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第67話 ゴーレム、嘆く

ご来店いただき誠にありがとうございます。

 倒されたゴーストシップスケルトンが消えていき、その場には宝箱と魔石が残されていた。


「さて、これで帰れる………はて?次の階層の入口はどこでしょう?」


 ポータルを取り出して仕掛ける場所を探そうとして、禍々しさこそ無くなったものの未だ船の中で、次の階層の入口が見当たらないことに気づいた。


「スゲーぜ、姐さン。あのクソこえースケルトンを楽しょーに倒しちまうとは…………ヨォ!?」


「次の階層の入口は?セーフティエリアはどこにあるのです?」


 空気を読まず狼狽える柘榴に無防備に近づいてしまったビリは、いつも以上に表情のない柘榴にアイアンクローをされて顔を寄せ問い詰められて硬直していた。もし肉体があったら粗相をしていたであろう。


「わ、分からねえヨ。すまねえ姐さン。これぞ、骨折り損のくたび………ぎゃああア!」


 怯えながらもくだらないダジャレを言おうとしたビリに制裁を加えながら、その悲鳴をBGMに状況を考える。


(今のが深層深部の階層ボスで間違いないはずです。そして、それを今倒した。宝箱と魔石が落ちているので間違いありません。なのになぜ?………まさか!?この船自体が次の階層への!!)


 柘榴は次階層の入口が出ないことの理由に思い当たり崩れ落ちた。自分の想像通りであるならば、帰ることが出来ないことに思い至ったためである。


 柘榴の想像を裏付けるように禍々しさが無くなって、ただのぼろい船になった幽霊船が見かけによらない速度で進んでいるような感覚を覚えた。


「ぐぅっ!ぐぬぅう!貴方達はドロップを拾っておいてください。私は少しでも補充しておきます」


 両手をついて踏み台のような姿勢になっていた柘榴はそう言って、くるくると踊るように回りながら虚無顔のこのはちゃんを撫でたり、抱きしめてみたり、頬ずりしていた。


「ああ。分かったよ」


「な、なア。あれは大丈夫なのカ?」


「大丈夫、大丈夫。偶に……しばしば……だいたいいつもあんな感じだから」


「いつモ!?あの人形の中になんかヤバいブツでも仕込んでんのカ!?」


「下だったらヤバかったが、上だから辛うじてセーフ……いや、あれはアウト?」


「下とか上とか何のことだヨ!?というか結局ダメなんかヨ!」


 道中の奇行により耐性のついていた浪人達は言われた通り宝箱に向かって歩きながら、ビリに説明するが雑すぎてビリの中で柘榴が別の方向にヤバい奴認定されつつあった。しかし、そこにヒーローのような救世主がいた。


「(´・ω・)(/ω\)!(^^)!」


「なるほどナ。姐さんも大変だナ」


「通じてるのっ!?」


 金田のよく分からないボディランゲージによって、なぜか完璧に理解したビリはまだ回ったままの柘榴をチラ見して浪人達を追いかけていった。元冒険家の記憶を持つビリはやはり宝箱には胸がときめくのだ。肋骨しかないけれど。


 当の柘榴は回るのを止めてこのはちゃんに額を当てて何かを呟いていた。それに気づいた薬師寺が気になって耳を澄ませてみると、上位探索者の身体性能によってその内容が聞こえてきた。


「ああ!マスター!マスター!マスター!髪をトリミングしたい。食事を作ってあげたい。食べさせてあげたい。下の世話もしてあげたい。お風呂に入れてあげたい。寝かしつけてあげたい。お世話がしたいっ!笑った顔が見たい!しょぼくれた顔が見たい!怒った顔が見たい!呆れた顔が見たい!」


 聞こえてきた内容にぞっとした。一度木葉の元に帰れると思っていたことが泡になってしまい、一気にかなり精神のバランスを崩したようでメンヘラじみた状態になっていた。定時間際の当日締め切り業務追加や休日前の休日出勤決定のサラリーマンの悲哀が今なら柘榴にも理解できるだろう。


 腕の中のこのはちゃんも後の本体の未来を考えたのか絶望顔になっていた。


 しかし、木葉との関係に仄かに甘酸っぱさを感じ取ったような気がした薬師寺は、メンヘラじみた部分には目をつむりクールな顔つきをニンマリと歪ませて柘榴に話しかけた。


「ね、ねぇ。柘榴さん、貴女は咲乃さんのことが好きなのかしら?」


「…………なにを不躾に……ゴーレムが主に好意的なのは種族的性質として当然です」


「いえ、そういうのではなくて……こう、友情を感じているとか、唯一無二の相棒とか、付き合いたいとか、人生を共にしたいとかよ」


「ああ、例えば貴女が田中に向けている発情などの類ですか……。私にそんなものがあるはず……………んん?」


「発情ってーーーあわわわっ」


 直接的すぎる表現で指摘された薬師寺は目をぐるぐるさせながら慌てていて気付かなかった。柘榴が困惑の表情で何かを考えこんでいたことを。


 目の前の薬師寺(サンプル)を観察しながら、今までに主となった者達とは違い、小さくて弱っちい、それでいて絶望にも諦めない意思を持っている。高潔さというよりはただのお人好しで、むしろただのお花畑脳なのではないかと思ってしまう。そんな主を思うと柘榴の口は自然に笑みを浮かべていた。


