和那の隣に座った柘榴に期待したような顔で、命綱としてとても重要だが呪いの人形みたいなアレが何とかならないか尋ねるが、にべもなく不可と返される。必要以上に淡々とした声音はたとえ自身を肯定的に受け入れていても期待に応えられないことへの柘榴なりの悔しさの表れかもしれない。
「こほん。それではS級探索者吉祥院舞姫とD級探索者咲乃木葉の戦闘訓練を開始します」
興奮して醜態を晒していたことを咳払いで誤魔化して、戦闘訓練という名の模擬戦開始を宣言すると前代未聞の魔道具を見て呆けていた吉祥院も気を持ち直して両手に構え、小チャクラムを浮かべる。対する木葉も覚悟を決めてナイフを構えて開始を待つ。
「始めっ!」
鷹柳の合図直後に先に動いたのは木葉だった。
「身体強化発動っ!」
籠手の能力を発動させた木葉は更に魔闘術で強化した瞬発力をもって地を蹴り、低い姿勢で不規則にジグザグに動き吉祥院に迫る。
(柘榴からはS級の実力を見てみればいいと言われてるし、あたしも吉祥院さんとどこまで闘えるか知りたい。レベルでは倍以上差があるのに烏滸がましい考えかもしれないけど、これはあたしにもチャンスなんだ)
元々素早さ頼りのジョブで装備効果と魔闘術で強化した木葉の動きを、しかし吉祥院はしっかりとその目に捉えていた。邪悪の影に隠れていて今まで殆ど目に入っていなかったが、木葉自身に思うところがあるわけではない。それどころか断片的な情報ではあるがその人格は吉祥院にとって好ましいものであると思えていた。
(それでも手加減なんかしない。あの邪悪を放っておくことなどは出来ないから。物で釣ってギルドも篭絡して好き勝手しているようだがわたしはそうはいかない)
微妙に真実を突いた思い込みーーー割と真実かもしれないーーーで闘志を燃やして迫る木葉を小チャクラムで迎え撃つ。
「ひゃあああああっ」
立体的な軌道で迫るチャクラムに焦った木葉はなんとか直撃する軌道のものだけ避けてごろごろ転がって距離を取る。
「ううう、フ〇ーダムと戦う時の気持ちってこんな感じなのかなぁ?飛んでるチャクラムが自在すぎて攻め手が見つからないよぅ」
戦う前から予想はしていたが、木葉はたった1手で想像以上に小チャクラムが厄介なことを思い知らされた。しかも近づけば更に巧みに両手のチャクラムを操る吉祥院がいる。
「ならっ!」
事前にいくつかシミュレーションに従いクラフトソーサリーを抜き出すと小チャクラムに迎撃されないよう手元で発動させる。
「起動」
「っ!」
1枚目で大量の砂塵が生み出されて2枚目のカードで突風により巻き上げられて吉祥院を覆った。
「今っ」
木葉は大きく迂回をして走りだして吉祥院の死角に入り込もうとする………が、
「へっ。きゃあああああああっ!」
砂埃の中から飛んできた小チャクラムに全身を刻まれて倒れてしまう。それを見ていた柘榴が思わず「あ」と声を漏らした。
「どうしたの?」
「……命の危険がない状況なので、マスターのスキル生存本能が仕事をしていません」
「ああ……」
いつもの木葉であれば見えていなくても勘で直撃は避けられていたかもしれない。その勘が働かなかった要因はデミコロシアムによって生命が保障されていることにあった。傷だらけになって地に伏す木葉を仲間達はハラハラして見守っていた。
「それで終わり?もういいかしら」
「ま、まだ……です」
砂埃を浴びせられて少し不機嫌になっている吉祥院が語りかけると、よろよろと立ち上がりナイフを構える。木葉の人型のLPは今の攻撃で200を切っていた。
「どうして……」
「どうして貴女の位置が分かったかって?ダンジョンには不意打ち特化や姿を隠せる魔物がいるのだもの。気配察知や視界以外で相手を捉える方法を備えておくのは基本よ」
吉祥院の言葉に観戦していた一部の探索者は頷いて賛同しているが、まだ駆け出しの者はなるほどと感心して、また一部の者は目を逸らしたり口笛を吹いていた。
全身の浅くない傷に痛む身体を鞭うって吉祥院の隙を探すが、まだ手を使わせていないどころか1歩も動かせていない状況に力の差を痛感させられる。
最近はなんだかんだとピンチも乗り越えたりして自身の成長を実感できていたが、上を見ればまだまだなのだと分からされる。
このまま意地を張れば柘榴がくれた力を使うことなく終わってしまう。
故に木葉は自分の能力のみで闘うことを今回は諦めることにした。
「あたしに力を貸して。監獄解放・心意接続ー刃甚塵魔ジンクロ」
しかし、この時木葉は気負いから忘れていた。この力の源が何かを。
木葉がD級で呼ばれている理由は後の話で書きます。




