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第81話 ゴーレム、煽る

ご来店いただき誠にありがとうございます。

 気絶したままの吉祥院舞姫が医務室に運ばれていく間に、天井を以前のように修復すると支部長に向き直る。


「ずいぶんと出てくるのが遅かったではないですか?」


「はぁ。幾分か問題のあるとはいえS級の方を止めることは我々には難しいので、吉祥院誠一氏とクラン【気高き秩序】のクランマスターに連絡を取っていたのです」


 草臥れた雰囲気を醸し出す支部長は、実際にド級のトラブルが舞い込んできて草臥れているだろう。なんだか職員たちも称賛の視線を送っているので出来ることはしていたらしい。


「ああ、それは確かに賢明な判断ですね」


「ご理解いただけて幸いです。今回はかなり過剰気味ですが正当防衛のようなので大目に見ますが、ギルド内で暴力行為は厳禁ですよ」


 もう一つの爆弾が大人しく納得したことにほっとした支部長はギルド内で暴れない様に注意して戻っていった。鷹柳であればここらで要求の一つでも突きつけるであろうが、ここの支部長は面倒ごとには関わりたくないという考えのようでヤバい存在からの早急な離脱を選択した。


 支部長を見送った柘榴は意識をざくろちゃんぼでーに戻すと本体を収納した。するといつの間にか傍に来ていた木葉が脇を掴んで持ち上げる。


「柘榴っ。柘榴の身体、酷い状態だった………。話は聞いてたけど、実際に見ると分かっちゃった。あたしがあの時お願「至高!」」


 自分のせいで柘榴が傷ついたと話を聞いた時から感じていたが、代替ボディとはいえいつもの柘榴を見ていると実感がなかった。しかし、本体の状態をその眼で見てしまい現実を突きつけられた木葉が謝ろうとするも無意味に胸を張った柘榴が遮る。依和那も心配して視線を向けるが、柘榴と目が合い任せなさいという意思を感じたのでひとつ頷きを返すに留めた。


「そんなどうでもいい事でいちいち考えすぎです、マスター。あれは最善の状況ではありませんでしたが、そこまで悪くない状況だったのです。訳の分からない勢力の暗躍を認識することが出来たのですから、むしろお手柄です。そんなことよりももっと褒めてください!この至高の私を!そう言いたかったのですよね、依和那!」


「違うけどっ!?」


 視線の意味を曲解しすぎて明後日の方へ行った解釈された依和那が思わずツッコミを入れる。少し空気がほっこりとしたところで柘榴が真面目な顔で木葉の眼を見つめる。


「マスターは全て完璧に皆が無傷で笑顔でないと満足できませんか?でしたら、探索者はやめるべきですね。ダンジョン探索は以前もお話しした通り生存競争ーーーつまりは、殺し合いです。命の価値の安い場においてマスターの理想がそれであるならば、必ずマスターはいつか折れます」


「っ!!」


 木葉は涙目で言葉を返そうとするが、反論できる言葉を見つけることが出来ず俯いてしまう。しかし、柘榴はそんな木葉を見ながら言葉を続ける。


「私はマスターのゴーレムですから、他の道に進みたいのでしたら至高のサポートをして見せましょう」


「………それは嫌」


 尊敬する父親の姿を思い浮かべて他の未来を力なく拒絶する木葉を感情の見えない瞳で見つめると嘆息する。


「分かりました。今はここまでにしましょう。人間とは悩み迷うものらしいですからね。貴女の悩みにも寄り添いますし、迷ったときは共に歩みましょう。間違えた時には私が至高のリカバーをします。マスターが自分の理想と向き合った時に出す答えを楽しみにしています。そして、その時こそ貴女が私を本当の意味で使いこなせる時です」


 未だかつて見たことのない感情を含んだ眼に木葉が戸惑っているといつもの表情に戻っており、今見たモノが幻覚かと疑ったりしている内に最後の言葉も忘れてしまっていた。しかし、木葉がそれを知ることになるのはそれ程遠い未来ではない。


「え、それはどういう………?」


「とりあえずマスターの能力を上げるようにもっと訓練を厳しくしましょう。そうすれば、マスターの悩みも解決するかもしれませんよ」


「脳筋的解決方法!?う、うぅぅ。でも、一理はあるけど死んじゃうよぉ」


「一理ではありません。むしろ私が理です!死んだら改造してあげます。そう理が言っています!」


「意味が分からないよ!?」


 謎の宇宙生物のようなセリフを吐きながらも後悔のスパイラルから抜け出しているのを傍で見ていた 3人は気づいていた。


「あれ、慰めてるんすかね?」


「木葉さんを謎のテンションに引き込んデ気分を持ち上げてイますわ。どちラかというと励ましですわね」


「あれはたぶん木葉にボロボロの姿を見せちゃったことが後ろめたいのね。いつもと違いが判りにくいけど最後の方のやつはわざとやっているわ、きっと」


 柘榴検定中級の依和那に見破られて一瞬鋭い視線を向けるもぬいぐるみのような姿では全く迫力がなく依和那には通じず歯噛みしていた。ぐぬぐぬしながらも他にすることがないので励ましていると、一先ず落ち込みから抜け出した木葉が不意に声をあげた。