 よくは分からないが、悪い気分ではない。先ほどまでの狂いそうな渇望も今は治まっていた。柘榴は少し、そうほんの少しだけ目の前でパニクっている薬師寺に感謝をしてもいいと思っていた。


 薬師寺が平静を取り戻してそれに気づく前にドロップを回収したメンバー達が戻ってきてしまった。


「蒼さん、柘榴さん、宝箱の中にすごい物が入っていたんですよっ!」


 戻って来て早々、尼子が興奮した様子でまくし立てて、他のメンバー達も心なしか興奮したような様子を見せていた。


 息を弾ませた尼子が見せて来たそれは1個の球であった。


「スキルオーブ!?」


 この世界でスキルはジョブに伴うスキル以外は自身の経験から獲得するものである。


 ただし、ジョブスキルはあまりに才能がないと発現しないこともある。木葉がそれにあたり、斥候のジョブスキルである斥候技を獲得していない。偵察や罠解除などもこれに含まれており、本来ゼロから覚える必要などはないもののはずであった。


 後天的なノーマルスキルについては自身の行動によって意図的に獲得も可能なスキルで、過去には死なない程度に毒を摂取し続けて毒耐性(弱)を獲得したという前例もある。しかし、その実験を行った探索者は毒を摂取し続けたため腎機能が低下してしまい、探索者を引退することになった。それほどのリスクを負って弱が付く耐性しか得られなかったので、耐性系の獲得を積極的に行う探索者はあまりいない。逆に技能系は積極的に行うものは多くいる。


 スキルオーブに対して尼子が興奮している理由は、スキルオーブで得られるスキルがジョブスキルともノーマルスキルとも異なる超常的なスキルである可能性を秘めているからである。


 過去に使用された際には念動や飛翔、果ては不老といったスキルが確認されている。噂では時間停止おじさんになることを夢見て今から「無駄無駄無駄あっ!!」と素振りしている者もいるらしい。


 ともあれスキルオーブは探索者にとってもそうでないものにとっても喉から手が出るほど欲しがる代物であり、売買価格は億より下がることはない。探索者にとっては最上位のお宝の1つであるのだ。


 そんなお宝を名残惜しそうにしながらも尼子は柘榴に差し出していた。深層ボスはほぼ柘榴一人で倒したようなものであるのでドロップの所有権など図々しくて言えたものではない。そもそも、道中からして与えられすぎであるという自覚はある。例えそれが柘榴の目的に合うものだからという理由があったとしても………だ。


 柘榴はその様子にニンマリするとオーブを鷲掴みにして取り上げた。尼子が「あっ」という声を漏らしてオーブを目で追っていた。さらに上下左右に振って見せると皆の目線がそれを追って動く。


「くくっ。売るのではなく貴方達が使うのであれば渡しましょう」


 そう言って差し出されたままであった尼子の手に無造作に置くと途端に慌てだす。


「だけどっ!?」


「確かにそれは役に立ちますが、マスターには()()使()()()を教えることにしますので不要です。依和那達は今持っているスキルも使いこなせてからでも遅くはないでしょう」


 消費期限があるものではないので持っていても損はないが、超常スキルであってもオーブ以外で獲得させることは出来る。例えば木葉はスキルにこそ現れていないが、某ゴーレムによって不老長生の特性を持ってしまっている。必要なものならば狙って取れるので、ガチャのようなスキルオーブは必ずしも必要ではないということだ。


「うん。ありがとう」


 そんなことは知らない浪人達は素直に柘榴に感謝する。例え知っていたとしても、感謝することは変わらないだろうが。


 そうこうしているうちに幽霊船の移動による慣性力を感じなくなり、壁の一角が光って開き始めた。


「さて、次は深淵ですね。この先は貴方達を護って戦う余裕などないので引き返す予定でしたが、それは不可能なようです」


「そうだね。なんとか足手まといにならない様にするよ」


 深層でも柘榴に守られなければ1か所目の大河童で全滅していたと思われるのに、それよりはるかに危険な場所である。未知であることも相まって恐怖しかないが、逃れえないのであれば腹を括るのみである。


 浪人達は英雄と呼ばれるべき資質を備えていた。浪人だけど。


時間停止おじさんには柘榴もわからされることでしょう。

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