第76話 間話・健の相談
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柘榴が咲乃家に帰ってきてしばらく経ったある日、小学校から帰ってきた健がリビングに入るとカチャカチャとパソコンを打っている柘榴と、その横で参考書を広げて頭を抱えながら問題を解いているセレスタがいた。
柘榴は本体の修復が終わっていないので、まだざくろちゃんボディのままである。探索から帰った柘榴が小さかったので、すわ何があったのかと問い詰められて、口外しないよう伝えた上でダンジョンで起こったことを話すと涙目の木葉に抱き着かれて、佳未亜と健も心から心配して柘榴を労わってくれた。
なんとなく気分が向上して報告をバックレて帰ってきたことまで口を滑らせてお説教されたことは蛇足かもしれない。
ともあれ日常に戻り相変わらず木葉の訓練のサポートをしたり、家事をしたり、KISSYOで付与をしたりと忙しくしていたが、珍しくリビングにいたので何をしているのか気になった健はパソコンの画面をのぞき込んだ。
「ただいま。何をやってんだ?」
「おかえりなさい、はげる。見ての通り確定申告です」
「た・け・る・だ!いい加減名前を覚えろよ!」
「そうでしたね。何だか3か月くらいぶりのような気がしまして」
「昨日も会っただろうが!っつーか、出会ったころまで戻んのかよ!?」
相変わらず柘榴のおもちゃにされて健が吼えるが、一応勉強をしているセレスタがいるので小声で吼えるという器用なことをしていた。
「はあ~。まあいいや。んで、確定申告っていったっけ?探索者の報酬って依頼も売却もギルドで精算するなら源泉徴収されるんじゃなかったっけ?」
「ほう!よく知っていますね。マスターにも見習ってほしいものです。とはいえ、探索者の源泉徴収も概ね還付金が出るくらいの差額がありますので申告するに越したことはないですよ。それに私がKISSYOから受けている依頼や魔道具の売買などがありますからきちんと申告しないと、ゼイムショという悪の組織がやってくるのです」
「いや、税務署は悪の組織じゃないだろ………」
3等身の柘榴がいつものように上から目線でドヤ顔しながら話してくるが、人形のような見た目なのでイラっと来るよりクスっと微笑ましさを感じる。もっとも3か月もこのゴーレムとつきあっているとその程度では動じなくなるし、24時間ずっと働いているのを見ていると素直に「ゴーレムすげーっ」と思っている。
健は冷蔵庫から桃ジュースを出してちびちび飲みながら、柘榴がカタカタとキーボードを叩きながら合間でセレスタに勉強を教えているのをしばらく眺めていると区切りがついたのかパタンとモニターを閉じた。
「それで、健は私に何か用があるのですか?」
「へっ?な、なんで?」
「珍しく視線が私のせくしいぼでーに注がれていましたので」
そう言うと柘榴はせくしぃなポーズを取ろうとした結果頭のてっぺんにも手が届かず、ただばんざいをしているだけになっていた。もちろんせくしぃではないし、なんなら凹凸どころか関節があるかも分からないぬいぐるみのようなぼでーだ。
健も勉強の手を止めたセレスタもそんな柘榴を見て、このままの方がいいかもしれないと思ったりしたのは本人には内緒だ。
「ああ、セクシーかは置いておいて、相談はあるんだ。………ちょっと前から比べると贅沢な悩みなんだけどさ。うちってちょっと前まで余裕なかったじゃんか?だから、勉強と家の手伝いばかりしてて、偶に友達と遊ぶ時も母ちゃんの負担にならない様にしてたんだ」
相変わらず見た目によらず小学生らしくない思考だなと思いつつも相槌を打って続きを促す。
「んで、柘榴のおかげで一気に生活が楽になったから友達と遊ぶ時間を増やせたのは良いんだけど、子供達の間での流行がわからなくなっちゃって………」
「貴方も子供デしょう!?」
あまりに子供らしくない物言いに思わずセレスタがツッコんだ。最近は日本語をかなり話せるようになっており、配信者デビューも果たして翻訳の魔道具を使用する機会は減っていた。配信者になりたいという思いがモチベーションになって成長が著しかった。
「子供なら鬼ごっことか缶蹴りあたりで遊べばいいのでは?」
「昭和かよっ!?今どきは公園とかで遊んでてもクレームが来るんだぜ」
「世知辛いですね。ふむ。いいでしょう。明日は貴方の友達を連れてきなさい。至高の私が満足を教えてあげましょう!」
「あ、ああ。うん」
(大丈夫かなぁ?最近の流行を教えてくれればよかったんだけど)
そう言って部屋を飛び出していった柘榴に健とセレスタは顔を見合わせて不安げにしていた。
翌日リビングでドヤ顔をした柘榴が仁王立ちしており、ネタになりそうという期待をしたセレスタがソファに座っていた。
