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第78話 閑話・予兆

ご来店いただき誠にありがとうございます。

 地球上ではないと思われる場所で幾人かの人影ーーー到底人に見えない影もあるーーーが、集まっていた。ただし、実体であるものは少なそうだ。大多数が透けていたり、影のようになっている者達ばかりであった。その影たちが楽し気に、あるいは険悪に歓談しあっていたところで一体の人影の声が響き注目を集めていた。


「あっれー?そういえば、海王のところに行ったジゴイトが帰ってきてなくね?」


「そういえばむさい猿顔がないわね。まさかやられたの?だっさ」


 ひょろひょろとした影が明るい声で言うと、どこかはすっぱな調子の声が応えた。


「所詮ジゴイトなど我らの中で最弱」


「じゃないよね。【無敵】の防御と超越者でも上位に入る腕力で僕らの中でも強さはトップクラスじゃん」


「あ、はい」


 重々しくジゴイトを扱き下ろした声がひょろひょりした影にバッサリ否定されてしょぼくれた声で返すと、他の人影も「確かに」「クソ猿だけど力は…」「むかつくやつだけど」などとジゴイトの実力は肯定していた。ただし、人望は皆無のようだ。それは此処にいるもの皆が同じようなものであるが。


「それで、海王のところに襲撃にいくのか?」


 それまで沈黙していた人影が感情を感じさせない声音で人の倍ほどの頭部を持つ小さな人影に話を振る。


「いいや。ジゴイトが倒せるほどの実力者がいるなら、返り討ちに合うかもしれないからな。ジゴイトと同等程度の実力者をあと2、3人迎える」


「そうか。俺は抜けるがな」


「え?」


「あ、あたしも抜けるわ」


「え?へ?なんで?」


 感情がない声とはすっぱな声の人影が脱退を宣言すると、小さい人影が呆けた声で疑問を漏らす。


「楽に虐殺出来るっていうから組んでただけだ」


「あたしも強いやつと戦う気なんかないし」


「お前らクズじゃね」


 2人の答えに対して他に何人かが賛同を示すと、ひょろひょろした影がからかうように言う。


「あんたらが言えたことなの」


「ま、確かにね」


 はすっぱな声に反論されると、何がおかしいのかけらけら笑いながら肯定する。はすっぱな声の人影は肩を竦めるともう用はないとばかりにその場所から去っていき、他の者達も続けて去っていったので当初にいたよりも大分人数が減っていた。


「はあ、自由人どもめ」


「あはは、僕らに協調性なんか求めるのが間違ってるよね」


「そんなことは分かってる!愚痴くらい言わせろ。ちっ、他の界渡りでもあたってみるか」


 忌々しそうに呟く小さい人影にひょろひょろの影は酷薄な視線らしきものを向け、残っていた他の者達も各々好き勝手に過ごしていた。


 人類の与り知らぬところで、どうやら危機は少し遠ざかったようであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 とある屋敷型ダンジョンにてその少女は逃げまわていた。


「あーーーもうっ!あいつら、覚えてなさい!戻ったらミートパイにしてやるんだからっ!」


 怒りながら逃げる少女の後ろを無数の魔物が列をなして追いかけてきていた。怒っているのも半ば自分を振るい立たせるためのものであろう。よく見ると歯はカチカチとなっており、瞳には薄っすら涙を浮かべていた。


 勝気そうな顔を恐怖で染めて走る少女の姿は軽装の戦士といった装備をしていた。少女のジョブはライトウォリアー、日本語に訳せばそのまま軽戦士である。少女は敵を攪乱して引き付ける、いわゆる回避盾としてパーティの役割を担っていたが、ゲームでは起こらない事でも現実では跳弾や巻き込まれといった支障が発生するため基本的にはあまり歓迎されることがない。


 その上、少女はスキルが回避方面に偏っていた為に攻撃の性能が控えめに言っても低かった。そのため固定パーティを中々組めず細々と探索していたが、センスはどこかの小型犬と違って悪くなかったので中層に来ることが出来るくらいまでの能力を身に着けることが出来た。


 今回は臨時パーティに誘って貰うことが出来たため中層を探索していたが、メンバーがモンスターハウスのトラップを踏んでしまい、少女が囮にされてしまって今に到る。臨時パーティの面々も囮にするときにすまなそうな表情をしていたので最初からそのつもりではなかったであろうが、そんなものは今の少女には何の慰めにもならない。


 体力を振り絞って逃げ続けているが、魔物達は諦めることなく追いかけてきておりそのうち少女の体力が尽きて蹂躙されるのは時間の問題だった。しかし、それより先に少女の前に絶望が立ち塞がった。


「う、嘘。行き止まり………。」


 屋敷にしては長い廊下を走り続けた先には突き当りーーー袋小路になっていた。屋内型であるので当然屋根があり、上の方にも逃げることは出来ない。


「………っっ!どこかっ!どこかに逃げ場所、それか隠れられる場所はっ!」


 しかし、少女は折れそうになる心を何とか支えて周囲を観察する。背後から聞こえてくる魔物の鳴き声や足音が段々と大きくなってきていて諦めたくなるが、気力でそれを振り払う。