「あっそうだ!吉祥院さんの様子を見てこなくっちゃ」


「あ……あー。ふむ。そうなったらアレをやってみましょうか」


 一瞬また面倒があるかもしれないので止めようとしたが、不意にあることを思いついて不穏なことを呟くと黙ってついていく。


「大家サんのお孫さんでシたわね」


「なんか遠慮なくぶっ飛ばしてたっすけど、柘榴の得意先の令嬢だったっすよね?大丈夫っすかね?」


「それなら麗華さんに借りを返すために取引してるだけらしいから大丈夫みたいよ。むしろKISSYO所属の探索者に中級魔術を覚えて貰って手を引きたいと考えているくらいらしいわ」


「へ~。俗っぽいかもしれないっすけど、せっかくのもうけ話なのに勿体ないっすね」


「それでしたラ、先日柘榴さんが確定申告をしてイた時参考に見せていたダいたら一般家庭が優雅に一生暮らせるくらいの収入でしたわ」


「マジっすか!?一番古くても発売して2、3か月程度っすよね!?」


「柘榴のダンジョン用品は世界中で売れてるから本体製作が間に合わないくらいらしいわ。この間麗華さんに会った時に言ってたから。そのくらい売れていればそうもなるわよね」


 3人もおしゃべりしながら木葉の後をついて医務室のの中に入ると、女性は既に目を覚ましておりパッと見では身体に異常はなさそうであった。


 髪はショートヘアにしていて今は険のある顔をしているが、麗華譲りの品のある顔立ちのため小柄ではあるが大人の女性に見えるその人がWER8位のS級探索者吉祥院舞姫である。


「くっ。この私が竜崎君に無体を働くような邪悪に後れを取るなんて!」


 悔しそうに漏らす吉祥院の言葉の中の人名に思い当たるところがなく「はて?」と首を傾げ、木葉の方に視線を向けるが心当たりなさそうに首を傾げていた。


「う~~~ん?西風荘に押しかけて来た者達にいちいち名前など聞いていませんし………誰ですか?」


「あんたっ!痛ぅっ」


 本当に分からなそうな柘榴にカッとなった吉祥院は手が伸びそうになるが、動こうとすると頭に痛みが走って思わず体が止まった。


「あいたたた。なんで頭が痛むのかしら?」


「ぎくっ」


「まあ、いいわ。それよりもあんたがチンピラと一緒に殺しかけた竜崎君を知らないわけないでしょう」


「チンピラ……鮫羅木?……ああ!マスターを死なせかけたクズどもですか!そういえば、なんかいましたねそんなのが」


「本っっっっっっ当にこいつはぁっ!竜崎君はうちのクランのメンバーよ!」


 憤る吉祥院に竜崎某が誰かも分かって興味を失った柘榴は、謝らなきゃと思っておたおたしている主を視界の片隅に抑えていい機会と内心でほくそ笑んだ。


「仲間の敵討ちですか。思ったよりもまともな理由ですね。麗華からは薄っぺらい正義を盲信して視野を狭めている愚物だと聞いていたのですが」


「お婆様………。それにしてもその言い方、あんた……それ絶対盛ってるでしょ!」


「ふふん。意訳しました。しかし貴女程度ではこの私に敵討ちなど高望みしすぎではないですかぁ?」


 一瞬悲しそうな表情をしたが、すぐに取り繕い柘榴に噛みつく吉祥院に冷笑を返すと指を突きつけると嘲笑うかのように見え見えの挑発をする。しかし、嫌いな相手からの挑発で対人の駆け引きは不得意な吉祥院はあっさり乗っかる。


 その様子に後から来た3人は柘榴が何か企んでると察して静観しているが、パーティリーダーの小型犬は険悪な雰囲気に委縮して困ってしまい、きゅんきゅんきゅきゅんと鳴いていた。社会人の気遣いで都斗が少し落ち着くようにとジュースを買ってきて渡していた。


「どこまでも好き放題言ってくれるわね!さっきは不覚を取ったけどわたしの「確かに先ほどは超常スキル【念動】を使っていませんでしたが」………え?」


「貴女の二つ名の【舞剣】ーーー貴女が仕込んでいる複数のチャクラムを操ることが出来るからですね。武器がチャクラムなのは細かい操作が出来ないから全周が刃のチャクラムだと都合がいいからでしょうか」


「な……な……なあっ!?」


 吉祥院舞姫のように地上でも派手に動くような人間は比較的戦闘スタイルもある程度は広まっている。動画なども取られているのでネットを探せばそこそこ出てくる。故に麗華から吉祥院が押しかけてくる可能性があると聞いた後、調べてみて自身の記憶から使用しているだろうスキルを割り出していた。


「魔物を相手にするのであれば問題ないでしょうが……貴女は自身の手の内を衆目の前で見せすぎです。おそらく、貴女に近い実力を相手が持っていれば返り討ちに合うでしょう。今までは運が良かったですね。ぷぷぷ」


「ぐっ!こ、このっ!わたしのスキルは知られたところで早々対策されるものなんかじゃないわ!」


「ほう………。では、試してみますか?3日後に完全武装で名古屋第2支部まで来なさい!そこで貴女ごときの実力がとるに足らないものであると知らしめるでしょう!ーーーマスターがっ!」


「やってやるわよ!………え?」


「ぶーーーーーーっ!」


 柘榴の宣言に吉祥院は目を点にして、貰ったジュースを飲んでいた木葉はキラーパスを受けて盛大に噴いて吉祥院の顔にぶちまけた。


本年は当作を読んでいただきありがとうございました。

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