第80話 ゴーレム、また植える
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その場の皆の視線の先ーーー木葉にしがみ付いたままのゴーレムは主の背に顔を埋めたまま声の元に視線を向けることさえしなかった。
「そこの邪悪!こっちを見なさい!姿が変わっていようとわたしの目は誤魔化せないわよ!」
木葉の背にしがみ付いたままで完全に無視をされていた20代前半くらいの女性がいら立ったような声でへばりつくゴーレムを指さして怒鳴ると柘榴は何かを考えて、面倒くさそうな顔で木葉の背から降りた。そして、心底不思議そうな顔であたりを見回すと尋ねた。
「前から不思議に思っていたのですが、別に望んでではありませんが至高の私はかなり人類文明に貢献をしていると思います。先日も幸村にウザがらみされて魔力変換炉の設計図を書いてあげたので、クリーンになって発電効率も上がることでしょう。それが建設されることによって将来的に魔石の需要も増える見込みです。他にも様々な技術を齎していて一家に一体欲しいと思われていることでしょう」
そう一息に言い切り周囲を見回して悲しそうに目を伏せると、芝居がかった調子で顔を上げて大きく手をひろげる。
「そんな至高の私がネットを見ていても見かけるくらい邪悪呼ばわりされているのはなぜでしょうか?この私とは対極にあるような単語ではありませんか!」
(((((日頃の言動と行動だろ!!)))))
それを聞いていた人達の心が一致したところで、にこにこした木葉が柘榴の両肩に手を置いて目を合わせる。
「それはね、普段の言動と行動だよ」
「一点の曇りもありませんが?」
「自己肯定感の塊!?手強すぎるよ!」
曇りしかない眼で見つめ返された木葉が後ずさって依和那に縋りつき「よよよ」と泣きに入る。
「一家に一体いたら町中のあちらこちらから至高とか聴こえてきてうるさそうっすね。あはは」
「なにをっ!この駄肉ボディーがっ!」
「ひぎぃっ」
不思議そうに主を見ていたが、余計なことを言った駄肉がいたので飛び上がって胸部装甲に華麗なビンタを与えると悲鳴を上げて悶絶した。
「でモ柘榴さんはあんまり人の評価とカ気にしてませんよネ?」
「当然です!私は私が至高であると知っています。故に他者の評価などで私が揺らぐことはありません!」
「それならバ別に訴えかける必要はないノでは?それに殆ど本気デはないようですし」
「そこのそれのように実害があるから言っているのです。それに、さんざん恩恵を受けながら悪口ばかり言っているのはどうかと思いますよ」
女性を指さしながら面倒くさそうに言う柘榴に人々は確かにと思いながらも、ある思いが心を占めていた。
((((正論だけどこの唯我独尊ゴーレムに言われると納得いかない))))
そして指を差された女性はさんざん無視された挙句の扱いに憤慨して足を踏み出すと柘榴に掴みかかる。
しかし、柘榴は女性の手を逆に掴むと投げた。ぽーーーんと擬音が聞こえそうなくらいあっさりと空中に飛ばされた女性は驚きに目を見開き呆気にとられたが直ぐに気を持ち直して着地した。
「今のはっ!?」
驚く女性に冷笑を返すと体勢が整わぬうちに一瞬で間合いを詰めて突技を放つが、女性は手のひらで受け止め拳の勢いに逆らわず跳んだ。
「ざっくが拳法使ってる!?」
「以前は身体能力任せだったよね」
「誰だよ?馬〇に刃物持たせた奴は!?」
「ざっくのパンチに反応した吉祥院さんもすごいわ!」
道場に通った成果を人前で披露するのは初めてであったが、武術をかじっているいる層からは反応が大きかった。しかし、木葉など武術など知らない層はなんで騒いでいるんだろ~という反応をしていた。
「至高の私の数少ない弱点としてレベルが上がらないことと、スキルを覚えないということがありますからね。ですので武術や魔術といった技術で実力の底上げをしているのですよ」
あっさりと自身の弱点をばらしたことにも驚いたが、自身の技術を放出しているだけでなく、逆に地球の技術を取り込んでいることに人々は驚いていた。
