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第63話 ゴーレム、揉まれる

ご来店いただき誠にありがとうございます。

「さて、ではどれから回りますか?」


「なにが出るかも分からないからね。近くから時計回りでいいだろう」


 どの小神殿も見た目上は変わらなかったので、一先ず田中の案通り近くから回ることになった。相変わらず道中は魔物が出ることがなく、ひたすら黙々と歩き続けて1時間ほどで小神殿の入口にたどり着いた。


 周辺は特に変わったものもなかったので、一行は真っ直ぐ神殿の扉に向かって手をかけた。


「では、扉を開けますよ」


 先頭を買って出ていた柘榴が扉を開けて中に入り、それに浪人達も続く。全員が神殿の中に入ると扉が勝手に閉じて金田が開こうとしてもびくともしなかった。一行が改めて部屋を見回すと、校庭程度の広さの石造りの部屋が広がっていた。


「これは…ボスを倒さないと開かないパターンかしら?」


 逃走を選ぶことが出来ない状況に、よりによって深層で陥ってしまい浪人達が冷や汗を流す。


 そんな空気の中でも柘榴はマイペースに部屋の中央を眺めて指を差して浪人達を振り返る。


「あそこに魔法陣があります。おそらくあそこから出てくるのでしょう」


 柘榴の言葉に反応したわけではないだろうが、魔法陣が発光して徐々に何かが出てきていた。やがて、ソレが全身を現すと魔法陣の光はおさまった。


 1つ目の小神殿で現れたソレは2足歩行で立ち、背中に甲羅を背負い、頭頂には毛が無い生物であった。


「亀〇人ですねっ!」


「どう見ても河童だろうが!グラサンしてねえし、アロハどころか服も着てねえよっ!」


 そう。それは身の丈が4mほどあろうかという大河童であった。


「こほっ。神殿は洋風なのに河童なのね」


「さっきのさざえより強そうに感じないわね。これならうち達でもいけそうじゃない?」


 その言葉を理解したのか、ただでさえ鋭かった目つきを更に鋭くして浪人達を見据えると仕切りの姿勢をとる。


「けほっ。ああ、河童といえば相撲だね」


 と、田中が大河童の行動に納得していると、猛ダッシュで柘榴が駆けていく。


「強化ー脚力、自ら頭を差し出すとはいい心がけですねっ」


(早く決着をつけなければ拙いですね)


 柘榴はかけて勢いそのままに飛び上がると大河童に反応する暇を与えずドロップキックを顔面に叩きこんだ。


 柘榴の蹴りを受けた大河童は顔をひしゃげさせながら吹き飛んでいく。


「「「ええぇーーーーっ!」」」


 柘榴の不意打ちに浪人達から驚きの声が上がるが、構わず追撃にかかるが大河童も身体を跳ね上げて起き上がると向かってくる柘榴に拳を振るう。柘榴は急制動を掛けて、拳の間合いに入る前に踏みとどまった。


「ごほっ。駄目だっ!河童は……」


 小林が警告を言い終えるよりも早く大河童の腕が伸びる。しかし、これも身体を捻って躱しながら大河童に迫る………が。


もにゅん


 伸びた大河童が腕を曲げて柘榴の尻を揉んでいた。


もにゅもにゅなでなでぐにぐにぐに


「「「っ!?」」」


 柘榴の尻を揉みながら大河童は不思議そうに首を傾げる。その光景を見ながら浪人達は宇宙猫のような表情になっていた。


 最初は驚いていた柘榴だが、すぐにいつもの無表情に戻ると拳を握って大河童の懐に瞬間移動でもしたような速さで潜り込むと、


「性・的・嫌がらせっ!」


 見事な蛙飛びアッパーを顎に決めて大河童を宙に克ちあげた。吹き飛ばされている大河童を見据えてスカートから下層で使った異形の鞭ーーー如意螺旋鞭を取り出すと落ちてきている大河童の背中を目掛けて鞭を振るう。


「KYAAAAAAAA!!」


 振るわれた螺旋鞭の先端の刃がドリルのように高速回転すると、大河童の甲羅をあっさりと貫き胸を穿って引き戻された。


 胸を貫かれた大河童は起き上がることなく、そのままドロップアイテムを残して消えていった。


 ドロップアイテムを雑に拾った柘榴は急ぎ浪人達の元に戻る。


「前衛っつーか一人で倒してたな」


「なんだか深層っていう割にはそこまで強くなかったような?こふっ」


「そうね。柘榴さんが戦ったから、簡単に見えたっていうのもあるけれど、それでも……」


 口々に感想を言う浪人達に柘榴は手早くコップを取り出すと全員に渡す。


「コップ?なんで?」


「流水。これに少しポーションを入れて…と。急がずゆっくりと飲みなさい」


 魔術でコップに水を注ぐと浪人達に飲むように指示をする。浪人達はなんだかよく分かっていないが、確かにのどが渇いていたので口をつけると瞬く間に飲んでしまった。お代わりを求めると言われるがまま水が注がれ、またすぐに飲み干していた。


