第72話 静謐招く断界の監獄
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※シリアス注意
柘榴が戦闘不能になったことで浪人達とトリトンに勝ちの目が無くなった。
蹴られたダメージがまだ残っているトリトンはジゴイトが柘榴に気を取られている隙に何とか田中に近づき上級ポーションを渡した。ポーションを飲んだ田中は動けるようになり、そこに他の浪人達も集まってきた。
「ボクだけならばいいのだけど民に申し訳ないなぁ。謝ることも出来そうになさそうだ」
「HAHAHA。死んでる身体も悪くないゼ」
「状況は絶望的。それでも1分1秒でも時間を稼いで地上に伝えなければ。小生が何とか時間を稼ぐから皆は撤退するんだ」
「なに言ってんだリーダー。俺もいればもう1秒くらい稼げるかもしれないだろ」
「(。-`ω-)」
「うちもやるよ」
「お前は逃げろよ!」
「嫌よ!あんたを置いてなんていけない!」
「田中さん。最後だから言いますけど、わたしは貴方がーーー」
浪人達が盛り上がっているのをよそにジゴイトは殆ど残骸といってもよい状態の柘榴を驚愕の表情で見ていた。
ジゴイトが見据える先ーーー己の爪で切り裂いた柘榴の胸の奥に薄っすらとしたアストラル光を放つ存在が見えていた。
「ああん?これはもしかして………。なんでゴーレムなんぞにし………ん?」
アストラル光の元にーーーつまりは柘榴の胸に手を伸ばしたお猿は自分を何かが叩いていることに気づいた。あまりに弱い力なのでで叩かれているとすら感じられなかったが訝し気に思って足元を見ると3等身の人形がジゴイトの足をペシペシと叩いていた。まるで、ジゴイトから何かを護らんとするように。
「んんんぅ?なんだぁこれぇ?」
ジゴイトはこのはちゃんをつまみ上げると目の前に持ってきてじろじろと観察する。
「ああ、人形に模造人格を入れてんのか。はっ、何のためか知らねえが下らねぇことしてやがんなぁ」
目の前でがなられて木葉がそうなるであろうようにこのはちゃんも怯えながらも、なおジゴイトの手をペシペシと叩く。
それを残った右眼で観ていた柘榴はノイズが走る思考で、ギシギシとその身の亀裂を広げながらも無理矢理身体を動かそうとする。
その様を泣きそうな顔で手を伸ばそうとするこのはちゃんと柘榴を見て嗜虐的な笑みを浮かべたジゴイトは、つまみ上げていたこのはちゃんをもう片方の手でーーー握りつぶした。
ジゴイトの隔絶した腕力で握りつぶされたこのはちゃんはその体を構成する布地と綿が圧縮された挙句にはじけ飛びばらばらの破片となり開かれた手からぱらぱらと地に撒かれた。そして更に柘榴に見せつけるように踏みにじる。
その様子を目の当たりにした柘榴は呆然としていた。そして、ジゴイトに挑む覚悟を持って気炎を上げていた浪人達も、まるで人間のように感情表現をして、柘榴が大事にしていたこのはちゃんの無惨な最期に悲痛な顔をしていた。
(あれはマスターの精神を模して動く魂のない人形。それは分かっています。分かっていますが、なぜこれほどまでに空虚さを感じるのでしょうか?それに……これはマスターと出会って初めて地上に出たときにもあった精神状態?)
「ぎひぃっひひ。こんな玩具で取り乱してんのかぁ?安心しろよ。地上に出たらコレのコピー元も同じようにしてやるからよぉ」
自らの優位が揺らがぬことを確信していたジゴイトは死に体の柘榴を絶望させるために、その決定的で最悪な一言を吐いた。
(ああ!ああ!分かりました。これは怒りです。私はマスターの似姿であり私を癒してくれたこのはちゃんを壊されたことに怒りを覚えている。しかし、それよりも何よりもこの猿は何と言った。マスターを殺すといったか?そのようなことが許せるはずがないーーー監獄が溢れるかもしれない?そんなのはその時に考える。私はこの猿が存在していることが許容できない!!)
