第60話 ゴーレムの主、集団戦をする
ご来店いただき誠にありがとうございます。
「それで、作戦はあるの?」
依和那に問われてこくりと頷くと2枚のクラフトソーサリーを見せて、作戦を話し始める。
「これは休憩用に柘榴から預かっていた障壁のカードだよ。これを相手に相対するように鶴翼に展開して迎え撃つ数を絞るの。1時間しか持たないし、多分攻撃を受ければもっと短くなると思うけどそれまでにはお兄さん達があっちを倒してくれるはず」
「全部塞ぐと全員が水中を迂回してきちゃうからね。水中を渡ってくる相手はどうするの?」
「えっ?………どうしよ~~」
急速にしおれた木葉が涙声で縋る。
「考えてなかったのね……。何かいい道具はないの?」
「う~~ん。属性地雷とインスタント小屋とテーブルセットにいつものトイレ」
「見事に休憩用品ばかりね。使えそうなのは属性地雷くらいかしら。数は?」
「地水火風と雷、氷、木が10個ずつ」
属性地雷はこれまでも何度か使ったことがあり、斥候で攻撃力が乏しい木葉の為に用意されたいくつかの魔道具の1つで、サバギンだと2,3体を巻き込むくらいの威力がある。他の武器や道具は身に着けているが属性地雷はフライングディスクくらいの大きさがあるため、普段はマジックバッグにしまってある。
とはいえ能動的に攻撃する道具ではないため、この場面では全く使えないわけではないが情勢を変えることが出来るほど効果的ではないだろう。
「わっちが川の方を受け持つっすよ。昨日覚えた魔術の出番っす。鮫羅木さんに推薦されるだけの能力を見せるっすよ!」
そこへ都斗が胸を張って山脈を主張しながら、水中の敵の受け持ちを名乗り出る。
「………分かった。都斗を信じるよ。でも、濡鴉は連れて行って」
「タンクがいるのはわっちも助かるっす」
「よし!それじゃあ作戦開始!」
作戦開始を宣言すると同時にクラフトソーサリーを起動して障壁を張る。鶴翼の陣で向かっていたサバギン達の先頭集団が勢いよく障壁にぶつかり後続がさらに続いて何体も潰されて息絶える。サバギン達は障壁の隙間に集中して、自然と鶴翼の陣から蜂矢の陣に形が変わり、川に近い個体は水中に飛び込み回り込もうとしてくる。
「よっし、それじゃいくっす!って、うわぁっ!」
都斗が動こうとしたところで、川からアゴギンが飛び出してきたのを濡鴉が防ぐ。動きを追えていなかった都斗はスヴァリンに触れ、凍って地に落ちたアゴギンを見て驚いた。
「濡鴉。ありがとっす。そのまま守っててほしいっすよ」
「wood!」
返事をして盾を構えた濡鴉の後ろで、都斗は集中して魔術回路を組む。いかに魔法職としての才能があるとはいえ魔術に触れて2日目の都斗では回路を組むのに時間を要する。むしろ、2日目で回路を組むことが出来ることが才能を示しているといえる。
「さすがに初級魔術じゃ普通にやっても一網打尽とはいかないっすけど、これを使えばっ!」
そう言って都斗が取り出したものはポメラニアンのパペットだった。パペットを右手に装着した都斗は川面にその手を向ける。
「このデザインは何とかしてほしいっすけど、強力なんすよね~~。【反響】起動!」
都斗が魔道具を起動させるとパペットの口が光を発した。
「放電ー拡散」「「「「「放電ー拡散」」」」」
都斗が放った魔術をパペットが何重にも重なった都斗と同じ声で唱えると、声だけでなく魔術も何重にもなって発動される。発動された雷の魔術は干渉しあい増幅されて川面に落ちた。
バヂィッバリバリバリバリィィィィィィッ
川面に落ちた雷は凄まじい音を立てながら広がっていき、水中にいたサバギンやアゴギンが絶命してぷかぁと浮き上がってきた。
「初級魔術でしか使えないとはいっても使い道は結構あるっすねコレ。しっかし、反復させた分だけ消費魔力が倍加されるのはしんどいっすね」
都斗はマナポーションを飲みながらぼやく。事前に試したところ都斗が現在反復できる回数は5回が限界であった。パペットの持つ能力【反響】は1回の反復ごとに倍の魔力消費が発生するので例えば5の消費がある魔術であれば5回反復すると本人が使う5の消費とは別に最初の反復で5の倍の10それが後4回倍加されて160となり、本人が消費した分と合わせて165の消費となる。
これで近辺の敵は粗方掃討出来たかと思って障壁の向こうを見たら、新たにサバギン達が川に飛び込んでるのが見えて都斗の頬が引き攣った。
「マジっすか……」
来ないでほしいなーという都斗の思いをよそに、サバギン達はズンドコと川に飛び込んでいた。
「あーーーーっ!もうっ!やってやるっすよーーーーっ!」
都斗の戦いはまだこれからだ!
