第7話 ゴーレム、映す
ご来店いただき誠にありがとうございます。
前話の予約投稿を1日間違えていました。
元A級探索者であった鷹柳もゴーレムについては木や鉱石の体を持つ魔物といった認識しかなく、柘榴の正体について驚愕しており、信じられない様子であった。
(これがゴーレム?むしろ、SFのアンドロイドと言われた方が納得できるような)
驚愕から立ち直った周囲の探索者も懐疑の目を向けているが、柘榴が有象無象の視線など気にするはずもない。
まず、この騒動を修めることが先決と判断した鷹柳は、騒動の経緯を職員に説明を求める。
「君たちの中で、この騒動をはじめから見ていたものはいるかい?」
鷹柳の質問に、鈴木朔太郎27歳(略)が名乗りを上げて説明を始める。
「はい、自分が見ておりました。まず、売却精算をした咲乃様に波賀様が話しかけておられました。その際に咲乃様は怯えているように見えました」
ここまでは、ガラの悪い探索者が初心者に絡むというしばしあることだな、と鷹柳は思った。
波賀が部屋から出てくるまで、隠し部屋の件で事情を聞いていたのが鷹柳であったので波賀の素行についてはある程度把握していた。
「そして、波賀様が咲乃様に手を伸ばし、触れようとしたところでメイドの方が腕を掴みました。その後は目で追えていない部分もありましたが、鈍い音がして波賀様の腕が折れたとお思ったら、天井に刺さっておりました」
ん?と思って鷹柳は周囲を見渡すとカウンター前の天井から、下半身が生えていた。
鷹柳はこめかみを揉みほぐしながら鈴木朔太郎(略)に続きを促す。
「波賀様のお仲間2人が槍と短剣でメイドの方に攻撃を仕掛けました。槍を持った方が蹴り飛ばされて、短剣を持った方が股間を蹴り上げられまして倒れた後、竜崎様が止めようとして殴り飛ばされました」
「待ってくれ!竜崎君が倒されたのかい?」
「ええ、あそこの窓から外に飛んで行きました」
そう言って鈴木(略)は割れた窓を指さした。
その窓を見ながら、鷹柳は柘榴の危険度を上方修正する。
竜崎は名古屋第2支部に常駐している探索者の中でも、上位の実力を持っている。
「残った女性の方の頭を床に叩きつけて、そのあとは鷹柳支部長が見られたままになります」
「そうか、ありがとう」
鷹柳は鈴木に戻っていいと伝え、柘榴たちに向き直る。
なお、柘榴は暇つぶしに宝物庫から出した黄金の林檎を剥いて、木葉に手ずから食べさせていた。
「さて、柘榴さん……でいいかな?」
「下等生物ごときに至高の私の名を呼ばれるのは気にかかりますが、マスターが認めるので特別にーーそう、特別に柘榴と呼ぶことを許して差し上げます」
「ピクピク……あ、ああ、ありがとう。それでは、柘榴さん、あなたはなぜ波賀氏達を攻撃したのですか?自衛にしてはかなり過剰と思われますが」
頬を引き攣らせながら、自制心をかき集めて柘榴に問いかける。
「下等生物以下のゲ○風情が、マスターを殺しかけたからですね。万死に値しますので、きちんとトドメを刺すつもりだったんですが、マスターに止められてしまいました。今からでも殺りませんか、アレ?」
「柘榴ぉ」
木葉にトドメを勧めるが、ジト目を返されて諦める。
「それで…貴方はゲ○共からどのような話を聞かれたのですか?同じ部屋から出てこられたようですかし、おおよそ至高の私が安置されていた部屋のことでも話をされていたのでしょう」
鷹柳は自らが聴取していた話と関わるかもしれないと聞かされ、わずかに瞠目すると波賀達から聞き取りしたことを話し始める。本来なら非公開の情報であるが、その部屋にあったモノがここにいるのであれば構わないであろうという判断を自身の権限でもって下す。
「うん、彼らから聞いたことを簡単に言うと、初心者が波賀君達が止めるのも聞かず、隠し部屋に入り込み強力な魔物が現れたという事です。自分たちではその魔物は手に負えないから、初心者を助けられなかった。と」
「そ、そんな、違います!」
それを聞き、まるで反対の話に木葉は狼狽し、柘榴は冷笑した。
そんな木葉を安心させるように鷹柳は微笑みかける。
「ああ、本人がいるなら片方のいい分だけを----」
「いいでしょう!愚昧なる下等生物達にも分かりやすいように、至高の私が記録を見せてあげましょう。そうすれば、マスターに愚かな疑いなど掛けられないでしょう。柘榴ッアーーイッ!」
柘榴が鷹柳の言葉をさえぎり、目から光を発射すると、光の先に何処かの光景が浮かび上がる。
