第66話 ゴーレム、幽霊船ツアーをする
ご来店いただき誠にありがとうございます。
幽霊船の中に侵入するとランプの灯のみが照らす薄暗い廊下が続いていた。廊下には定期的に扉がつけられており船室があることが伺えた。
「一先ず手前の部屋から入ってみようか」
罠を警戒しながら扉を開くと、中は2段ベッドが2つ備えられた狭い普通の部屋となっていた。田中が一歩部屋の中に踏み込むとベッドの掛け布が跳ね上がり、パイレーツスケルトンが襲ってきた。
田中は手前の1体の剣を受けると、その力を利用して一気に部屋の外へ後退する。
「速い!それに力も強い!ボスそのものでもないのにこの強さか。金田君、奴らを押し込んでほしい!」
「ピッピッピットゥルルルル」
「今度は昔のネット回線接続になってるわ。多機能ね!」
「お前ら余裕すぎだるぅお!?」
そんな馬鹿話をしている間に金田がシールドバッシュでスケルトンを部屋に押し戻して、その隙に急いで扉を閉めた。
「あなた達、柘榴さんに影響受けすぎよ。深層の!それもボス戦の最中よ。緊張感を持ちなさい!」
「ふふっ。さすが至高の私です。しかし、太陽に手を伸ばしても貴方達が太陽になれることはないのです。地にーーー」
「柘榴さんは黙っててください!」
いつもの調子で自分を讃えつつ、ついでに尼子達に注意をしようとしたが薬師寺にさえぎられて固まった。そんな柘榴をこのはちゃんがぽんぽんと慰めている。
「ふう。追ってはこないか」
田中は閉められた扉をしばらく見張っていたが、とりあえずスケルトンが出てこないようだと判断して一息ついた。
「あのスケルトン、リーダーより膂力は強かったな」
「ホネがあるからナぁ」
「はははっ。スケルトンだけにってか?」
小林が返事をくれた方にツッコみながら振り返ると、目の前に骸骨がいた。
「………ぬひょわああああああっ!!!!」
一拍おいてようやく目の前の相手を認識して、驚きのあまり過去最高速で飛びのいた。
「しゃ、喋るスケルトン」
尼子が目の前にいる2Pカラーのパイレーツスケルトンに振るえる指を差す。
「おいおい。人を指さすのは失礼ってもんだゼ。ま、オレの心は広いから許してやるけどナ。カルシウムはたっぷりとってるからヨ」
「カルシウムを取ってるというよりカルシウムそのものですね」
「おっ!姉ちゃん分かってんナ!」
「フフフッ」「HAHAHA」
「さて、ではさようなら」
「待った待っタ!オレは敵じゃねえっテ!オレはビリービリージョー。見ての通りナイスガイだゼ」
柘榴が拳を構えたところを慌てて命乞いをして、ビッと親指で自分を差してポーズを決めて名乗る。
「グリー〇ディのパチモンみたいな名前ね。ビリでいいわね」
どこか小林のような調子のよさを感じた尼子が、ビリービリージョー改めビリに対小林対応で接する。
「ビリって……ドンケツみてぇに呼ぶなヨ~」
ちょっと悲しそうなビリの願いは当然のごとくスルーされる。
「それで、君は何者だい?」
「さア?……ちょちょちょぃ待てっテ!オレにも分かんねえんだヨ!」
田中の誰何にはぐらかすような答えを返すと、柘榴が冷たい目で腕を素振りしだしたので慌てて言い募る。
「オレももとは冒険家だったんだけどヨ。嵐で船が沈んだと思ったらここにいたんだヨ。他のやつらはカラカラとかポキポキとかしか喋らねえから寂しかったんだゼ。だから、話し声が聞こえたからヨォ」
「それってただ骨がなってるだけじゃない?貴方はどうやって声を出しているのよ?」
「あン?ん~?おあっ!?なんでオレ喋ってんだヨ!?」
「自分で驚くの!?」
しばらくビリに聞き取りをしてみても、あまり分かっていなさそうであったので、諦めて先に進もうとする。
「へ~。んじゃ、オレも一緒に行くヨ~」
「はあ!?いや、無理だろ。お前スケルトンじゃん」
「え………………?い………………、いやだい、いやだい、いやだイ!!こんな所で骨を埋められるかヨ!!」
「うわ……スケルトンが本気で手足バタバタさせてる」
幽霊船での孤独がよほど骨身に堪えたのか、渾身の駄々を披露するビリに浪人達はドン引きしていた。
「テイムすればいいでしょう。それか砕きますか?」
余計な時間を取られて不機嫌になってきた柘榴が冷たく言うと、ピタッと駄々を止めたビリが素早く小林の背に隠れてそっと覗う。さすがに倒すのは忍びないと思った田中はため息を一つついてビリに手を伸ばす。
「分かったよ。一先ず外に出るまでは小生達と行こう。その後は、ギルドと相談だね」