柘榴は紅い瞳を更に炎のように輝かせると、その言葉を紡ぎ始めた。
ー原初
ー是なるは世に平穏を齎すために存在する
ーすべての邪知暴虐はすべからく是を恐れ慄け
ー許されざる大罪者共よこの上なき窮余は此処にある
ー愛しき子らよ楽園へと至りし高みを見よ
ー是こそが世界に静謐を齎す不朽不滅の神器なり
ー神器顕現
ー静謐招く断界の監獄
柘榴が最後の一節を唱えると、砕かれていた破片も含めて柘榴の身体が分解されてアストラル光を発する球体だけが残された。変化はさらに進み球体が闇色に染まり子供位の大きさになると、球体の中に無数の星光が生まれた。最後に分解された柘榴であったものが数多の鎖へと再構成されて球体の周りを土星の輪のように取り囲む。
それはまるで鎖によって何かを小宇宙に幽閉しているようであった。それが監獄であるならばその認識は正しいのだろう。たとえ神だろうと悪魔だろうと出ることは能わず。そう思わせる威容をそれは兼ね備えていた。
「あ、ああ?な、なんだそれはよぉ?」
己の勘が目の前にあるそれは危険なものだと告げている。しかし、ジゴイトは己が一方的に甚振った相手に恐怖を与えられたことに矜持を傷つけられてその勘を無視してしまった。
そしてその選択はジゴイトにとって最悪のものであった。
ジゴイトの声に反応したように【監獄】の周囲の鎖が蠢き、幾本かがジゴイトに向かって伸ばされて腕の巻きついた。ジゴイトは煩わしそうに鎖を引き千切ろうと藻掻くがビクともせずにやがて表情に焦りを見せ始めた。
「んだよこれは!!クソかてぇ!い、いや、違うぞぉ。こ、これは俺様に力が入ってねぇんだ。クソッたれがぁっ!超獣技牙ー金剛獣拳!………スキルがでねぇ………!?」
自慢の腕力で千切ることも出来ず、スキルの発動にも失敗して呆然とするジゴイトに追撃をかけるように中空から生えた無数の鎖が縦横無尽に伸びてジゴイトの全身を絡めとった。
「っがぁあああああああああっ!!放せっ!放しやがれぇええええええええっ!!」
鎖に覆われたジゴイトは自らを引き込もうとする力に抗おうと藻掻くが、抵抗むなしくずるずると球体の方に引きずられていく。
それを見ていた面々は自陣の最高戦力である柘榴とトリトンに田中の3人がかりでも敗れた相手が、なすすべもなくいいようにされている様子を呆然と眺めていた。
「す、すごいな。あのジゴイトが抵抗することすら出来ないなんて。それにスキルが不発になっていたようだ。あれはいったい?」
「聞いたことがあるよ。創造神メイアリス様の最高傑作の1つ【静謐招く断界の監獄】」
「え、ええと、それはどのようなものなのかしら?」
「うん。すごく簡単に説明するよ。ボク程度だと死んじゃうこともあるんだけど最高位の超越者。それこそあのジゴイトより位階が上の存在がいるんだ。そして、そこまでの存在は不滅でね、死んでも復活するんだよ。その中でも悪意があったり、善意でも文明を混沌に沈めたりという超越者もいてね。そういう超越者を封じるために創られた捕縛者にして監獄にして看守である不朽不滅の神器。それが【静謐招く断界の監獄】だって話だよ」
トリトンの説明に自分達では見通すことも出来ない遥か天上の話に驚けばいいのか慄けばいいのか分からなくなり、そっと柘榴の方に視線を戻すとジゴイトが下半身を小宇宙に取り込まれていた。
「やめろおおおおおおおおおおおっ!俺様はもっと雑魚共を弄びたい嬲りたい殺したい虐げたい滅ぼしーーー」
絶叫して激しく抵抗をしていたジゴイトは浪人達の見守る先でその全身を小宇宙に取り込まれて、二度と姿を現すことはなかった。
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「たいんだっ!放しやがっ……………………はっ?」
小宇宙に取り込まれたジゴイトは何もない場所にいた。真っ白で音もなく何かを触れている感覚もなくただ漂っていた。
(違げぇ。何もねえんじゃなく、俺様が何も感じられてねえ。五感が働いてねぇ!身体を動かす感覚もねぇ。俺様の腕は、足は今動いてんのか?分からねぇ!なんなんだこれはよぉ!時が流れているのだけは感じる。くそがぁっ!これなら万古神獄の方がましだ!なんで俺様がこんな目に合わなきゃいけねえんだ!!ちょっと雑魚共を数億だか数兆だかぽっちくれぇ嬲り殺したくれぇだろうが!)
自身の身体すら感じることが出来ずジゴイトはただ身勝手な呪詛を頭の中で垂れ流していたが、それもやがて霧散していく。
(俺様は……何をしたい?……なんだ?……思考すら靄がかかったみてぇ……に……………………………)
思考すら封じられたジゴイトは何もない空間を、ただただ時の流れを体感することしかできないまま漂流していった。
センスが欲しいと思うこの頃です。
詠唱は呪文とかではなく柘榴の性格をやべえと思った創造主が善性を宣誓させる意味合いで設定しました。いうなれば運動会の宣誓のノリです。
詠唱の内容は其の方余の顔を見忘れたか→成敗→これにて一件落着から捏ね繰り回しました。
監獄の中は乙女座の聖闘士の奥義みたいになっているので、不死鳥の兄なら出られるかもしれません。
次話で長くなった2章本編完結です。その後は掲示板と用語解説して閑話を何話か挿んだら3章に入ります。