柘榴アイとはノリでつけた技名であり、効果はただのプロジェクターである。
「こ、これはっ」
さすがに人型の目から光が発射されたことに驚愕し、そこに映る光景を観察する。
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「おおっ、マジもんの隠し部屋じゃねーか。日頃の行いの賜物だねぇ」
「これはどういうこった。俺のお宝は何処にあんだよ!」
「波賀君、なんかヤベーよ!」
「ブゥオオオオオオ!」
「がはっ」
「ちくしょうっ!あんたのせいよ!あんたがこんなところに連れてきたせいで!罪滅ぼしにアタシらが逃げる間、時間を稼ぎなさい」
「きゃっ」
「待って、置いて行かないで!助けて!お願い!」
「いっ……ぎゃああああああ!痛い!痛いよっ!」
「誰か、助けて。死にたくない……」
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隠し部屋の扉があけられたところから、木葉が瀕死に陥るところまでの映像が終わると当たりはシンとして重い雰囲気に包まれた。木葉のポロリ(内臓)映像で気分が悪くなっている者もいた。
木葉も当時の自身の状態を、客観的に見せられて青ざめていた。
やがて探索者の1人がポツリと口を開く。
「こいつら、本当に屑だな。殺人未遂じゃねーかよ」
それを皮切りに他の探索者も口々に映像の話が上がる。
「こいつら他にも何かやってそうだよな」
「ギルドにも嘘の報告をしてたってことね」
「あの女を執拗に攻撃してた理由はこれか…」
「あの子を見捨てるどころか、怪物の方へ放り投げてるものね」
「他に犠牲者が出る前に、こいつら死んだ方がいいんじゃないか」
さすがに聞き過ごせない話になってきたと感じた鷹柳が、探索者達にくぎを刺す。
「これが事実なら彼らは犯罪者であるが、私刑で裁かれていいものではないよ。裁きは司法によってされるべきものだ」
強大な魔物が現れた時に、自分の命を優先することは認められているが、他者を意図的に囮にすることは犯罪となる。
鷹柳の正論に一部の探索者達がバツが悪そうにする。
しかし、波賀達の話は沈静化しても、魔物や木葉の状態の話に移り盛り上がっていく。
「つーか、あのバケモンなんだよ」
「それな。あんなの聞いたこともないし未確認の魔物か?」
「ってか、これホントのことか?あの嬢ちゃん無傷に見えるんだが」
「確かに」
「どういうことだ?」
それを聞き木葉も確かに自分は、どうやって助かったのか疑問に思っていたことを思い出す。
「ねえ、柘榴。あたしってどうやって助かったの?部屋に腕が落ちてたし、この左腕って何なの?」
柘榴は少し思案し、木葉の疑問に答えず周りを見渡して、竜崎が飛んで行った窓の方を見て、そちらに歩いていく。
唐突な行動にあっけにとられる面々をよそに、窓から外に出て人だかりが出来ている中に目的のものがあると考え、人だかりを押しのけ中心でそれを見つける。
それの足を引きずり、また窓から中に戻り木葉の前にそれを放る。
「ぐっ」
地面に放られたそれは、衝撃に呻きを漏らす。
「あれっ、この人って柘榴を止めようとした人。って、ひどい怪我じゃない!」
それーー柘榴に殴り飛ばされた竜崎は、胸当てを陥没させて荒い息を吐いていた。どうやら、肋骨が折れ、肺が破れているようだ。
柘榴の容赦のなさに、周囲の人間は恐れを抱きながら固唾をのんで成り行きを見守る。
「はい。ちょうどいい見本があるので、お見せするのがいいでしょう」
自分でやったことは棚に上げ柘榴はそう言うと、いつものごとくスカートから木葉に振りかけた緑色の液体が入った瓶を取り出し、竜崎の口に突っ込む。
竜崎が液体を嚥下すると、すぐに荒い呼吸が治まり安らかな息遣いになった。
「エリクサーです。ただし、マスターは生命活動が停止していたため、追加で蘇生薬も使用しました」
柘榴がそう言うと、その場にいる者達は一瞬静まり返り、瓶と竜崎とで視線を往復させる。
そして、、、、
「「「「エリクサーーーーーーっ!?」」」」
本日1番の叫び声が響いた。
竜崎は普通にいい人です。
そのうち救いをあげたいです。
柘榴がスカートの中から物を取り出す理由は、クラシックメイドスタイルの柘榴は肌が出ているところが顔かガーター下の絶対領域しかないからです。
作者の趣味ではありませんよ。(汗)