第68話 ゴーレム、深淵で対峙する
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いよいよ深淵1層ーーーかと思いきや、そこは石畳に道のように絨毯が敷かれた大広間になっていた。絨毯の先は10段ほどの階段となっており、その頂上には豪奢な玉座とも呼ぶにふさわしい椅子が備えられており、薄っすらと小さな人影が見える。
「なに?ここは謁見の間のようね」
「雰囲気からすると、どうやら最下層のボス部屋のようです。ボスはダンジョンの王といっても間違いではありませんからね」
薬師寺から漏れた感想に、柘榴が若干警戒をにじませた声で返す。声に含まれたものに気づいた浪人達はより警戒を強める。
柘榴の警戒も当然で深層のボスを越えた先ーーーつまりは深淵級のボスであり、その中での上下はあれど柘榴と同等を意味している。
深層のボスは持っている特殊能力などが相性が良かったため圧勝の雰囲気を出していたが、相性によってはそこまで油断できる相手でもない。自前のスペックだけで戦えば………であるが。
故に深淵級ボスには警戒度を跳ね上げており、相手に少しでもおかしな動きがあれば服をボロボロにしても全身から放つつもりであった。
しかし、人影はそんな柘榴の思惑に気づく風でもなく玉座から立ち上がり、無造作に歩いて距離を詰めてきた。さすがに友好的かもしれない相手に不意打ちを打つことは出来ずに柘榴は黙って様子を見守っていた。
「初めまして、この世界の人類………で、いいのかな?」
一見13~14歳くらいに見える少年は青い髪に整った容姿をしているが、貴族のような服の首元から頬に掛けて見える鱗や鮫のようなギザギザの歯が地球の人類と異なることを示していた。柘榴はショタ好きお姉さんとかが興奮しそうだなとか、どうでもいい感想を持った。
「あ、ああ。その通りだ。お初お目にかかる。小生は田中一浪という。貴殿の名を聞いてもよろしいだろうか?」
実際にエゴを見ることが初めてである田中は声に緊張をにじませて最初から遜ることはせず、しかし相手に不快感をあたえないように最低限の礼節を持って問いかけた。
「もっと気楽にしてくれてもいいよ。ボクはここのダンジョンボスのトリトン。【海王】トリトンと言うんだ」
「ここまでたどり着いた人間は初めてだよ。とはいえ君達だとまだここまで来るには実力が足りないようだ。そっちの何者か分からない人が大活躍だったね」
「っ!?全部見ていたということかな?」
モササウルス戦の視線を聞いていたので、そこまで驚きはないが本人から言われるとさすがに警戒心が表情に現れた。
田中が気づいていなさそうなので、黙っていようとしていたのだが先ほどの言葉の中で引っかかりを覚えた柘榴が口を挿む。
「えーーと、鳥豚でしたか?人間以外がここに来たということですか?」
「なんか、失礼な呼ばれ方をした気がするなぁ。………まあ、君の質問の答えは是だよ。だから、ボクは上の方で魔物を増やしてここまで誰かが調べに来ることを期待したんだ」
「なっ!?」
トリトンの言葉でここまで来た目的ーーースタンピートの原因があっさり判明したことに浪人達が驚きの声を出す。
「待ってください!それによって人に犠牲が出ることになるとは考えなかったのですか!?」
田中の責めるような問いに対してトリトンは少し困った顔をした後に厳しい顔をして口を開く。厳しい顔をしても可愛さが勝っているので迫力はないなと、また柘榴はどうでもいい感想を持った。
「下層で引き返される可能性もあったから、本当はダンジョン全体をスタンピートさせようと思ったんだ。だけど、君達この世界の人類は弱すぎるからそんなことをしたら、君達が数を減らすだけと考えて中層までにしたんだよ。それに、ここまでたどり着くことも出来ないようなら会う意味もないんだよね」
「そ、それはどういう?」
「超越者達がここに来てね。ボク達の世界の続きをしたくないかって勧誘されたんだよ」
「っ!」
浪人達は思ってもいなかった内容に絶句して立ち尽くした。その様を見ながらトリトンは話を続ける。
「ボクのいた世界は終わりを迎えた。だからといってこの世界に迷惑をかけることは本意じゃないよ。しかし、場所は言えないけれどこのダンジョンには僅かだけど人魚族の生き残りがいるからね。ボクは彼らを護ることを最優先するよ。奴らの中にはボクより強い者達もいたからさ」
トリトンの言葉の意味するところに思い至った浪人達は身を強張らせ、柘榴は即殺せるように隙を伺っっていた。
「……それは、状況によってはその超越者という者たちに与するということでしょうか?」