「なんだか力が湧いてくる気がするわ。このポーションはなにかしら?それとも水の方?」


 先ほどまでより力が強くなっているように感じた薬師寺が特殊なポーションなのか聞く。また、バフのような効果があるならば何故今なのかとも不思議に思っていた。


「それは、先ほどまで自覚が出来ないレベルで貴女達の力が抜けていたのです。………脱水症状で」


「え?」


 思わぬ答えで驚いた薬師寺が目を瞬かせると間の抜けた声を発した。


「あの河童が出現した瞬間から空間から一気に水分がなくなっていました。それと共に貴方達も乾いた咳をしだしましたので、手早く仕留めることにしたのです」


 初めての深層で緊張していたこともあり、柘榴に言われて初めて体の不調があったことに気づいた。


「あのまま戦っていたら5分も持たずに動けなくなっていたでしょう。おそらくあの河童の特殊能力でしょうね」


 それを聞いた浪人達は青ざめて、自分達が深層をまだ甘く見ていたことに気づいた。本人達が気づかぬレベルで毒などと違って自覚しにくい異常を与えられていて気づいたときには手遅れ。などとはあまりに凶悪すぎる。


「柘榴君、有難う。足を引っ張ってすまない」


 田中が礼を言うのを皮切りに他のメンバー達も口々に礼を言う。


「構いません。これが今マスターから私に与えられている役目です。感謝はマスターと私にすればよいのですよ」


「しっかり自分も感謝対象に入れているわね」


 謙虚さなどとは無縁の柘榴に慣れた浪人達は笑い飛ばせる余裕が出来ていた。


「この領域は貴方達が先駆者です。後進に伝えるも秘めるも好きにすればいいです。しかし、この先では観察と思考を止めないことです。中途半端な情報は己と後進を殺しますからね」


 なごんでいた浪人達も続く柘榴の言葉に気を引き締めなおした。


「それにしてもあの魔物は自我がないようでしたが、なぜ至高の尻を揉んだのでしょう?やはり、亀〇人だったのでしょうか」


「いや、違うから……。河童って尻子玉を抜くって伝承があるのよ。尻子玉を抜かれた人間は死んじゃうんだって」


 河童の行動の意味が分からず考察をしていると、尼子から突っ込みが入った。


「ああ、そんな話がありましたね。でしたらあれは生命力を抜くドレイン系か即死系のスキルなのでしょうね。私のような機物には効果がなかったようですが、生物には効果はばつぐんだというやつですね」


「言われて見ればそうよね。うちらが前面にいたら危なかったのね………。マジで下層以上に殺意が高いわ……」


 身を震わせる尼子をよそに疑問が解決してすっきりした柘榴は拾ってきたドロップを田中に渡す。それには中央神殿にあった石板のくぼみに合いそうな形の宝石と軟膏があった。


「この宝石は鍵かな?それで、こっちの軟膏は何だろう?帰ったら調べてみようか。それにしても、これで中央の神殿を開けるギミックがほぼ確定したね」


「ということは、あのクラスの敵をあと7体も倒さなければいけないのね」


 薬師寺が深刻そうな声でつぶやくと、それを聞いた柘榴は鼻で嗤う。


「ふっ。この至高の私と共にあってあの程度のモノを恐れるなど愚の骨頂です」


 その言葉は薬師寺の弱気を嘲笑するかのような響きを持っていた。しかし、言われた当の本人はぽかんとして、やがてくつくつと笑い出した。


「ふふふっ。そうね。今のわたし達には至高の味方がいるのよね」


「ようやく私の偉大さが分かりましたか。しかし、勘違いしないでください。マスターが望むからそうするだけです」


 その言葉は真実なのであろうが、世話を焼くと決めた者には過保護なほど面倒を見る性質は柘榴自身のものであろう。


「あの子には大人げないことをしてしまったわ。謝らないといけないわね」


「当然です。あの愛らしいポメラニアンに冷たく当たれるとか、どういう神経をしているのかと思いました」


「ポメラニアンって主を犬扱い……」


 やはり性格の癖が強いと薬師寺は思うが、同時にたわいのない話をして沈んでいた気分が持ち直してきているのも感じていた。そんなことを思いながら柘榴に視線を向けると、一瞬の隙にちょっと迷惑そうなこのはちゃんを顔に張り付けてすりすりしていた。


「え?ナニヤッテイルノ?」


 本当に大丈夫かなぁ。と不安になったのはここだけの話である。


ちょくちょくバトルの中で三日三晩とか七日七晩とか戦い続ける描写があったりしますけど、生理的欲求などどうなっているんだろ?と思いながら書いていた回です。

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