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第73話 ゴーレム、帰る

ご来店いただき誠にありがとうございます。

 ジゴイトが取り込まれてからしばらく経つが、鎖こそ輪のように周回するものだけになったが小宇宙は依然としてただ宙に浮いたままでいつもの姿に戻る様子がない。


 最初は自分達にも鎖が向けられるのではないかと警戒していた浪人達だが、しばらく経ってそれもないと分かると今度は別の心配が頭をもたげてきた。


「ね、ねぇ。あれって元に戻れるのよね?」


 心配そうな薬師寺が一番詳しそうなトリトンに尋ねるが、尋ねられた当人も困った様子で首を捻る。


「さあ?なんといっても本来あの姿こそが正体ともいえるものだからね。人の姿に戻れるかは分からないよ。ごめんね」


 監獄のことは噂話くらいでしか聞いたことがなく、本人に直接会ったことも初めてでトリトンは答えを持っておらずすまなそうな表情で答える。


「い、いえ。こちらこそ申し訳ありません」


 思いもよらず腰が低い態度に慌てた薬師寺が両手をふりながら気にしない旨を伝えていると小宇宙に変化が起きた。


にゅいんにょんぐにゅーーーんぐよんぐよんんぎょんぎょ


 最初に見せた威容を台無しにするおかしな擬音を発するSAN値が直葬されそうな動きで、横に伸びたり縦のに伸びたりヒョウタンのような形になったり回ったりと珍妙な動きを見せたかと思ったらぴたりと止まった。


 浪人達が注目する中で小宇宙は丸餅のような形になると表面を波打たせて今度は漏斗のような形となり天辺から勢いよく何かを噴き出した。


ガシャガシャンゴシャァアコンカンバサッガシャベシッーーー


 小宇宙から噴き出して地に落ちたもの。それをよく見るといくつかは見覚えのあるものもあった。それは、柘榴が所持していた魔道具や神器であった。現代地球では天面学的な価値、あるいは価値が付けられない代物が数十も転がっている。中にはトリトンの槍を防いだ絡繰大蛇ーーー全身は八首の大蛇ーーーも転がっていた。


 その様を目を丸くして見ていた浪人達の視線が魔道具の数々から小宇宙に移る。すなわちまだ本体に変化がないので何かあるのかと疑ってのことだ。そして、その予想は正しかった。


 珍妙な動きを止めている小宇宙が今ひとたび震えると配管工のジャンプポーズをした小さな人影が飛び出してきた。


「至高っ!」


 着地を決めた人影ーーーざくろちゃんーーーがポーズを決めるとその身に小宇宙と鎖が吸い込まれていき目にハイライトが灯った。


「ふふんっ!なにを間抜け面をしているのですか。この至高の私の勝利を讃えなさい」


 3等身の人形のドヤ顔と尊大な物言いに面々は顔を見合わせて、これは柘榴に間違いないというように頷くと喜色を表わした。


「柘榴さんっ!」


 薬師寺が真っ先に飛び出して人形を抱きしめる。


「なあっ!?放しなさい。肋骨が当たります」


「肋骨!?そこは胸ではないですかっ?」


 不本意そうに薬師寺が言うが軽鎧の胸当てを着けているのでどちらも触れることはない。その隙にぴょこんと薬師寺の手から逃れて絡繰大蛇の影に避難する。


 田中が避難した柘榴にまず一番重要な事柄を確認する。


「聞かせてくれないか。ジゴイトはどうなったんだい?」


「あの猿は監獄に収監しました。もう出ることは出来ません」


 大蛇のから顔だけ出して答える柘榴に薬師寺だけでなく尼子も抱きしめたくなったが、気合を入れて何とか堪える。そんな女性陣の葛藤に気づかぬまま田中は更に質問を重ねる。


「その監獄から脱獄するということはないのかい?」


「ありえません。収監されると五感と思考を奪われて時間を感じることしかできない状態になります。更に私の鎖は全ての魔力を無効化するのです。脱獄などは出来ようはずもありません」


 きっぱりという柘榴の顔を見つめながら、田中は言っている内容のエグさに顔を引きつらせる。


「確かそんなような拷問がなかったか?」


 小林が口を挿むもやはり内容にビビっているのか、いつもよりキレがなかった。


「ま、それくらいしないと超越者は封じられないしね。そんなことよりこれってどうするの?」


 超越者たちの持つ力を知っているトリトンはあっけらかんとしており、それよりも自分の部屋に散らかっている魔道具らをどうするのかの方が気になることだった。


「貴方に預けます。相応しいものがいたら授けてもいいですよ。っとその前に………」


 ちらりと田中を見るとてけてけと歩いて行き、一つの魔道具を持って来て田中に差し出した。


「これを使いなさい。先ほど剣が壊れていたでしょう。超越者の体勢を崩して見せた報酬です。ハガラズの剣。簡単に言えば氷属性の剣です」


「あ、ああ。感謝する。ありがとう」


 元のボルテックスブレイドよりも強力な魔剣を受け取りその感触を確かめるように鞘から抜いて何度か振ると納得をして鞘に納めた。田中が受け取ったと判断した柘榴は改めてトリトンに向き直り口を開く。