「ありがテェ!骨身を削って役に立つゼ!身はないけどな!」
田中の手を取ってぶんぶん振ると、ビリは先頭に立って歩き出す。
「とりあえず、この船の核に案内するゼ。伊達に長い間ここを彷徨ってないゼ」
そう言って進むビリの言葉に偽りはなく、ギミックもサクサクと解いて同類のスケルトンに接敵しても敵と見做されない性質を利用してあっさりと倒して進んでいく。これには柘榴もにっこり(無表情)であった。
もちろん船内の敵も再生するので手近な部屋に残骸を放り込んで、ドアに突っ張りをして閉じ込めた。
一度廊下からあふれんばかりのスケルトンが出現したが、柘榴が魔術で圧縮して手のひらサイズの玉にしてしまった時にはビリが怯えて金田の背から出てこなくなったので、頭蓋骨にアイアンクローをして砕くか進むか選ばせる場面があり、浪人達すらも恐怖に震え上がらせた。
元々、他者に容赦がない柘榴であるが、どうやらかなり気が急いてきて余裕がなくなってきているようであった。色々と不安はあるがメンバーの安全の為にも、ボスを倒したら一度柘榴を帰らせることを決めた。
幽霊船は帆船なので動力室などはなく、今回の核は船長室に存在するようであった。木製の扉を開けて中に入ると家具などはなく、空間が歪んでいるのか船室を広くしたような空間に胸に脈打つ石のようなものを埋め込まれた1体のキャプテンスケルトンがぽつんと立っていた。
「1体だけ?あれは上のにいたキャpーーーなっ!?」
キャプテンスケルトンは田中の声に反応したように、一足で正面に到達して田中の反応速度を持ってしても応戦が出来ない速度で襲い掛かってきた。襲い掛かってきたキャプテンスケルトンの剣は黒い靄を纏っており、触れると危なそうな雰囲気を出していた。
ギシィィィィィィッ
田中の首に刃が触れようというところでキャプテンスケルトンの剣を腕ごと螺旋鞭が絡めとると、そのまま力任せに振り回して何度も床や壁、天井に叩きつける。
「これは……見た目よりも重い!?……ゴーレムのようには見えませんし……なるほど、アレはスケルトンの見た目をしていますが幽霊船の一部ですか。それにこの靄は……これも呪詛系スキルですね。即死とアンデッド化とは質の悪いことです」
幾度か叩きつけられたときに、剣を持っていた右腕を分離して振り回される勢いのまま天井に着地して、その勢いを利用して天井を蹴り、跳びかかってくる。
キャプテンスケルトン改めゴーストシップスケルトンのやはり黒い靄を纏った引っ搔きの一撃を、柘榴はーーー棒立ちで承けた。
ばきゃんっ!!
ゴーストシップスケルトンの左腕は柘榴に当たると、あっさりと砕け散った。その結果に当人も驚いたのか左腕に顔を向けて、心なしか困惑した雰囲気を出していた。
「戦闘中によそ見とは余裕ですね。ゴーレムは素材によっては、全魔物中でも物理最硬を誇る存在です。この神珍鉄ゴーレムである私が即死の呪詛効果しか持たない勢いだけの攻撃で傷つけることが出来るわけないでしょう」
柘榴は困惑しているゴーストシップスケルトンの背に手を回してハグをすると力を込めて肋骨を軋ませていく。ゴーストシップスケルトンは柘榴のハグから逃れようと藻掻くが、柘榴の方が素の能力でも腕力が強いので逃れることが出来ないでいる。
「ベアハッグ……だと!?」
どう考えてもダンジョン探索で使われるような技ではない技が実際に使われている状況に小林が戦慄して呻く。どちらかといえば小林の反応が常識的であるが、今の自分達ではゴーストシップスケルトンの身体能力についていけないと理解している前衛組は真剣に見守っている。尼子は素直に感心して応援しており、ビリは骨を折る(物理)の光景にカタカタ全身を鳴らしていた。
「私はお前をさっさと倒して帰りたいのです!既に私の頭の中にはGET〇ILDのイントロが流れています!」
「まだ定時前ですよっ!?」
思わず敬語になった小林が叫ぶ。メインツッコみアタッカーは大変だ。
逃れることを諦めたゴーストシップスケルトンが即死を込めた頭突きや噛みつきを仕掛けるが、当然ながら柘榴に傷ひとつ与えることも出来ない。柘榴が更に込める力を強めて肋骨を砕いて、そのまま脈打つ核をも抱きつぶした。
胴体を砕かれて残った頭と下半身だけが落ちると、幽霊船から感じていた禍々しい雰囲気が消えた。
因みにゴーストシップスケルトンに斬られると確率で即死からのゾンビ化、さらに肉が落ちてのスケルトンかというグロい設定があります。今の浪人達では100%即死します。