おおよそ小学校の下校時刻を過ぎると玄関の鍵が開き複数の気配が家の中に入ってきた。
「ただいま~」
「おおっすげ~。健んち始めて来たけど広いな!」
「ふっ。ボク達を満足させると大言を吐いたようですが、はたしてこのボクを満足させられますかね」
「あっ!ちっちゃいのがいる。これがざっくか?セレスタもいる~」
リビングの扉が開くと健を含めて4人の男児が入ってきた。
「おかえりなさい、健。と、その他」
「雑ぅ!!」
「ふっ、このボクをその他扱いとは」
「あはは。動画のまんまだ~」
額に手を当てて嘆息した健は慎一、光邦、覚志を紹介すると珍しそうにしている3人にソファを勧めた。
「ふふんっ。至高の私は調べました。クソガキ共が飽きもせず遊び続けている遊戯を!」
「おい、言葉選びが最悪だ!」
柘榴の出だしの言葉に突っ込みどころが満載で思わずツッコんでしまうが、悦に入った柘榴はスルーしてそのまま説明を続ける。
「候補はいくつかありましたが、今回はこれをピックアップしました」
そう言って柘榴が掲げたのは表面に絵と説明文が描かれた、いわゆるトレーディングカードだった。それを見た子供たちは露骨にがっかりした表情になる。
「トレカなんてどんだけ出回ってると思ってんだよ」
「ふっ。所詮は至高といってもこの程度ですか」
「ふ~ん」
表情を隠すこともない子供達の反応に健の表情も曇るが、柘榴のドヤ顔は崩れることもなく先に聞いていたセレスタも楽しそうな顔のままだ。
「失望するのはまだ早いのですよ!あとこの程度とか言ったクソガキは後で〆ます」
「ひぃっ」
柘榴にガンつけられて光邦のクール感が剥がれてビビっているのを、やはり無視してテーブルに正方形のクロスを敷き、その上に更に取り出してデッキにしたトレカを乗せる。すると、ブォンとクロスが発光して平原のような立体映像が浮かび上がった。
「「「「ええっ!!」」」」
更にデッキから1枚をめくり手前に置くと2足歩行のどこかで見たような服を着たポメラニアンがカードの前に出現した。
「「「おおっ!!」」」「これってもしかしてねーちゃん?」
「はいクソ雑魚ポメシーフというカードです。このカード……名付けてDサモナーズです!」
「クソ雑魚……ねーちゃん……」
「ええ、わたクしを模したカードもあるンですの。ガンスモーキーエルフですわ」
セレスタは嬉しそうに言うと反対側にデッキを置いて1枚をめくって場に置いた。すると、そのカードの前にもスナイパーライフルを構えたエルフが現れ引き金を引く。パシュッという控えめな音がするとクソ雑魚ポメシーフにダメージエフェクトが走り、涙目で消えていく。
「「「おおおおおおっ!!」」」「ねーちゃん……」
テストプレイがてらゲームを続けていくとなんとなく知っている姿、チンピラ重戦士やスタイリッシュ魔剣士、エビフライ眼鏡や魔物などがアクションをしながらバトルをする風景に子供達は引き込まれていく。そう!柘榴が用意したのは皆の夢、リアル遊〇王であった。
「クソ雑魚ポメシーフが5体揃うと、5体を生贄にして至高のガーネットが召喚できます!」
「ねーちゃーーーんっ!!」
きゅーんと鳴き声をあげながら消えていくポメラニアンに悲しそうな声をあげる健をよそに、召喚されたゴーレムが相手陣営を吹き飛ばして決着がついた。
「あーーーっ!もうっ。ヤっぱりガーネットはずるいでスわ」
エク〇ディアみたいなやつにやられたセレスタは頬を膨らませたが、柘榴は一晩で用意したカード数百枚を置いて席を譲った。子供達はそれに群がり楽しそうにデッキを組んで遊び始めた。
その様子を見てふふんと胸を張っている柘榴の元に健が寄ってきた。
「柘榴。ねーちゃんの扱いはどうかと思うがありがとな。……でも、なんでカードまで作ったんだ?今売ってるやつじゃダメなのか?」
一晩で数百もカードを用意するなど実は自己加速が出来る柘榴でもなかなか大変であった。今一般に売り出されているトレカが使用できれば確かに楽であったが………
「Dサモナーズはカードの塗料に砕いた魔石が含まれているのです。それがフィールドクロスに掛けられた魔術と反応しているので通常のカードでは使えません。あと、フィールドクロスは他の地形や環境にも出来ますので色々試してみるといいですよ」
「へーなるほどな」
感心したように言うと健も合流して遊び始めた。
後日、セレスタが配信で取り上げると柘榴の元に玩具を取り扱う会社やトレカを取り扱う会社が押しかけてきて、実名の探索者や魔物をカード化したDサモナーズが発売されてブームとなった。しかし、新たにカードがデザインされた際に至高のガーネットは除外されていた。
後日、死んだ目で延々と様々な大きさのフィールドクロスを作る柘榴の姿があった。
偶には健回をと思いました。