「そちらの品々はジゴイトを私の中に収監したせいで容量が限界を超えたため削らなければいけなくなった分です。魔道具はともかく神器はマジックバッグに入りませんし。ですので、貴方に預けることにしました。本当は私のものは主のものなので好ましくありませんが仕方がありません」


「容量?っていうかこれとか置いておかれても困るんだけど………」


 柘榴についてはよく知らないトリトンは疑問を覚えつつも、それよりも先ほど自分を侵食した呪い装備を指さしながら困った顔をする。


「はい。私の中には現在最上位の超越者が5柱と上位がジゴイトを含めて101柱収監されています。知った通り私の本来の役割は監獄であり、余ったスペースを宝物庫としていました。魔道具や神器は超越者ほど収納の魔力的リソースを必要としませんので、ジゴイトを入れたせいで限界を超えて溢れてしまいまして、あれだけの魔道具がはじき出されたという訳です」


 説明しながら棺桶のような箱を取り出して呪い装備をぽいぽい入れていき、鍵をかけて部屋の隅に置いた。ついでとばかりにボス部屋の入口前にポータルを設置して戻ってくる。


「ありがとね。あ、あともう一つ質問いいかな?」


「はい。なんでしょう?」


「その姿はなに?」


「それ!うちも気になってた!」「俺は出鱈目な生態してそうだからそういうものかと思ってた」「オレは背骨とかを無くしたんかと思ったゼ」「ビリならそういうこともありそうね」


 気になってたのは尼子位だったようだ。悪口を言った小林にはピリ辛ポーションを傷口にかけてあげたら嬉しそうに跳びまわっていた。


「これは本体が激しく損傷したので、修復が終わるまでざくろちゃんボディに意識を移しているのです」


 一通り現在の状況と柘榴の状態を把握すると、トリトンは田中達浪人と柘榴に表情を改めて口を開く。


「なるほどね。さて、一先ず区切りがついたところで、創造神様のゴーレム柘榴と人類の皆。これからボク達をこの世界に根を張る同胞として迎えてくれると嬉しい。よろしく頼むよ」


「ああ、こちらこそ。強大な脅威がいることも判った。小生達の持てる限りの力を使って平和的な仲介をしよう。そして貴方が保護する人魚族とも共に生きていきたいと思う」


 トリトンがそう言って差し出した手を田中が握り返す。その光景を他のメンバー達は感動したように見つめている………が、


「そんなことはどうでもいいから私は帰りますよ!私はもう暴走しそうです!」


 唯我独尊なゴーレムは用事は終わったとばかりに浪人達を置いて、何か布のようなものを拾うと一人で帰還陣に向けて走っていきさっさと飛び乗って転移してしまった。


 それを見ていた面々は苦笑しながらも助けられたことに感謝をして、トリトンと今後について打ち合わせを続けた。


 一方の柘榴は川崎ダンジョンの出入口に転移をすると一目散に出入口を通過してギルド内に入り、謎生物?の存在にざわついているギルド内を一切無視、引き止める声がある気もするがスルーして建物から出る。


 ギルドから出た柘榴はタクシーを捕まえて、人形のような物が乗り込んで困惑する運転手を札束ではたきながら西風荘の住所を告げて出発させた。


 そしてギルドから出たときには既に夕方になっていたので、約数時間後に西風荘へと辿り着いた時には既に夜中といってよい時間になっていた。運転手にはホテル代も支払って、しっかり領収書を受け取った。


 ぶっちゃけ今回の探索ではドロップはほぼ浪人達に渡しており、神器もいくつか壊された上に収納しきれなくなった魔道具を置いてきたので、報酬をいくばくか貰ったとしても天文学的な数字で赤字もいいとこであった。しかし、主の望みを叶える上で浪人の戦力向上にビリの加入、そして川崎ダンジョンを味方に出来たことは良い結果であったと考えている。


 木葉の気配も感知しているので家にいることは分かる。見た目は昔ながらのの鉄骨階段を昇って201号室の前に立つと愕然とした。


「手が届きません………」


 今度通信機器を用意しようと決意しながらも四つん這いになって黄昏ていると、ガチャリとノブが動く音がして扉が開いた。


「あれ、ざくろちゃん?柘榴がいたような気がしたんだけど………」


「ふふんっ!私の気配を感じ取れるとはいい成長です。褒めてあげましょう」


 尊大な口調とは裏腹に、玄関から顔を出した木葉に嬉しそうにぎゅっと抱き着いた。


「ええっ!?柘榴?その姿は何?何があったの?みんなは無事だったの?」


「マスターを堪能したら説明してあげます。ですから、今はこのままでいてください」


 意味が分からず頭に疑問符が浮かんでいる木葉に抱き着きいて顔を埋めながら言う柘榴に、まあいいかという風に微笑むと頭に手を置いた。


「冬に外にいるのは寒いからとりあえず中に入ろ」


「はい」


 そうして木葉に連れられて柘榴も部屋に入っていった。今は大切な主の元へ帰ってくることが出来た喜びが柘榴の胸を満たしていた。それがどこから来るものなのかは、まだ本人もよくわかっていない……。

2章本編終了です。

シリアス書くのがしんどかったです。

ついギャグテイストに走りそうになります。

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