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一方木葉達は障壁間を通ってくるサバギン達を倒していた。ダンジョンがいであるならば敵の死体が障害物になるが、ダンジョンの中だとドロップを残して消えてしまうため障害となりえない。
そのため、進撃の勢いを維持したまま途切れることなくサバギンが攻めてくる。
幸いなのが水棲の生態のため射手が存在せず、遠距離攻撃がモリ投げくらいであることだった。
木葉と依和那で襲ってくるサバギンを倒して、討ち漏らしをセレスタが仕留めるという戦術を取っていた。
しかし、障壁の向こうでうごめくサバギン達は数を減らすどころか増えているような気さえしていた。
「依和那、セレスタ。このままだと障壁よりもあたし達の体力が尽きちゃうよ。だから、こういうのは好きじゃないんだけど……動けなくだけするよ」
「木葉……」
『……木葉』
木葉には例え自我のない魔物であろうとわざわざ苦しめることは好ましいことではない。しかし、仲間の命と天秤にかけるような愚行をすることは今の木葉であればありえない。
そうと決まれば即行動に移して、3人でサバギンを何体か行動不能にした。あくまで障害となるように配置をして、塞いでしまわないようにしなければ全軍が都斗の方に流れかねない。
さらに氷と木の属性地雷で進める方面を更に絞って複数を一度に相手取ることがないように立ち回りっていた。しかし、それでも戦い続ければ障害物も壊され、攻撃が軽いので体力の消耗が大きい木葉と依和那、そもそもあまりスタミナのないセレスタの限界が見えてきた。
サバギン達の攻撃が掠り始めて細かな傷が増えてきたその時、サバギンをかき分けて野球帽を被ったカツオンが迫ってきていた。
走ってきたカツオンはサバギン達を飛び越えると、木葉達と狙撃手のセレスタの間に着地して一声吠えた。
「NAKAJIMAAAAAAAAAA」
「あんた実は喋れるでしょっ!」
思わずといった依和那のツッコみに反応せずに、木葉達を見てさも己が優位であるかのような傲慢さが表情のない魚顔ながら見て取れた。
しかし、
「へぇ~~~っ」「ラァッキィ~~ッ!」『うふふふふふ』
木葉達3人は思わぬ幸運に笑みをこぼしていて、恐怖や絶望の表情を思い浮かべていたカツオンは戸惑った雰囲気を発していた。
それもそのはず、
「身体強化!短剣技ー急所抜き」
「魔力推進起動!疾駆!速剣技ー隼突き」
『タラニスショット』
軍勢を率いることが驚異でしかない中層の魔物が突出したところで木葉達の相手になるはずもなく、籠手の身体強化を使った木葉のスキルと依和那の新軽鎧の機能とスキル、更にセレスタの精霊弾によって集中砲火を受けて、わざわざ倒されに来てくれたカツオンは瞬殺された。
しかし、カツオンが倒れたからと言って集結したサバギン達が消えるわけでもないので、それぞれ気力を振り絞り足止めに戻る。
カツオンによる統率と強化がなくなったサバギン達などただの上層浅部の魔物でしかないが、それでもひたすら休みなく戦っていれば疲れてくる。
疲労も限界に達していると感じ始めたころに先輩探索者たちがサバギンを殲滅して呼びに来たので、何とか全員揃って無事に探索者達の集まる場所まで撤退することが出来た。その際に都斗がずぶ濡れになっていた理由を聞いたら、いい笑顔で威嚇された。
その後は探索者たちの側も数が集まれば、ただのサバギンなどは容易に全滅させることが出来た。
「ふぃ~~、ひどい目にあったっす」
「おつかれっ!嬢ちゃんたちのおかげで死人が出ることなく乗り切れたぜ。ありがとよ」
「それはよかったですよっ!皆もお兄さん達もお疲れさまでした」
「おう!こいつらを全滅させてから新手は出てこないし少し休めそうだな」
『そうですわね。わたくしももう限界ですわ』
足止めを受け持った木葉達だけではなく、全力で逃げてきた上にそのまま大量の群れとの戦闘に入った先輩探索者たちも疲れ果てて座り込んだ。まだ、体力に余裕があるのは増援で参加した探索者たちだけだ。
「それにしても、ただ足止めだけじゃなく中層級とはいえ統率個体まで倒しちまうとは、さすが【勇者】木葉ちゃんだな」
「へ?勇者ってなんですか?」
「お?知らなかったのか?掲示板から木葉ちゃんは暴虐無人な魔王を躾ける勇者って話題が出て、当の魔王が認めたってことからネットではそう呼ばれてるんだ」
「な?な?な………?」
『それ、わたくしは耳にしたことがありますわ』
先輩探索者からの説明に呆けていた木葉が拳に力を入れて震え始めるのをよそに動画やネット大好きなセレスタが先輩探索者とおしゃべりを始めて、一応知っていたが本人には知らせない様にしていた依和那が天を仰ぐ。
「柘榴ーーーーーーーーっ!戻ってきたらお仕置きだよーーーーーーーっ!」
ダンジョンに木葉の怒声が響き、自ら噂を補強してしまっていることには気づかないでいた。
ボスがいる限り無限湧きする敵を倒し続ける簡単なお仕事。
ただし、ゲームのように摩耗しない武器と無限体力がないと相手が雑魚でも苦戦は必至ですよね。




