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第8話 ゴーレム、提案する

ご来店いただき誠にありがとうございます。


500PVありがとうございました。

「まあ、この程度の傷であれば上級ポーションでも十分でしたけれど、マスターをどうやって治したかという事でしたので今回もエリクサーを使用しました」


 あっさりとそう言い放つ柘榴に、周囲は何も言えなくなる。


 何しろ現代世界では、ダンジョンからはまだ中級ポーションまでしか発見されておらず、エリクサーどころか上級ポーションですら幻なのだ。


 ポーションという名称は傷を治す薬が発見された際に、訓練された世界に誇るオタクたちが勝手に命名して、それが通称となったのである。正式名称は【急速外傷治癒魔法薬】である。


 「つまり生命活動を停止していたマスターをエリクサーで身体を治し、蘇生薬で魂の活動を再開させました。蘇生薬は生命活動停止直後でなければ効果がないので、危険なところでしたね」


「え、生命活動を停止していた?」


 驚愕の事実を聞き、木葉が聞き返す。


「はい。さすがに生命活動が停止している状態ではポーションは効果がありませんので、エリクサーを使用しました」


 木葉は自分がわずかな時間とはいえ死んでいたと知り、混乱して目をぐるぐるさせながら不思議な踊りをしている。


「マスター、不思議な踊りをしても下がるのはマスターの知性だけです」


「下がらないよっ!?あたしが死んでたなんて言われたから、おかしなところがないか調べてただけだよ」


 そんなコントをしていたら、鷹柳が難しい顔を話しかけてくる。


「柘榴さんは、まだエリクサーをお持ちですか?」


「貴方にそのようなことを答える必要があるのですか?」


「柘榴」


「はあ、ありますが。それが?」


 鷹柳に冷たく返すと、木葉に叱られたので不承不承答える。


「それを売っていただく気はありませんか?」


「寝言は寝て言いなさい。そのようなことをする理由がありません。どうせ、下等生物の間で自らを支配種と勘違いしているような醜い連中の餌になるだけでしょう」


 おおよそ予想した話の内容を切って捨てる。


「はは、やはりそうですか。おそらくおっしゃる通り権力者や資産家に買い占められるでしょうね。すみません、これはボクの失態です。このような聴衆の目があるところでエリクサーをお持ちであることを明かさせてしまった」


 柘榴との付き合い方を学び始めた鷹柳は、自己暗示で言葉の刺にフィルターをかけて柘榴の言葉の意味を聞き取る。それくらいできないと中間管理職はできませんよ。と後に語ったとか、語っていないとか。


「問題ありません。下等生物の有象無象など返り討ちにすればいいのです。あのゲ○共ははその良い見せしめになるはずでした。本来であれば……ですが」


「なるほど。圧倒的武力を誇示することで抑止力とするつもりでしたか。では、竜崎君の事もわざとですね。実力がある者を倒して見せることで己の力を見せつけるという事ですか」


「いえ、あれは汚い手で至高の私に触れようとしたからです」


「………………………」


 深読みしすぎた鷹柳の読みを柘榴に否定され、竜崎が気の毒になり言葉がなくなった。


 まだまだ柘榴検定初級である。中級以上があるかは不明だ。


 話が途切れたので、混乱から帰ってきた木葉は柘榴の所有している物の効果を知り、己の思いを告げる。


「ねえ、柘榴……」


「マスターはやはり知性が下がってしまっていますね。エリクサーでも頭は治せなかったのでしょうか?」


「ひどいっ!?それに、まだ何も言ってないよ」


「おおよそ察しがつきます。どうせ、「それで助けられる人もいるのならギルドに譲ってあげよう」などとお花畑なことでも言うのかと」


「う、当たってるけど」

 

 一大決心した思いを一刀両断されて、涙目になる。


 それを見て、ため息を吐いて木葉に説く。


「いいですか、まず、先ほども言った通り、ろくでもない連中の手に渡るだけでマスターの願いなど叶いません。そもそも、クソ雑魚ポメラニアンで自分の事も何とかできないマスターが、他人を助けたいなどと烏滸がましいですよ。それに浅い!マスターの言う通りに下等生物共を救ったとしてマスターの生涯をかけても千、万程度でしょう」