「驚くことでもないでしょう。魔術や魔闘術が最初からインストールされていたとでも思っているのですか?ゴーレムの疑似人格は創造性はありませんが、模倣や発展は得意なのですよ」
「なんかAIみたいだな………」
そう呟いた探索者を含めた幾人かは自身のPCやスマホから「至高!」と聞こえてくる未来を想像して身震いした。
「っ!邪悪の癖にっ!」
「ふぅ。とりあえず大人しくさせないと拷m………尋問も出来ませんね。麗華に大けがをさせない様に頼まれましたが………治せばいいでしょう」
そう言うと柘榴は自らの服をはだけさせる。とはいえ、3等身のぬいぐるみのような姿なのでさすがにそれに興奮するような強者はいなかったが。
はだけさせた胸元が道具が出てくるように波紋が走り見慣れた柘榴の姿が現れると、ざくろちゃんぼでーは意識を失ってぱたりと倒れた。
意識を本体に移した柘榴が目を開くと本体が現れた時からざわついていたが、更に動揺した声が聞こえてくるようになった。修理中と本人が言っていたその姿は普段のメイド服を着ているが右手の部分は空の袖が揺れており、伽藍洞の左目周辺の頬から額に駆けて幾重もの罅が走っていた。
「噂にあったけど、あれってマジなのかよ」
「鮫羅木が傷ひとつ与えられなかったあのざっくに……」
「それってざっくより強い存在がいるってことなの?」
「そんなん光の国の巨人とか放射能吐く恐竜とかじゃねーか」
そんな柘榴の姿を初めて目の当たりにした木葉達も驚愕していたし、なんなら敵意を見せている女性も驚いた顔で固まっていた。
しかし、そんな女性に対して柘榴は冷笑を浮かべると残っている左手のひらを上に向けてクイクイと手招きして挑発する。
「あ、あんたはぁっ!」
あまり挑発されなれていないのかあっさりと掛かった女性は武器ーーー直径50cm程のチャクラムを両手に構えて突貫してきた。
「本当に未熟」
失望のため息を吐いた柘榴はざくろちゃんぼでーの時より滑らかで素早く女性の元に潜り込むと顎に向けて掌底を繰り出した。
まったく反応をすることが出来ずにまともに掌底を受けた女性は地面と垂直に跳ね上げられて、いつぞやの波賀のように天井に植えられてぷらぷらと揺れることになった。
「あ、あれはボールをリングに置いてくるあの技、レイアップシュート!って武術じゃないんかいっ!」
格闘技好きの探索者がツッコみを入れるくらいお手本のような動きであった。ただしボールではなく人の頭で、おいてくる先もリングではなく天井であったが。
そこに至って漸く職員に呼ばれた支部長が駆けつけて、木葉も精神が復帰して慌て始めた。
「あ、あわわわわ。今度こそ柘榴が変なことする前に止めようと思ってたのにぃ~~っ!」
「あ、木葉っ!」
慌てて反省を口走りながら女子の元に行きぷらぷら揺れている女性の足を抱えると、依和那が止めるのも聞かずに引っこ抜いた。
引っこ抜かれた女性は当然ながら重力に従って木葉に抱えられた部分を芯に弧を描くように先端が地面に引き寄せられてーーー。
ごんっ
鈍い音を響かせて頭から落ちた。
白目を剥いている女性の頭に漫画のようなこぶが膨らんでおり、元は端麗であった容姿が台無しになっていた。顎は直接ダメージを与えない様に持ち上げられただけなので、外傷は天井に突っ込んだ時の擦り傷とこぶだけであった。
「あああああああっ!どうじよぉおおおおおっ!」
自身がとどめを刺してしまった木葉が動揺しまくっているが、魔道具で生体スキャンをしつつ診察した柘榴は異常が無いことを確認していた。元々頑丈な探索者がこの程度でどうにかなることもないと思っていたが、麗華の手前念のためというやつだ。
「マスター。吉祥院舞姫の身体に異常はありませんので落ち着いてください」
「ほんと?よかったぁ」
医者でもない柘榴の診断であるが、なんとなく雰囲気で信用をして木葉と支部長他の面々の間で安堵の空気が漂っていた。しかし、木葉が何処となく暗い顔をしていた事を1人と1体は気づいていた。
メリークリスマス
完全にストックが無くなりましたので、週2ペースを維持できるかはわかりませぬ。




