第61話 ゴーレム、下層ボス部屋に入る
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浪人達がモササウルスを倒し、木葉達が半魚人の群れを倒して帰路についた日から一夜明けた。
一晩休んで激闘の疲れも癒えた浪人達が香ばしい匂いに起きだしてくると、テーブルにご飯とみそ汁、野菜と焼き魚(鯖)を並べている柘榴がいた。
ダンジョン内での思わぬ贅沢に感謝をして舌鼓を打ち健啖ぶりを見せつけて朝食を終えると、手早く準備を終わらせる。一晩で修繕とメンテナンスをされた装備一式が玄関の外でトルソーに掛けられて並べられており、流石に破損した跡が残るものの機能としては不足がないレベルで修理がされていた。
そして、肝心の新規製作された金田の装備であるが、
「こ、これは、雄々しい昆虫のような角にオーラで動きそうな………って、なんでだよっ!そこはアレとかアレにするんじゃないのかよっ!」
頭を掻きむしって地団駄を踏みだす小林を、意味が分かっていない女性陣が奇妙なものを見る目で見ており、更にその光景を柘榴が含み笑いをしながら見ているのを更に田中が苦笑しながら見ているという連鎖が発生していた。
「とてもいいリアクションですよ小林。これはジョークです。イッツゴーレムジョークです。本物はこっちですよ」
柘榴が含み笑いをやめて大きめのトルソーに着けられた全身鎧と大盾を取り出して置く。
「ほうっ。これは見事なものだね」
田中が思わず感嘆をもらすほどのそれは、鎧というよりは特撮ヒーローのような見た目をしていた。全体的にはモササウルスの革を使用した素地にミスリルの装甲を付けてプロテクターのようになっており、極力可動部もパーツを細かくして装甲で覆うようにしてある。更には環境調整の付与によってどんな気候でもある程度快適に装備が出来るようにされていた。
円形の大盾も裏に鎖が巻かれていてフレイルのようにお使うことが出来るようになっている。
「これは対価で渡したはずの革が使われているね。いいのかい?」
「ふふんっ。先行投資というやつです。この先で回収できることを期待してあげますので、せいぜいマスターの役に立ちなさい」
「(`・ω・´)>」
柘榴の言葉に金田は決意の顔をして頷くと、腰を直角に折り曲げて礼をした。
「それにしてもこんなものを一晩で作り上げた上に、うちらの装備の修理までやってしまうなんてすごいわね」
「もっと褒めてもいいのですよ。とはいえ、流石に時間が足りなかったので自分を加速しましたがね」
「加速?速く動いたってことよね?」
「その認識で間違いありません。おおよそ3倍の加速をしました」
「すごいわ。それって魔術よね。うちも覚えられるの?」
柘榴の使ったという魔術があれば戦いも有利になるし、なにより勉強が倍速で捗るのだ。時間を捻出できない浪人達が興味を持たないはずがなかった。
「覚えられますが………加齢も加速しますよ」
「はい、解散、解散」
一瞬で諦めをつけると浪人達は自らの装備を装着して準備を整えて出発するばかりとなった。
そして、浪人達は邪悪の悪辣なる真の狙いに気づいた。
探索者達の防具は基本的にファンタジー寄りの厚手の服や鎧が多い。すなわち金田の特撮スーツは浪人達の中ですごく浮いていた。
しかし、着心地や性能はすこぶる良いだけに文句を言うことも出来ない。なにより、金田自身があまり気にしていなかった。
「さて、出発しようか」
「それでは、昨日手に入れたモサ艦に乗っていきませんか?あれなら貴方達が戦った時位の強度がありますから雑魚は蹴散らして進めますよ」
「ふむ。一考に値するけれど、今の小生達で下層のボスを倒せるのだろうかね?もしもの場合は助力を頼めるかな」
昨日のモササウルス戦の時のことを柘榴から聞いており、ダンジョンブレイクの原因は最下層のボスに聞くしかなさそうであるので早く先に進めるのならば行幸である。しかし、自分達の実力はまだ下層を攻略したことがないレベルであるので命綱を頼みに出来るかを確認する必要があった。
「はい。貴方達を見捨ててはマスターに嫌われてしまいます。それに、昨日の戦いを見る限りでは万全の状態であれば相性が悪くない限りは下層の攻略は不可能ではないと思いますよ」
「そうか。そう言ってもらえると心強いな。よし!行こうっ!」
「はい!」「ええ!」「おっけーだ」「ワカッタ」
田中が決断をすると、他のメンバーも異論はないようで気合の入った返事が返ってきた。あと金田はまだ日本語がおぼつかないままであった。