「あ、あう。でも、少しでも助けられるならーーー」


「私がいた部屋でマスターに教えたことを覚えていますか?」


 木葉の言葉に被せ質問を投げかける。


「え、うーんと………なんだっけ?」


 まったく覚えていない様子の木葉に何があったのかと、気になっていた周囲はずっこける。


 柘榴はやけくそ気味に、予想していましたよ感を出している。木葉の記憶には期待していけないと悟ったのでさっさと続きを話す。


「魔術です」


「あ~~~。そうだよ。そういえば、魔術っていうのを教えてくれるって言ってた!」


 ファンタジーではよく聞くが、現実では存在していない概念に周囲は「魔法とは違うのか?」などとざわついている。


 柘榴はまた、エリクサーの空瓶を振りながら告げる。


「これもまた魔術の派生である錬金術によって創られたものです。さらに言えば、この至高の私も創造主メイアリスの創造魔術によって創られたものです」


 大きく手を振り上げ、胸に手を当て悦に入ったように己の出生を告げる。平常運転である。


「もう1つマスターに言っていたことがありますが、今のマスターは私に相応しくありませんので立派な兵士にして差し上げますと」


「そこは違うよねっ!」


「ちっ」


「舌打ちした!?」


 柘榴はまだ海兵隊式訓練をあきらめていないようだ。しかし、木葉は時々NOといえるJKである。つまり、だいたいYESと言う。


 ひとまず海兵隊式訓練の野望を胸にしまい、鷹柳に向き直る。


「貴方は鷹柳といいましたか」


「あ、はい。何か僕に用ですか」


 柘榴が初めて自ら鷹柳に話しかけたことに、一瞬驚くが平静を装い返事を返す。


 しかし、内心何を言われるのかとビクビクしていたりする。


「まず、私は無償の施しなどというものが嫌いです。ですので、提案があります。マスターの希望と貴方の希望、そして私の目的を満たせる提案です」


「興味深い話です。お聞かせ願えますか」


 提案内容に興味をひかれた鷹柳が続きを促す。


「ええ、それでは教えてあげましょう。私のマスターは現在、才なし、センスなし、体力なし、知性なしのクソ雑魚ポメラニアンです」


「ひどいっ!?」


 小型犬が吠えているが柘榴は無視して続ける。


「それでは至高の私の主として、相応しくありません。ゆえに育てる必要があります。そして、育てていく中で私からマスターに課題を出します。課題を達成すれば、ご褒美を上げましょう」


 柘榴は勿体つけて一度話を区切り、あたりを見渡す。


 鷹柳をはじめ何人かは思案顔になっているが、木葉はご褒美の言葉に瞳を輝かせている。

 

 大半はそれが何だというような雰囲気だ。


「ご褒美はその時の課題によって選べる選択肢を変えます。まずは、マスターに最初の課題を出しましょう」


 木葉は柘榴の言葉に息をのみ、課題の内容を待つ。


「最初の課題は咲乃木葉のレベルを20に到達させること。ご褒美は上級ポーション5個、ミスリル100kg、魔術の知識初級の中から1つです。鷹柳、貴方達にはマスターへの助力を許します。--が、パワーレベリングなどの直接的な助力は禁じます」


 鷹柳はこれが物品の方でも破格の提案であると思っているが、魔術については先ほどの説明から察することがあり、それを確かめる必要があった。


「柘榴さん、魔術の知識初級には錬金術は含まれていますか?」


「ふむ、下等生物にしてはきちんと察していることを褒めてあげましょう。その答えは初級ポーション等が作成できる程度の錬金術が含まれている……です。ただし、これはマスターの課題達成のご褒美です。選択をするのは貴方達ではありませんし、選択の強要は許しません。もしも、それを破るものがいれば……」


 最後にそう釘を刺し、柘榴は波賀達を親指でさす。


 よからぬことを考えていた者達は、それを見て震え上がる。


 とはいえ、おそらく木葉は他者のためにご褒美を使うと柘榴は考えているし、鷹柳もそう予想している。あのような目にあっても人を助けたいといった木葉だ。目の前に大金があってもその意志は変わらないだろう。……たぶん。


「貴方達がやる気を出せるように、魔術の見本を見せてあげましょう」


 そう言って、柘榴は竜崎が飛び出して割れた窓に近づくと、指先を窓に向ける。


「修復ー物質」


 そう唱えて、回路を走らせると歪んだサッシが直り、硝子の破片が元の位置に収まり傷跡一つない状態になった。


「「「「おおーーーっ」」」」


 沸く周囲をよそに、さらに意識のない竜崎に近づき柘榴の打撃で歪んだ鎧を剥ぎ取る。


 その際にマナメタル製の鎧を素手で引きちぎっていることに、周囲は引いていた。


「修復ー物質、付与ー刻印ー堅牢」


 周囲の反応などお構いなしに、先ほど同じ魔術を使って修復し、また別の魔術を使うと鎧に刻印が刻まれた。


 それを持ち上げ先ほど竜崎を殴った時と同等の力で殴る。


 甲高い音が響き渡り周囲の人間が耳を抑え、大きな音に気絶していた竜崎も目を覚ました。


 響いていた音が治まり、耳を押さえていた者たちが恐る恐る柘榴の方を見ると殴られた鎧は無傷であった。


「これが中級にある付与魔術です。特別に、そう至高の私が寛大な心で特別にサービスで実演をしてあげました」


 それを見て、魔術による生存率の向上や自身の強化に思考が行きつき、探索者達は修復を見た時よりさらに沸き立つのであった。


「え?え?」


 目覚めたばかりで状況を把握できず混乱中の竜崎をよそに。












(計画通りっ!)


 柘榴は内心でほくそ笑む。思った以上の難問になりそうであった木葉の育成に、他人を巻き込むことができた。餅は餅屋、人を成長させるなら人がいた方がいいだろう。


(あのゲ○共に自分が思っていた以上に感情的になってしまったのは予想外でしたが、衆目を集めるにはちょうどよかったと思いましょう。これだけの目撃者がいれば広まるのに時間はかからないはず。探索者達も自らの強化の機会の秘匿を許さないでしょうし。これで、探索者ギルドは、この流れを止めることはできない。あとは、利権を狙う者や既得権益を守ろうとする者共ですが……まあ、どうとでもなりますね。餌があれば必ず食いつく者達が現れるでしょうし。そもそも私の目的は魔術を広めることではなく、マスターを育てること。邪魔になるなら消せばいい。マスターに比べれば、他など塵芥に過ぎないのだから……)


 柘榴はそのようなことを思いながら、探索者達の喧噪を眺めていた。


キリがいいところまで書いたら少し長くなりました。

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