第69話 ゴーレム、海王と戦う
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柘榴が脱いだ。海王が目を丸くした。田中の眼鏡が曇った。薬師寺は赤くなった。小林は興奮した。尼子は小林の眼を潰した。金田は鼻血を出した。ビリはガン見している。
「え、ええ~」
戸惑った声を漏らすトリトンをよそに、柘榴は自身からいくつもの直方体が組合わさったキューブを取り出した。
「装着」
柘榴の詠唱に応えてキューブが解けると、解けたパーツが柘榴を覆い装備を身に着けた柘榴がそこにいた。
鎧というよりはプロテクターというような籠手やグリーブはいい。2個のスラスターがついた腰鎧もくびれの部分にしかないがいいことにする。しかし、ストラップレスワンピースのようなボディースーツの腹部が菱形に大きく開けており、背中も髪で隠れてるが仙骨のあたりまで空いている。辛うじて宝石のついた胸鎧はついているが、全体的に肌色成分が大きい。挙句は首輪までついており、ぶっちゃけエロい。
「え、ええぇ~」
トリトンは途方に暮れた。田中の眼鏡に罅が入った。薬師寺は茹で上がった。小林は眼を押さえて転がっている。尼子は顔を手で隠して指の隙間から見ている。金田は天に還る時が来た。ビリは小躍りした。
「それ防御機能なさそうだけど?」
恐る恐るトリトンが柘榴に指摘するが、誇らしげに胸を張って答える。
「物理は私の身体の方が頑丈なのでこれでいいのです。これが私が最も戦いやすい状態ということです。創造主も微妙な表情をしていましたが、一番いいものを頼みました!」
とりあえずまだ死ぬ時ではないらしい柘榴がトリトンに向けて飛び出して、右手を腹部に持ってくると数本の剣を取り出してトリトンに投擲する。
「なっ!?くっ」
尋常ならざる気配を発する剣をまともに受ける気にならず転がって避けると、感心したように柘榴を見据えた。
「なるほどね。それは確かに君の最適解だね。目には毒だけど」
「ふふんっ。美しさに目が潰れてしまいますか?」
体の表面から道具を取り出す柘榴にとっては、障害物がなければないほど取出口が増える。普段のメイド服では出来ない戦い方が出来るという点で柘榴にとっては最適の専用装備ということであった。常人では羞恥心から装備が出来ないので、そういう意味でもやはり専用装備である。
左手に螺旋鞭を持って振るい回避先を誘導して、右手で武器を取り出して投擲する。そうすることで近接武器のトリトンを近づかせないように戦っていた。
「なかなか嫌らしい攻撃だね。でも、僕も遠距離は出来るし、それにーーー」
柘榴の攻撃を躱していたトリトンが螺旋鞭に向かって跳び、当たる寸前に水に変化して広がった。純粋物理の螺旋鞭はそのまま水を通り抜けて目標を失い、広がった水は四方から柘榴に目掛けて迫り柘榴の目の前で地に落ちて槍を構えたトリトンの姿になった。
不意を打たれた形となる下からの攻撃に柘榴は腿から剣、槍、棘など無数の武器を出して迎撃する。
「うっとぁあああっ!!」
不意を突いて槍を突き出したはずのところに、逆に奇襲を受けた形になるトリトンは再び水になった距離を取る。そして、再び自らの身を水に変えて柘榴の側面に集まるのを感じて二の腕から武器を出したところで背後に気配が現れたことに気づいた。
「一部を分ければこういうことも出来るんだよっ!」
「いい手ですが甘いですよ」
柘榴の背後に姿を現したトリトンは全力で背中を突こうとしたところで柘榴の背中を隠す髪が盛り上がってきたことに気づく。しかし、勢いづいた槍を止めることも出来ずに、そのまま柘榴を貫く勢いで刺突を放つ。
ガキンッ!と硬質な音を立てて槍の勢いが止められた。
「くっ!槍が動かないっ!?」
武器を手放すことを躊躇したトリトンは己の選択が失敗であったことを悟る。柘榴盛り上がった髪が跳ね上がり、槍を噛んだ存在が猛烈な勢いでトリトンに突進して跳ね飛ばした。
それは端部がまだ柘榴の中にあり全長は不明であるが巨大な機械仕掛けの大蛇であった。トリトンが空中で体勢を立て直そうとしていると柘榴からもう1体が姿を現して炎を吐いた。
「ぐうっ!はあああああっ!マーレファル!」
大蛇が吐く炎をトリトンが魔法で相殺する傍ら、最初に現れた大蛇と柘榴の視線が己に向いていることに気づき顔が引き攣る。
「絡繰大蛇、凍土の息」
柘榴の命令に従い2体目が吐いていた炎が止み、冷凍ブレスが吐き出されてマーレファルを凍らせながらトリトンに迫る。
恐怖の表情を浮かべたトリトンは再び水に四方に飛び散ってなりなりふり構わずに凍土の息の範囲から逃れた。
再び集まり距離を取って息を荒げるトリトンから視線を離さず、絡繰大蛇を収納した柘榴は螺旋鞭を構える。
ここまでの戦いはS級探索者の田中ですら目で追うのがやっとで、尼子や小林には攻防の残滓から何とか何があったかわかる状態であった。
「すごいわ!本当にただエッチなだけじゃなかったのね……」
「でもえちえちよ。ね、このはちゃん」