「絵画、壺、絨毯、窓、照明………見かけだけの癖に、無駄に飾ってあるわね」


 窓は庭が映されていても形だけで開きはしない。絵画を外して隠れようかとも考えたが動かないようだ。万事休すの状況に襲ってくる魔物にぶつけて少しでも歩みを止めてやろうと壺を持とうとした時に、描かれた扉の模様に触れると違和感を感じた。


「え?」


 僅かに魔力が吸われるような感覚がして、パッと手を離すと恐る恐るもう一度触れる。するとやはり魔力が吸われている感覚があった。


「ただの罠の可能性の方が高いけど、なんとなくこれに賭けた方がいい気がするわ。どうせもう逃げるところなんてないんだし……ねっ!」


 少女が壺に魔力を吸わせていると、追いついた魔物の姿が見え始めた。


「くっ。何か起こるならさっさと起こりなさいよっ!」


 少女の声に応えたように魔力を吸った壺が大きくなり、ただの絵だったはずの扉が開き始めた。人が通れる隙間が出来ると、少女は迷いなくそこに飛び込んだ。


 飛び込んだ先は大きな空間になっており、奥にポツンと小柄な薄緑の線があみだ模様に走った人型の何かが安置されていた。


「これって、もしかして動画のアレ?にしては【ZAKURO】とは見た目が違うし………普通に置物かトラップよね」


 そう独り言ちて一歩踏み出すと少女と人型の間に無数の魔法陣が輝きを放ち、先ほどまで自分を追いかけていた魔物より明らかに強力そうな魔物が出現して少女の頬が引き攣った。


「あははっ。一生に一度の賭けの連続ね!ベットするのはあたしの命ってね!じょーとーよっ!絶対生きてやるわっ!」


 そう言う少女の瞳にはどこかの性格の悪いゴーレムが人類で最も評価をしているーーー生への渇望と勝利の欲求に満ちていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 またとあるダンジョンでは褐色に焼けた肌を持つ眼鏡を掛けた青年が座り込んで石板を観察していた。


「ふんっ。力技の試練とやらでないだけいいかもしれないが………あと1列でゲームオーバーのテトリスをクリアしろというくらいには理不尽なパズルだね。しかも時間制限付き。制限時間が過ぎたら輪切りにされるわけだ」


 青年がちらりと視線を向けた先には鳥や動物の頭をした戦士像が斧を振りかぶっている姿であった。それが四方に存在しており、一定の速度で青年に近寄ってきていた。


「君達は逃げた方がいいと思うけど?」


 それを見ても何の感情も浮かばない青年が声を掛けた先には3人の男達がいた。声を掛けられた男達は青年ににっかりとした笑みを向ける。


「問題ない!我らはお前を信じているからな!お前の知恵には神が宿っている。なに、この程度なんということはないさ」


 心の底から青年を信じているということが感じられる言葉に苦笑すると、一瞬だけ石板の先にある190cmはありそうな大柄な人型に視線を向けると、再び石板に目を向けて思考を回し始めた。その目は仲間が向ける信頼のように、己の勝利を疑っていない。勝利を確信した、というよりはどうあろうと勝利を掴み取ることを決意を宿した目であった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 KISSYOの現社長である吉祥院誠一は焦っていた。


 柘榴とは一度会って、接待などされて喜ぶタイプではなさそうなので淡々と誠実に付き合うのが長く付き合うのにはよさそうだと感じたので、過度に干渉はせずに今は携帯トイレや小屋キューブーーーキューブルームと名付けられたーーーの生産を安定させることに気を取られていて見落としていた。


 誠一の娘である吉祥院舞姫は少々視野の狭い正義感を持っており、所属しているクラン【気高き秩序】もそこには少々困っている。とはいえクラン自体も柔軟性が若干低いので、ギルドは色々融通が利く【浪人業の館】に頼っている部分があり不満を持っていたりもするが……。


 そんな暴走正義娘が邪悪の権化たる柘榴のことを知ってしまったのだ。今更と思わなくもないが、流石にアレに突っかかるのはやべぇと思ったクランも舞姫の目に情報が入らない様にして、教えてもいいと思える時期を見計らっていたが若手がうっかりと漏らしてしまった。


 しかも不良探索者を天井に植えたり、顔面を耕している例の動画であった。なぜよりによってそれなのか。とクラン幹部は思ったが、後の祭りで舞姫は飛び出して行ってしまい、仕方なしに親の誠一に報告をしたという次第だった。


 舞姫は情報集めが苦手であるため、個人情報の保護に厳しくなっている現代で本人に辿り着くまで少しかかるであろう。誠一はそう半ば願いながら麗華に連絡を取って事情を説明した。


「困ったわね。一応柘榴さんには大けがさせない様にお願いしておくけれど、あの子次第では危ないわね。もう一つ手を打っておくわ」


「頼むよ、母さん!」


 日本のもう一人のトップ10ランカーの命がヤバそうであった。


次話から3章です。

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