そして一行は水辺で模型を巨大化させると口から乗り込んだ。中は頭部と胴体で別れており、頭部は操縦室のようでコンソールと操縦桿のようなものがあった、対して胴体部は中に何もなくだだっ広い空間になっていた。
「それでは小生が操縦をさせてもらおう。皆は胴体の方にいるといいよ」
「ずるいぜ、リーダー。俺も操縦してみたいぞ」
「あ、うちも」
少し楽しみにして操縦を立候補した田中に後衛2人が異議を唱えると、一先ず順番に操縦をすることになり、何はともあれ魚竜艦は発進した。
発進してしばらくは魔物との接敵を警戒していたが、ぶつかっても無傷で蹴散らすさまを見て安心したのか、次第に様々なターンや駆動などを試していた。しかし、内部には慣性も加圧も発生しなかったので、しばらくすると操縦に飽きて普通に陸地づたいに進めた。
「この層では9割が海っていうことは、この魔道具で探索すれば多くの発見が出来るかもしれないわね」
「今回は調査ですからね。またの機会に探索しましょ、蒼さん。これがあれば銚子ダンジョンとか水辺ステージでも使えそうですしね」
「そうね。そう考えると楽しみだわ」
魚竜艦の性能を大体把握すると浪人達は最低限の警戒をしつつ、リラックスをして魚竜艦が進むに任せて時間を過ごしていた。
そして、本来であれば進行と戦闘と休憩で数週間かかるであろう道のりを僅か半日で踏破して下層最奥のボス部屋前にたどり着いた。
「さて、柘榴君のいうところである万全の状態でたどり着けたわけであるし、さっそく行ってみるとしようか」
いくぶんか緊張した面持ちで仲間を見回して言うと、仲間達も同様に緊張を見せながらも力強く頷いた。その間に柘榴はしれっとポータルを設置していた。
浪人一行は装備を再確認してボス部屋の扉に手を掛けるとゆっくりと開き、中に侵入すると部屋の内部を観察しながら武器を構える。
部屋の中は意外なことに水がなく、中央に高さ10mはありそうな巨大な棘の多い巻貝が鎮座していた。
「あれって、さざえ?」
尼子の疑問に答えるように蓋が開き軟体が噴き出して、ただでさえ10mもあったそいつは3倍の30mにもなっていた。
太い軟体の根元に巨大な縦割れの目があり、身はてらてらと粘液を光らせながら貝まで1本で伸びておりキノコのようにも見えた。
早々に浪人達を敵とみなしたさざえは身を反らすと、地面を這うように横殴りに貝を振り回した。
「っ!金田君!」
「鋼人技ー受け流し」
田中の指示を受ける前に動き始めた金田が貝の前に躍り出て、ギャリギャリ音を立てながら盾で受け流してジャンプの滑り台のように空中に誘導した。流石にスキルを持ってしても下層ボスの膂力に上空30mからの遠心力が加わった打撃を完璧に受け流す事はできず、金田も吹き飛ばされる。
金田に軌道を反らされた殻体は弧を描いて再び元の位置まで戻る。さざえはどう見ても殻体よりも軟体、しかも下部に目に見える器官があり弱点であろうと想起させられる。
アタッカーの2人がさざえの目に向けて飛び出したところで、貝が大きく震えると殻体の角から粘液を噴き出して部屋中に降り注ぐ。
「っ!結界ー障壁ー全周」
尼子は結界で自らと金田、小林を覆うと、飛び出して離れてしまっていた田中と薬師寺に視線を向ける。
さすがに上澄みの熟練探索者だけあって、致命的なダメージは避けていた。
「痛っ。これは、酸か。毒はなさそうだね」
さすがにS級の2人といえども全くの無傷ではなく、粘液を浴びた箇所が爛れていた。
「あれだけ高いところにあると妨害も出来ないし厄介ね」
「いいや、そうでもない。今の俺ならなんとか出来るから任せてくれよ」
尼子と合流して回復を受けながらつぶやいた言葉に小林が反応した。
「あのさざえの動きは反応できないほどではないから、身体強化魔術と魔闘術で強引に突破しようと思っていたのだけど、半兵衛には考えがあるんだね」
「おうよ、リーダー。ヒントは柘榴さんの動画だぜ」
田中はそのヒントでピンときたようで、戦いを見物している柘榴をチラリと見て小林に頷いた。
「分かった。それで行こう。蒼君、先程と同じ様にヤツの眼を狙って突撃する。そして半兵衛がーーーを使ったら全員で攻撃だ。他の攻撃方法を使わせる前に短期決戦をする!」
田中の指示に全員が了承して、作戦を開始した。
頭に3×3のこぶを着けたかったのですが、さざえの頭が分からなかったので諦めました。