「……ん?ああ、超越者というのは存在の位階であって、組織とかの名前じゃないよ。奴らは名乗らなかったから侵略者とか敵とでも呼んでおけばいいんじゃないかな?ともあれ、奴らは強大だからボク単独ではどうしようもないわけさ。そのためにこの世界の人類と手を組めるか悪いけれど試させてもらったんだ」
「………それで、結論は出たのでしょうか?」
目の前に実力の読めないトリトンを持ってして己より強いといわせる敵がいる。その事実に、それと比べて今の人類で戦力になりえるのかという思考に陥りながらも交渉して目の前の存在を味方につけるしかないと決意して、田中はその考えを問う。
それに対しトリトンは面白そうな表情をして口を開くと、
「全然だめだね。お話にならないよ」
結論は否。ここから力という絶対的な指標を覆す交渉をしなければいけない。その重責に押しつぶされそうになる中で、歯を食いしばり必死に言葉を発しようとする。ーーーと、
「でも、そっちのお姉さんは桁違いだよね。人間じゃなさそうだけど何者?」
トリトンの方から希望を繋いだ。出鼻をくじかれた田中の視線がトリトンと柘榴を行き来する中で視線を向けられた柘榴がドヤ顔をしながらポーズをとる。
「ふっ!なんやかんやと聞かれたら……「すまないが今は真面目にやってくれないか」柘榴です。創造主メイアリス製至高のゴーレム【宝物庫】です」
叱られた柘榴がスンと虚無顔になって棒読みで名乗ると、トリトンの眼が大きく見開かれた。
「メイアリス様製!?創造神様の!?」
柘榴の名乗りにトリトンも驚いたが、トリトンが叫んだ肩書に浪人達も超驚いていた。
「はい。至高です」
周りの空気感を一切無視している柘榴の虚無顔に冷静さを取り戻したトリトンが、咳ばらいを一つして柘榴に話しかける。
「メイアリス様の創造したゴーレムは過去に幾度も侵略性、あるいは残虐性を持つ超越者を討伐してきた。これならば勝ち目はあるかもっ!」
「今の状況でそれは難しいでしょう。超越者ーーー深淵級を越える能力を持つ存在だけではないでしょうから、そういう相手は成長すれば人類でも戦えるとは思いますが、こちらは超越者に対抗できるのが私と貴方だけではお話になりません」
柘榴の突き放すような言葉に浪人達から何言っちゃってくれんのという視線が飛ぶが、量より質がものをいう世界において地球側に対抗できる存在が少なければ局地でしか勝利を得られないということになる。ましてや、
「このトリトンは地上での防衛は出来ませんよ。というか、このダンジョンから出られません。少なくとも戦力としては……」
「う~ん。それはそうだね。ボクはここのダンジョンマスターだから本体をここから出すことはできない」
失望を面に出さないように努めている浪人達に好感を持ったトリトンは指を2本立てて笑みを見せる。
「でもね、希望もあるよ。侵略者サイドにも世界渡りと僕みたいなダンジョンマスターがいるから、世界渡りは珍しいから地上で活動できるのはそれほどいないと思う」
「これは以前に剣崎達に説明したことですが、魔物を地上に出さなければ地上の魔力濃度が濃くならないので地上に強大な魔物が出ることはありません。そうなれば主戦場はダンジョン内になりますので、この者みたいな存在を味方にすることは無駄ではありません」
「なるほど、そういうことか!ダンジョンマスターの味方を増やせばスタンピートを起こすダンジョンが減り、味方のダンジョンで世界渡りと戦えばダンジョンマスターが戦力として見ることが出来るということか!」
どちらがより多くの味方を得るかという陣取りゲームのような状況は決して楽観できるものではない。人類一丸になって~~とかお花畑なことなど考えられないし、急激に深淵まで来れるほど人類が成長することも難しいだろう。しかし、一縷の希望が芽生えたことで浪人達はそこに向けて動くことを決めた。来年も合格はだめかもしれないと後ろ髪をひかれながら。
「さて、ではお姉さん。柘榴って言ったかな?君は【宝物庫】って言ってたけれど、戦闘型ではないよね。ならば、実力を試させてもらうよ。それで決めることにする」
ーーー君がボクに負ける程度なら手を組む意味がないよね。と、トリトンはそう言って三叉の槍を取り出して構える。
「田中達は端に行って見学していなさい。アンキーレ、護れ」
トリトンに実力を見せるしかないようなのでこのはちゃんを渡して田中達に避難をするように言うと、以前も使った11枚の盾を取り出して浪人達の守護に当たらせる。
「ふふんっ!この至高の私の実力を発揮できる専用装備を見せてあげましょう!脱衣!」
いつものごとく偉そうに胸を張ってメイド服に手を掛けると、一気にばらして脱ぎ去った。
痴女がでました。