感心しながらつぶやく薬師寺の隣で尼子が恐ろしいものを見るように戦慄して、このはちゃんの頭を撫でながら同意を求める。このはちゃんは柘榴を叱るに叱れないジレンマで難しい顔をしながら撫でられるままになっていた。
「メイルシュトローム!」
トリトンが槍から渦潮を出して柘榴を囲むが重量軽減を解いた柘榴を巻き込むことは出来ずにただその身を濡らすだけに留まった。しかし、それだけで柘榴を倒せると思っていないトリトンは続けざまに魔法を放つ。
「シュベアドナー!」
トリトンが出した渦潮ーーー海水で濡れた柘榴に幾多の雷が迫る。しかし、柘榴に触れる前に見えざる障壁に全て阻まれた。当然という顔をした柘榴の胸元では鎧に着いた宝石が明滅していた。
「魔法には弱いと思ったんだけど対策済みか~」
「当然です。これは3分を知らせる光の巨人のタイマーではありません。魔法障壁の神器です……よっ!」
誇らしげに道具を自慢しながら、再び己から取り出した武器を投げる。それを躱したトリトンが飛び退いた先に刺さっている槍を左手で掴む。
「さっきから景気よく投擲してくれるけど、相手に利用されることもあるんだよっ!」
「それも当然です。ですが、それはハズレです」
引き抜いた槍を柘榴に投げ返そうとしたところで、柘榴が槍に指を向ける。
「なに!?がっ!」
槍から不浄な何かが自分の手に潜り込んできたことに気づいたトリトンは迷わず自分の左腕を切り落とした。
「至高の私は呪われた道具も収納できますので、投擲する際は程よく混ぜるのがミソですね」
「なかなか性格が悪いなぁ」
苦笑しながら腕に水の膜を張って血を止めると再び槍を構えて突貫する。
「これで最後にするよっ!マーレアルターエゴ」
その魔法が発動されると幾百のトリトンに取り囲まれており、一斉に振りかぶった槍を投擲する。
「マーレシュペーア」
投擲された槍は渦巻く海水の槍となって柘榴を貫かんと隙間なく迫る。物理と魔法の性質を併せ持つそのスキルは胸鎧では防げないと判断した柘榴はYのような形の棒に櫛が刺さった物を取り出して掲げた。
「シストラム。起動」
神器シストラムからチャリチャリとした音が広がると水の槍が勢いを失いそのまま地面に降って水たまりになった。
「あーあ。これも防いじゃうんだ。参った参った。降参だよ」
(切り札は一応あるけど、あちらもすべてを出していないみたいだしね)
1人に戻って座り込み降参を宣言するトリトンに柘榴は構えを解かないまま問いかける。
「そうですか。それでは貴方は至高の私のしもべということですね!」
「違うよ。この世界に味方するってことだよ」
超越者として見た目よりも遥かに歳を重ねているトリトンは柘榴の戯言をあっさりと躱して、人類側に味方をすることを告げた。
それが聞こえた浪人達は喜色を浮かべて柘榴とトリトンの元へ歩いてくる。
「トリトン殿、我々の味方をしていただけることに感謝を致します」
浪人達は腰を折って敬意を示し感謝の言葉を述べる。
「ところでトリトン殿。このダンジョンで我々の中でも手練れが消息を絶ったのだが心当たりはないだろうか?」
ふと田中が川崎ダンジョンで消息を絶っていたサンマーメンを思い出して、生存に一縷の望みをかけて尋ねてみた。
「ここはダンジョンだから、それなりに死者はいるよ。ただ、この世界では最近はあまり死ぬまで無理をする人間はいないからそれなりに絞れるとは思うけど………。うーん。なにか特徴はないかい?」
「ふむ。サンマーメンの特徴というと……ああ、彼らは皆モヒカンという中央だけ立ち上がった髪型をしているんだ」
サンマーメンの人物像を思い返して特徴的なハードモヒカンを思い出したため、スタイリッシュに身振りを交えて説明すると心当たりが見つかったようで得心した顔をした。
「ああ!下層でビッグヴェノムオイスターに噛り付いて「うめぇーーーっ!これで中華街の名は川崎でいただくぜ!ついでに県庁も川崎だ!ヒャッハーッ!」って叫んでたけど、毒に当たって全滅してたよ」
田中がスタイリッシュじゃない渋い顔をして黙り込む。他の浪人達もなんとも言えない顔をして黙り込んでいた。柘榴はどうでもよさそうにしており、唯一アンデッド故に死に忌避感のないビリは爆笑していた。
「あ、ああ。情報を感謝する。ああ、感謝するよ……」
話が終わったことを見計らって柘榴がポータルの片割れを取り出してトリトンに渡すと、頭に疑問符を浮かべるトリトンに説明する。
「話をしようにも人間がここに来るのは簡単ではありませんので、ギルドとポータルで繋ぎましょう。これをどこかこの近くの安全地帯に設置してください」
「なるほどね。分かったよ」
柘榴の簡単な説明で納得したトリトンが残った腕でポータルを抱えるとへらっと笑って肯定を返したその時ーーー
「おいおいおい。海王様よぉ。こんな雑魚共と組むってこたぁ俺様らと敵対するってことでいいんだよなぁ」
和やかになった雰囲気を引き裂くように傲慢さを感じる声が響きわたった。
創造主が微妙な顔になったのは、デッサン人形がビキニアーマーもどきを着ていたからです。




